裏切りの剣士

ハルン

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動き出す運命

再会 1

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あれからまた6年が過ぎ私は12歳になった。この世界では15歳で成人として認められる。だが12歳になるあたりからギルドに登録が出来る用ようになる。また、その頃から許嫁などが出来始め早い者だと15歳を迎える前に結婚する者もいた。

「それでねマリア。ケビンったら私の作ったお菓子を不味いって言ったのよ!ちょっと塩と砂糖を間違えただけなのにっ!そこは嘘でも美味しいよって言ってくれても良いと思わない?」

私は今村の外れの森の近くで同い年のリリーの恋人の愚痴を聞いていた。長年両想いだった2人は数ヶ月前のケビンによる告白により恋人同士になったのだ。そんな2人は誰が見てもラブラブで幸せそうに見えたが昨日辺りから2人の纏う空気がギスギスしていた。不思議に思いリリーに話を聞いてみたらどうやらお菓子のことで喧嘩をしていたらしい。

(リリー。幾らリリーに甘いケビンでもアレだけは無理だよ。)

基本ケビンはリリーに甘い。リリーの料理はかなり不味い。そんなリリーの料理を食べてもケビンはいつも美味しいと言っている。そんなケビンが不味いと言ったお菓子。リリーはそのお菓子を昨日畑仕事から帰ってきた男性達に渡していた。リリーの料理の腕前を知らない哀れな人々は喜んで食べた。

その夜事件は起こった。
村の男達が揃いも揃って高熱で魘され腹痛を訴えたのだ。女達は息子や旦那の突然の原因不明の症状に驚き為すすべがなかった。原因を調べるうちにリリーのお菓子を食べたことが判明した。女達はリリーの料理の腕前を知っていたので決して食べないようにしていた。原因が判明した後、リリーの料理を食べた時用の薬(村の薬師が自分の経験から作っていた物。)を飲ませことなきを得た。自分だけならまだ良いが他の村人が何人も苦しんだ為ケビンは心を鬼にしてリリーに不味いと言ったのだ。

「ケビンったらっ!本当に酷いわ!」

ケビンがリリーに口を聞いてもらえなくなり落ち込んでいるのを私は知っている。何故ならケビンが数時間前畑仕事に行く前に私に相談しにきたからだ。

「でもリリー。自分が作ったお菓子で苦しんだ人もいたんだよ。リリーも自分が料理やお菓子作りがあんまり得意じゃないと知っているのに人にあげたんだ。仕方ないよ。ケビンが言わなかったら周りの人達に不味いって言われてたよ。それをケビンがたった1人不味いって言うだけで済ませたんだ。感謝しないと。それにケビンはリリーの料理を不味いなんて言ったことなかったでしょ?」
「…。本当は分かってるの。私がみんなに言われて傷つかないように自分が言うから周りには言わないようにしてくれた事。苦手なのにあげた私が悪いって分かってるの。…なのにっ…ケビンに本当の事を言われたのがショックだったのっ!頭では分かってるのに心がとても苦しくてケビンに酷いこと言っちゃったの!」

リリーは膝を抱えて泣き出した。そんな背中を私は泣き止むまで優しく撫で続けた。

「っは~。…ありがとうマリア。泣いたら色々スッキリしたわ。…本当にマリアは不思議ね。どんな辛い事も苦しい事もマリアに話すとスッキリするの。マリアは嘘やお世辞を言わないからスッと簡単に受け入れられるの。ありがとね。」
「どういたしまして。」

(嘘を言わない…か。本当の私は嘘付きの最低な人間だよ。)

「でもね。アリアは昔からみんなに頼られるけどマリア自身は誰にも頼らないから心配だわ。なんかあったら直ぐに相談にのるからねっ!」

<アタシの可愛い妹は誰からも頼られるのに自分は誰にも頼らないからアタシは心配よ。何かあったらお姉ちゃんに直ぐに相談するのよ!>

リリーの言葉に遥か昔、同じ事を言ってくれた大切なあの人が頭に浮かんだ。

「…ありがとう。それより早くケビンに謝ってきなよ。今なら畑に居るんじゃない?」
「そうね。もうすぐお昼だし休憩の時に謝るわ。そうだ!最近この近くに王都から盗賊が逃げてきたらしいわよ?王都の騎士団が追いかけてるらしいけど怖いね。早く捕まらないかな。」
「そうだね。今は小さい子供達も多いから早く捕まって欲しいね。」

そんな事を話しながら村の直ぐ横の畑に向かっていた。
その時だった。

「キャーッ!」

村から悲鳴が聞こえたのは…。




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