裏切りの剣士

ハルン

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かつての仲間達

両親

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一通りの手当や壊れた物の修復作業を終える頃には既にあたりは暗くなり始めていた。騎士団や怪我人は村で1番大きい村長の家に。他は自分の家に戻る。

「さて。マリア、村長や団長様から聞いたがお前はどうしたい?」

父が食後を終え暫くしてから聞いてきた。

「…私は。」
「私は…反対よっ!」
「母さん?」

言葉に詰まっていると母から絞り出すような悲鳴にも似た声が飛ぶ。

「私は嫌よ!マリアが私たちの元を離れるなんてっ。ねぇマリア?ここじゃダメなの?ここで私達と一緒に暮らしましょう?お母さん、あなたが傷付くなんて嫌よ。私の大切な子ですもの。」
「キャシー。」

私は母の言葉を聞きながらも心が温かくなった。前世では産まれてすぐに両親に捨てられた私は親というものがよく分からなかった。自分はいらない存在なのだと思っていた。でも母は、涙を流しながら私を心配し危険がない様に守ろうとしている。それが嬉しくて心が温かくなる。

「父さん、母さん。これから私の話を聞いてくれる?」

(話そう。私を心配してくれる大切な両親に。)

そうして私は静かに話し出した。前世の記憶がある事。かつて許されない罪を犯した事。その時に傷付けた大切な人達も生まれ変わっている事。罪を犯す事になった元凶も生まれ変わっている事。大切な人達を今度こそ守りたい事。話終わり視線をゆっくりと下に向ける。

「…マリア。顔を上げなさい。」

ゆっくりと父の声に従い顔を上げると、そこには優しい目でこちらを見る両親がいた。

「…何となく。何と無くだが感じていた。マリアは産まれた時から不思議な子だった。夜泣きもあまりせず、私達の困ることもしない。そうか、前世の記憶があるからだったんだな。」
「…わっ…私が気持ち悪く…ないっの?」
「私達が貴女を気持ち悪いなんて思うわけないでしょう?貴女は私達の大切な子供なんだから。例え、精神年齢が私達より上でも貴女は可愛い私達の子供に違いないんだから。」

視界がボヤけて両親がよく見えない。

(可笑しいな…。前世でもどんな事があっても泣いた事なんて無いのに。私、弱くなったなぁ。)

弱い事を許さなかった私。でも、この弱さはとても心を軽くする。

「マリア。大切な人を守りたいと思うならお前の好きにしなさい。お前の人生だ。お前の思うままに生きなさい。後悔しない生き方ならキャシーや俺は反対しない。」
「ありがとう。」

2人の穏やかな表情をみながら感謝した。父の言葉に踏み出せなかった一歩を踏み出せた。

(ありがとう私を生んでくれて。育ててくれて。心配してくれて。愛してくれて。両親になってくれて。)

心は決まった。後は進むだけ。
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