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1章

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「それで?ニコリアスさんはこれからどうするんですか?」
「私の事は、ニースと呼んでください。そうですね…。私は、これから一度城に戻り陛下に報告に行きます。カイルはどうしますか?」

ニースはチラリとカイルを見る。

「俺はもちろん、師匠の側にいる。強くなるまで、俺は此処を離れない」
「いや、一旦帰りなよ。王様に挨拶して来たら?」

(願わくばそのまま帰ってくれ)

そんな思いを込めながら、カイルを見る。

「………師匠、いいんですか?」
「何が?」
「俺が居なくなったら誰が家事などをするんですか?」
「だから、元々自分でやってたからそのくらい…」
「調味料や調理器具が今どこにあるか分かりますか?」
「…それは探せば」
「洗濯物を干した後、綺麗に畳んでしまえますか?」
「がっ…頑張れば!」
「食後のデザートや、おやつを作れますか?」
「うっ!」
「掃除も物を退かして、隅から隅まで綺麗に出来ますか?」
「………」

最早、何も言えない。
もうこの空間は勇者カイルに掌握されている。

「ですので、俺は此処に居ます。いいですね?」
「…はい」

返事など1つしか許されていなかった。

「ハハッ!分かりました。それでは、私はこれで失礼します。アリアさん、カイルを宜しく頼みます」

そう言って彼は颯爽と帰って行った。

「それじゃあ、食後のデザートを用意しますね」
「…うん」

デザートのリンゴは美味しかった。

後日、カイルが買い出しに街に行っている間にキッチンを見に行くが、調味料どころか調理器具一つすら見つけられなかったアリアであった。
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