【完結】姉を追い出して当主になった悪女ですが、何か?

堀多 ボルダ

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第一章 悪女と婿にしたい男性ナンバーワン

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 あの出来事から一ヶ月が経った。
妹が姉を追い出して当主の座につく、というなかなかにセンセーショナルな話は噂好きな社交界でも大きな話題になったらしい。
そして、それによりダリアは〝稀代の悪女〟として有名になったそうだ。

そうだ、というのは、あれ以来、ダリアは公の場には顔を出していないためだ。だから伝聞でしか状況はわからない。
当分引きこもり生活になるであろうことは予測していたので仕事に支障はない。ダリアにとって一番の問題は、膨大な当主の仕事だ。ダリアは毎日仕事に追われていた。準備はしていたつもりだったが、実際行うとなると予想以上の大変さだ。改めてメアリの有能さを実感する。

 前当主だった父親と母親が一度に事故で亡くなってからは、メアリとダリアの二人で領地運営をしていた。
メアリには自分は有能だとさんざん豪語したダリアだったが、実は自分は普通でしかないことをわかっている。そしてメアリが非常に優秀なこともよく知っているのだ。

 二人で領地運営と言っても、実際はメアリがかなりの仕事量をこなし、ダリアはその補佐だった。いや、補佐にはランダルというこれまた有能な人材がいる。彼は父の右腕として長く補佐を務めていた人物で、いくらメアリが有能とはいえ、父が亡くなった後に領地運営ができていたのはひとえに彼のおかげであった。
つまり、ダリアは補佐の補佐レベルでメアリと肩を並べるには程遠い。

そんなダリアがメアリと同じ量の仕事をこなすには時間をかけるしかない。休憩時間や睡眠時間を削って仕事をしているせいで、最近では目の下にクマが目立つようになってしまい、見かねたランダルに、少し休憩してきてくださいと、半ば強制的に執務室の外に追い出された。

 執務室を出たダリアがどこに行くともなく歩いていると、とあるドアの前に着いた。無意識のうちにここに足が向いていたようだ。木製のドアには可愛らしい花のレリーフがあり、ここが女性の部屋であることを知らせていた。

 ここはメアリの私室だ。この部屋の主はもういないが、部屋の中はあの日のままにしておくように指示している。
ドアを開けて中に入ると、ピンクを基調とした女性らしい壁が目に入った。必要な荷物はすべてノーバック家に運んだため、室内は閑散としている。

部屋の中心に残されたロッキングチェアに座り、ゆっくりと揺らすと、揺れに合わせて視界が上下する。
ふと、壁に不自然に残る黒いシミが目に入った。あ……、と懐かしさで思わず声が出た。
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