7 / 42
第一章 悪女と婿にしたい男性ナンバーワン
2-02
しおりを挟む
マクレディ伯爵家は王都の西隣に領地を持つ。外洋に面し、この国で一番大きな港を所有しているため、他国との交易の中心地となっている。
王都からも近いため、マクレディ領の領都はこの国では王都に次ぐ規模で、ここは国内でも上位に入る豊かな領地だ。
一方、ノーバック子爵領は、海に面しておらず、林業が主な資源となっている。マクレディ領と比べれば遥かに小さく、経済もマクレディ領に頼っている状態だ。
二つの領は隣り合っていることもあって、昔から交流がある。
小さい頃からときどき、ノーバック子爵家当主は二人の息子ヘンリーとクライドを連れてマクレディ伯爵家へ訪ねて来ていた。
そして当主二人が仕事をしている間、子どもたちは一緒に遊んで過ごしていた。
最初は四人でお茶を飲みながら話をしたりするのだが、ダリアとクライドはすぐに飽きて、二人で庭を走り回っていた。そんな様子をメアリとヘンリーは笑顔で見ている、というのがいつものパターンだ。
そんな生活が数年続き、小さかった子どもたちも少しづつ成長していき、状況も変わってきた。
メアリとヘンリーが恋仲になったのだ。
二人で庭のベンチで語り合っている姿は微笑ましく、ダリアとクライドはもちろん、使用人や周囲の人間も皆、温かい目で見守っていた。
ただ一人、マクレディ伯爵家当主、トレッド・マクレディを除いては。
この国では、跡継ぎは男性や長子でなければならないということはなく、女性や長男以外が継ぐことも多い。
誰が継ぐかはその家の方針によるところが大きく、跡継ぎ候補全員の中から年齢や性別を問わず一番優秀な者を跡継ぎと決めている家もある。
マクレディ伯爵家はメアリとダリアの二人姉妹。男の兄弟はいない。父であるトレッドは、どちらかが婿をとって家を継ぐようにと、二人に同じように当主となるための勉強をさせていた。
結果として、トレッドはメアリを跡継ぎに決めた。
それに関してダリアは悔しいとかという気持ちは全く起きなかった。ダリアもがんばって勉強していたので、多少残念という気持ちも無くはない。だが、姉の有能さを身近で見てきたダリアにとって、自分の力が姉の足元にも及ばないことは身に身に沁みてわかっていた。
跡継ぎはメアリに決定したが、トレッドはそれを対外的には秘密にし、それを私達にも厳命した。
跡継ぎが正式に決まってしまうと、婚約の申込みが殺到するからだ。
領地を持つ伯爵家への婿入りは、跡継ぎ競争に破れた男性貴族にとっては喉から手が出るほど欲しい地位である。まして、マクレディ領は国内有数の栄えた領地なので、高位貴族からの申込みも珍しくない。
トレッドは、マクレディ伯爵家にとって最も有効な相手との政略結婚を画策していたのだ。
ところが次期当主のメアリがよりによってノーバックの次期当主と恋仲になってしまった。格上どころかマクレディ領のおこぼれで生活しているような弱小子爵家である。
トレッドは激怒してノーバック子爵家の屋敷への出入りを禁止した。
メアリはひどく落ち込んでいたが、顔には出さず気丈に振る舞っていた。周囲の人間はそれに気付いてはいたが、当主の命令は絶対である。何もできずただ見守ることしかできなかった。
王都からも近いため、マクレディ領の領都はこの国では王都に次ぐ規模で、ここは国内でも上位に入る豊かな領地だ。
一方、ノーバック子爵領は、海に面しておらず、林業が主な資源となっている。マクレディ領と比べれば遥かに小さく、経済もマクレディ領に頼っている状態だ。
二つの領は隣り合っていることもあって、昔から交流がある。
小さい頃からときどき、ノーバック子爵家当主は二人の息子ヘンリーとクライドを連れてマクレディ伯爵家へ訪ねて来ていた。
そして当主二人が仕事をしている間、子どもたちは一緒に遊んで過ごしていた。
最初は四人でお茶を飲みながら話をしたりするのだが、ダリアとクライドはすぐに飽きて、二人で庭を走り回っていた。そんな様子をメアリとヘンリーは笑顔で見ている、というのがいつものパターンだ。
そんな生活が数年続き、小さかった子どもたちも少しづつ成長していき、状況も変わってきた。
メアリとヘンリーが恋仲になったのだ。
二人で庭のベンチで語り合っている姿は微笑ましく、ダリアとクライドはもちろん、使用人や周囲の人間も皆、温かい目で見守っていた。
ただ一人、マクレディ伯爵家当主、トレッド・マクレディを除いては。
この国では、跡継ぎは男性や長子でなければならないということはなく、女性や長男以外が継ぐことも多い。
誰が継ぐかはその家の方針によるところが大きく、跡継ぎ候補全員の中から年齢や性別を問わず一番優秀な者を跡継ぎと決めている家もある。
マクレディ伯爵家はメアリとダリアの二人姉妹。男の兄弟はいない。父であるトレッドは、どちらかが婿をとって家を継ぐようにと、二人に同じように当主となるための勉強をさせていた。
結果として、トレッドはメアリを跡継ぎに決めた。
それに関してダリアは悔しいとかという気持ちは全く起きなかった。ダリアもがんばって勉強していたので、多少残念という気持ちも無くはない。だが、姉の有能さを身近で見てきたダリアにとって、自分の力が姉の足元にも及ばないことは身に身に沁みてわかっていた。
跡継ぎはメアリに決定したが、トレッドはそれを対外的には秘密にし、それを私達にも厳命した。
跡継ぎが正式に決まってしまうと、婚約の申込みが殺到するからだ。
領地を持つ伯爵家への婿入りは、跡継ぎ競争に破れた男性貴族にとっては喉から手が出るほど欲しい地位である。まして、マクレディ領は国内有数の栄えた領地なので、高位貴族からの申込みも珍しくない。
トレッドは、マクレディ伯爵家にとって最も有効な相手との政略結婚を画策していたのだ。
ところが次期当主のメアリがよりによってノーバックの次期当主と恋仲になってしまった。格上どころかマクレディ領のおこぼれで生活しているような弱小子爵家である。
トレッドは激怒してノーバック子爵家の屋敷への出入りを禁止した。
メアリはひどく落ち込んでいたが、顔には出さず気丈に振る舞っていた。周囲の人間はそれに気付いてはいたが、当主の命令は絶対である。何もできずただ見守ることしかできなかった。
21
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします
水都 ミナト
恋愛
伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。
事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。
かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。
そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。
クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが…
★全7話★
※なろう様、カクヨム様でも公開中です。
さよならをあなたに
キムラましゅろう
恋愛
桔梗の君という源氏名を持つ遊君(高級娼婦)であった菫。
たった一人、州主の若君に執着され独占され続けて来たが、
その若君がとうとう正妻を迎える事になった。
と同時に菫は身請けをされるも、彼の幸せを願い自ら姿を消す覚悟を決める。
愛していても、愛しているからこそ、結ばれる事が出来ない運命もある……。
元婚約者としての矜持を胸に抱き、彼の人生から消え、そして自らの人生をやり直す。そんな菫の物語。
※直接的な性描写はないですが行為を匂わす表現が作中にあります。
苦手な方はご自衛ください。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる