【完結】姉を追い出して当主になった悪女ですが、何か?

堀多 ボルダ

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第一章 悪女と婿にしたい男性ナンバーワン

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 それから数年。公式にはまだ発表していないが、メアリは次期当主として立派に成長していた。ダリアもメアリの補佐という形で仕事を手伝っていた。
メアリの結婚相手はまだ決まっていない。トレッドが吟味に吟味を重ねて探しているため、なかなか決まらないのだ。

 そんなとき、マクレディ伯爵夫妻が事故で亡くなった。
あのときのことは、ダリアは正直あまり覚えていない。ショックが大きすぎたため何もできず、部屋の隅でずっと座っていただけだった。
すべてを処理したのはメアリだった。メアリもショックを受けていたはずなのに、そんなことはおくびにも出さずすべての処理を完璧にこなした。

ダリアが気づいたときには全部終わっていた。何もできずにすべてメアリにやらせてしまったことを知ったときは、泣いてメアリに謝った。そんなダリアをメアリは「これからは私があなたを守る。あなたがいてくれてよかった」と優しく抱きしめた。


 両親の死から数ヶ月たち、生活もだいぶ落ち着いてきた。
メアリは当主として毎日忙しく働き、ダリアも姉の補佐として頑張っていた。

そのうちにダリアには「父が亡くなったのだから、姉はヘンリーと結婚できるのではないか」という黒い考えが浮かぶようになった。

ヘンリーには弟がいる。ノーバック家は弟のクライドに継いでもらってヘンリーをマクレディ伯爵家の婿に迎えることはできないだろうか。

亡くなった父は好きだったし、父のマクレディ伯爵領をより繁栄させたいという気持ちも理解できる。だが正直なところ、今は亡くなった父より毎日懸命に働いている姉のほうが大切だ。

ヘンリーとの結婚は許さなかったが、なんだかんだで父は私達姉妹にとって良い父親だった。姉の今の働きを見ればきっと父も許してくれるはず。なにより姉の辛そうな顔をこれ以上見ていたくない。

メアリに提案をしたら首を横に振られた。
「お父様が許さないわ」
メアリの表情は硬かった。

ダリアは自分の考えが間違っていたことにようやく気づいた。

実際は逆だったのだ。父が亡くなったことで、父の言葉は遺言となり姉の心をより縛り付けてしまっていた。
父が生きていた時のほうがまだ可能性があったのだ。父を説得することができたかもしれない。父が心変わりをしてヘンリーを認めてくれたかもしれない。でも亡くなってしまった今は、その言葉は永遠に覆せない。これはもう呪縛だ。

このままだと、姉は心を殺したまま父の言っていた条件にあった男性を見つけ、婿に迎えるだろう。それは姉が望んだ結果ではある。しかし、不器用な姉がヘンリーへの恋心を忘れるにはまだかなりの時間がかかるだろう。そんな状態で婿を迎えても良い関係など築けるはずもない。何より婿に来てくれた相手に失礼だ。

それなら、ヘンリーを連れてきて無理やり婿に据えるか。いやそれもだめだ。父が反対していたヘンリーでは、父の呪縛は弱まるどころか強くなってますます姉を苦しめる。どれを選んでも全員が不幸になる未来しか見えない。
姉がマクレディの当主でいる限り。

「それなら、私がマクレディの当主になればいい」

ダリアはまっすぐにクライドを見つめた。

「私が当主になりたいから邪魔な姉を無理やり追い出したというていで、有無を言わせずお姉様をノーバック家に嫁がせればいいと思ったのよ。
お姉様にかけられた呪縛はお姉様の心がかけたもの。お姉様自身でしか解けないのに肝心のお姉様が解くことを拒絶している。
お姉様が解けないのなら、私が無理やり解くしかない。今度は私を恨むかもしれないけど、それでもいいわ。私は生きているんだもの」
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