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第四章 悪女と誘拐
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まずは、ここがどこか調べよう。ダリアは立ち上がり、目を凝らして薄暗い周囲を見渡した。
古い建物だ。石の外壁に木製の屋根が乗っているだけの簡素なもので、建物内に壁で区切られた部屋は存在せず、建物の中がだだっ広い一つの部屋だ。民家ではなく倉庫なのかもしれない。
天井を見上げれば、木製の屋根。ボロボロでところどころが壊れ穴が開いていて、隙間から青空が見えた。明かりのない室内では、そこから入ってくる太陽光が唯一の灯りだ。夜になればここは真っ暗になるだろう。
「使われていない倉庫かしら。こんな大きな倉庫があるのは港? マクレディ港かしら?」
マクレディの名前を冠するその港は、領内で一番大きな港だ。それだけに周辺には倉庫が立ち並ぶ。
立ち止まって鼻と耳に神経を集中すると、かすかに潮の香りと波の音がした。間違いない、港周辺の使われていない倉庫だ。
場所の見当はついたので、ジェーンの隣に座り直した。ジェーンは縄を解いてからずっと、下を向いたまま黙って膝を抱えて座っている。
不安で仕方がないのだろう。なんとか無事に帰してあげたい。
「ジェーンさん、大丈夫? もしよかったら、お互い少し情報交換をしましょう」
ジェーンは少しだけ目線をダリアに向けると、また下を向いてしまった。
「いろんなことが起こってつらいのはわかるわ。でも何が起こっているのかお互い状況把握だけはしておいたほうがいいと思うの。まず、私から今わかっていることを話すわね」
ジェーンが下を向いたまま、黙ってうなずくのを見てダリアは話し始めた。
「まずは、私のことから。さっきも言ったけど、私の名前はダリア・マクレディ。このマクレディ領を収めるマクレディ伯爵領の当主よ。聞いたことがないかしら?姉を追い出して当主になった稀代の悪女。あれが私よ」
ジェーンが不安にならないようわざと明るく言う。
「それで、私達を誘拐した犯人だけど、おそらく、この前捕まえた密輸団の残党だと思うわ。私を攫ったとき、そばにいた私の補佐に言っていたの。こいつを返してほしかったら俺たちの仲間を開放しろ、って」
ジェーンの体が小さく震えた。
先日、マクレディ港で暗躍していた大きな密輸団を検挙した。
その密輸団は海を隔てた隣国の密輸団と結託し違法な薬物を密輸していたが、捕まえた密輸団の中に、隣国の密輸団のボスの弟がいた。
さっそく隣国に連絡をすると、隣国密輸団のボスは弟を可愛がっており、捕まったと知ればどんな手段を使っても取り戻そうとするだろう、との報告を受けた。
「だから、交渉の切り札である私達を殺すことはないはずよ」
自分が狙われることも予測して気をつけていたのに、犯人はダリアが一人になった一瞬を見逃さず誘拐した。
自分の詰めの甘さに苛立つが、まずはこの場を切り抜けることを考えないといけない。
「この場所は、おそらくマクレディ領の港にある倉庫。移動時間から考えてマクレディ港近くだと思うわ。ここは私の領地よ。あなたのことは必ず助けるわ。だから安心して」
ジェーンが下を向いたまま小さくうなずいたのを確認して、ダリアはジェーンに訊ねた。
「ジェーンさんは、どこで攫われたのかしら? ご一緒の方は? 付添の使用人や馬車は無事かしら?」
少しの沈黙の後、ジェーンは下を向いたままポツリポツリと小さな声で話し始めた。
「……私が一人で馬車を降りて歩いていたところを攫われたので、使用人と御者は多分私のことを探していると思います」
ジェーンが反応を示してくれたことに嬉しくなり、ダリアは思わずジェーンの両手を握った。
「そう! それならきっとまた会えるわ!」
ジェーンは、自分の両手を強く握ったダリアの手首が傷だらけになっているのを見て、小さく悲鳴を上げた。
ジェーンの目線が自分の手首に向かっているのを感じ、ダリアは両手を振りながら答える。
「さっき自分の縄をナイフで切るときに失敗しちゃって。血は出てるけど傷は浅いから心配しないで」
ジェーンは目に涙を浮かべながら小さな声で「ごめんなさい」とつぶやいた。
「え? いいのいいの。ジェーンさんは悪くないわ。わたしが不器用なだけだから」
ダリアはジェーンの肩をポンポンと叩く。
「ただ助けを待つのは性に合わないわ。できることはやりましょう」
古い建物だ。石の外壁に木製の屋根が乗っているだけの簡素なもので、建物内に壁で区切られた部屋は存在せず、建物の中がだだっ広い一つの部屋だ。民家ではなく倉庫なのかもしれない。
天井を見上げれば、木製の屋根。ボロボロでところどころが壊れ穴が開いていて、隙間から青空が見えた。明かりのない室内では、そこから入ってくる太陽光が唯一の灯りだ。夜になればここは真っ暗になるだろう。
「使われていない倉庫かしら。こんな大きな倉庫があるのは港? マクレディ港かしら?」
マクレディの名前を冠するその港は、領内で一番大きな港だ。それだけに周辺には倉庫が立ち並ぶ。
立ち止まって鼻と耳に神経を集中すると、かすかに潮の香りと波の音がした。間違いない、港周辺の使われていない倉庫だ。
場所の見当はついたので、ジェーンの隣に座り直した。ジェーンは縄を解いてからずっと、下を向いたまま黙って膝を抱えて座っている。
不安で仕方がないのだろう。なんとか無事に帰してあげたい。
「ジェーンさん、大丈夫? もしよかったら、お互い少し情報交換をしましょう」
ジェーンは少しだけ目線をダリアに向けると、また下を向いてしまった。
「いろんなことが起こってつらいのはわかるわ。でも何が起こっているのかお互い状況把握だけはしておいたほうがいいと思うの。まず、私から今わかっていることを話すわね」
ジェーンが下を向いたまま、黙ってうなずくのを見てダリアは話し始めた。
「まずは、私のことから。さっきも言ったけど、私の名前はダリア・マクレディ。このマクレディ領を収めるマクレディ伯爵領の当主よ。聞いたことがないかしら?姉を追い出して当主になった稀代の悪女。あれが私よ」
ジェーンが不安にならないようわざと明るく言う。
「それで、私達を誘拐した犯人だけど、おそらく、この前捕まえた密輸団の残党だと思うわ。私を攫ったとき、そばにいた私の補佐に言っていたの。こいつを返してほしかったら俺たちの仲間を開放しろ、って」
ジェーンの体が小さく震えた。
先日、マクレディ港で暗躍していた大きな密輸団を検挙した。
その密輸団は海を隔てた隣国の密輸団と結託し違法な薬物を密輸していたが、捕まえた密輸団の中に、隣国の密輸団のボスの弟がいた。
さっそく隣国に連絡をすると、隣国密輸団のボスは弟を可愛がっており、捕まったと知ればどんな手段を使っても取り戻そうとするだろう、との報告を受けた。
「だから、交渉の切り札である私達を殺すことはないはずよ」
自分が狙われることも予測して気をつけていたのに、犯人はダリアが一人になった一瞬を見逃さず誘拐した。
自分の詰めの甘さに苛立つが、まずはこの場を切り抜けることを考えないといけない。
「この場所は、おそらくマクレディ領の港にある倉庫。移動時間から考えてマクレディ港近くだと思うわ。ここは私の領地よ。あなたのことは必ず助けるわ。だから安心して」
ジェーンが下を向いたまま小さくうなずいたのを確認して、ダリアはジェーンに訊ねた。
「ジェーンさんは、どこで攫われたのかしら? ご一緒の方は? 付添の使用人や馬車は無事かしら?」
少しの沈黙の後、ジェーンは下を向いたままポツリポツリと小さな声で話し始めた。
「……私が一人で馬車を降りて歩いていたところを攫われたので、使用人と御者は多分私のことを探していると思います」
ジェーンが反応を示してくれたことに嬉しくなり、ダリアは思わずジェーンの両手を握った。
「そう! それならきっとまた会えるわ!」
ジェーンは、自分の両手を強く握ったダリアの手首が傷だらけになっているのを見て、小さく悲鳴を上げた。
ジェーンの目線が自分の手首に向かっているのを感じ、ダリアは両手を振りながら答える。
「さっき自分の縄をナイフで切るときに失敗しちゃって。血は出てるけど傷は浅いから心配しないで」
ジェーンは目に涙を浮かべながら小さな声で「ごめんなさい」とつぶやいた。
「え? いいのいいの。ジェーンさんは悪くないわ。わたしが不器用なだけだから」
ダリアはジェーンの肩をポンポンと叩く。
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