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第四章 悪女と誘拐
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ダリアたちがマクレディ伯爵家屋敷に戻ると、応接室には訳もわからないまま連れてこられたワイアット伯爵がいた。
ジェシカが事件の関係者だと判明した時点で、ワイアット伯爵家の御者にワイアット伯爵を連れてくるように指示を出していたのだ。
ワイアット伯爵は、クライドの姿を見ると安心したように表情を緩めた。
「クライド殿、あなたならジェシカのことをよく知っているだろう。ジェシカはこんなことをする子ではない。嵌められたに違いないんだ」
ところが、クライドはにこりともせず、冷たい眼差しを伯爵に向けたままだ。
ダリアは伯爵とジェシカをにソファに座らせると、向かい合うように自分もソファに座った。隣にはクライドが不機嫌そうに座る。
伯爵への説明はクライドが行った。捕まっていたダリアはまだ事件のすべてを把握していないためだ。
はじめのうちは静かに聞いていた伯爵だったが、ジェシカが絡んでいることが明らかになると「そんな話が信じられるか!」と撥ねつけた。だが、ジェシカ専属のメイド、ジェシカを乗せてきた馬車の御者が次々と証言していくと、頭を抱えた姿勢で動かなくなった。
倉庫では激高していたジェシカも、場所を変え、父親の顔を見たら観念したようで、大人しくなり、顛末をポツリポツリと語り始めた。
昨日、クライドの休みが翌日だと知ったジェシカは、クライドをお茶に誘ったが、当主代理の仕事があるからと断られた。いつものように。
夕方にクライドが女性に人気のお菓子を購入しているのを見かけ、もしかして明日の休みは仕事ではなくマクレディ領に行くのではと考えてしまい、そうなると居ても立ってもいられなくなってしまった。
反対するメイドを「不安だから確認するだけ」と説得して、朝早く屋敷を出てマクレディ領へ向かう通り道に馬車を隠して停め、張り込んでいた。
ジェシカ自身、考えすぎだと思っていた。
だって、クライド様は当主代理の仕事だと言っていた。お菓子を買ったくらいであの悪女と結びつけるなんて心配性にも程がある。張り込んでいたところで、目の前を通るとは限らない。安心したいだけだ。少しここで張り込んで、「ほらやっぱりクライド様は通らない、私の考えすぎだった」と納得して帰ろうと思っていた。
なのに。なのに。クライド様が目の前を通っていった。彼はリュックを背負っていた。馬の振動に合わせ、リュックの蓋が上下する。そこからピンクのリボンがちらりと見えたような気がした。あれは昨日クライド様が買っていたお菓子の包装だ。一瞬だったから見間違いだったのかもしれない。でも、ジェシカにはもうそうとしか思えなくなっていた。
ジェシカにとって、クライドに嘘をつかれた悲しみより、ダリアに対する怒りが強かった。
姉を追い出してマクレディ領を自分のものにするだけじゃ飽き足らず、クライド様まで手に入れようとするのか。先日出席したフォックス公爵家のお茶会でも、ソニキュア様がダリアを糾弾するものだと思っていた。なのに、ソニキュア様はダリアと仲良く歓談をし、最後には認めていた。
悔しかった。クライド様もソニキュア様も、どうしてあんな悪女に入れ込むのかわからない。自分が大好きなものを手に入れるあの女が許せなかった。
「だから、ダリアを攫って痛めつけようと?」
クライドの声は怒りに満ちている。
「少し怖がらせようと思っただけで、傷つけるつもりはなかったの」
小さな声でジェシカは反論した。
ジェシカにとってクライドは、いつも優しくて真面目な男性だ。怒るどころか不機嫌な様子を見せたことすらない。ジェシカの誘いを断るときも、申し訳無さそうに謝ってくれる。ジェシカだけでなく、どの女性の誘いにも乗らず平等に一定の距離をおいて丁重に扱ってくれる。そんなところが誠実だと言われ、令嬢たちから結婚相手にと望まれていた。
初めて見る彼の怒りにジェシカは泣きそうになっていた。
同じようにダリアも驚いていた。
ダリアと出席した夜会では、ダリアをエスコートしたことでクライドも辛辣な言葉を投げかけられたが、その時も笑顔を崩すことなく涼しい顔で受け流していた。
先程、倉庫でジェシカの胸ぐらをつかんだことといい、ここまで怒りをあらわにしているクライドをダリアは初めて見る。ダリアも戸惑っていた。
ジェシカが事件の関係者だと判明した時点で、ワイアット伯爵家の御者にワイアット伯爵を連れてくるように指示を出していたのだ。
ワイアット伯爵は、クライドの姿を見ると安心したように表情を緩めた。
「クライド殿、あなたならジェシカのことをよく知っているだろう。ジェシカはこんなことをする子ではない。嵌められたに違いないんだ」
ところが、クライドはにこりともせず、冷たい眼差しを伯爵に向けたままだ。
ダリアは伯爵とジェシカをにソファに座らせると、向かい合うように自分もソファに座った。隣にはクライドが不機嫌そうに座る。
伯爵への説明はクライドが行った。捕まっていたダリアはまだ事件のすべてを把握していないためだ。
はじめのうちは静かに聞いていた伯爵だったが、ジェシカが絡んでいることが明らかになると「そんな話が信じられるか!」と撥ねつけた。だが、ジェシカ専属のメイド、ジェシカを乗せてきた馬車の御者が次々と証言していくと、頭を抱えた姿勢で動かなくなった。
倉庫では激高していたジェシカも、場所を変え、父親の顔を見たら観念したようで、大人しくなり、顛末をポツリポツリと語り始めた。
昨日、クライドの休みが翌日だと知ったジェシカは、クライドをお茶に誘ったが、当主代理の仕事があるからと断られた。いつものように。
夕方にクライドが女性に人気のお菓子を購入しているのを見かけ、もしかして明日の休みは仕事ではなくマクレディ領に行くのではと考えてしまい、そうなると居ても立ってもいられなくなってしまった。
反対するメイドを「不安だから確認するだけ」と説得して、朝早く屋敷を出てマクレディ領へ向かう通り道に馬車を隠して停め、張り込んでいた。
ジェシカ自身、考えすぎだと思っていた。
だって、クライド様は当主代理の仕事だと言っていた。お菓子を買ったくらいであの悪女と結びつけるなんて心配性にも程がある。張り込んでいたところで、目の前を通るとは限らない。安心したいだけだ。少しここで張り込んで、「ほらやっぱりクライド様は通らない、私の考えすぎだった」と納得して帰ろうと思っていた。
なのに。なのに。クライド様が目の前を通っていった。彼はリュックを背負っていた。馬の振動に合わせ、リュックの蓋が上下する。そこからピンクのリボンがちらりと見えたような気がした。あれは昨日クライド様が買っていたお菓子の包装だ。一瞬だったから見間違いだったのかもしれない。でも、ジェシカにはもうそうとしか思えなくなっていた。
ジェシカにとって、クライドに嘘をつかれた悲しみより、ダリアに対する怒りが強かった。
姉を追い出してマクレディ領を自分のものにするだけじゃ飽き足らず、クライド様まで手に入れようとするのか。先日出席したフォックス公爵家のお茶会でも、ソニキュア様がダリアを糾弾するものだと思っていた。なのに、ソニキュア様はダリアと仲良く歓談をし、最後には認めていた。
悔しかった。クライド様もソニキュア様も、どうしてあんな悪女に入れ込むのかわからない。自分が大好きなものを手に入れるあの女が許せなかった。
「だから、ダリアを攫って痛めつけようと?」
クライドの声は怒りに満ちている。
「少し怖がらせようと思っただけで、傷つけるつもりはなかったの」
小さな声でジェシカは反論した。
ジェシカにとってクライドは、いつも優しくて真面目な男性だ。怒るどころか不機嫌な様子を見せたことすらない。ジェシカの誘いを断るときも、申し訳無さそうに謝ってくれる。ジェシカだけでなく、どの女性の誘いにも乗らず平等に一定の距離をおいて丁重に扱ってくれる。そんなところが誠実だと言われ、令嬢たちから結婚相手にと望まれていた。
初めて見る彼の怒りにジェシカは泣きそうになっていた。
同じようにダリアも驚いていた。
ダリアと出席した夜会では、ダリアをエスコートしたことでクライドも辛辣な言葉を投げかけられたが、その時も笑顔を崩すことなく涼しい顔で受け流していた。
先程、倉庫でジェシカの胸ぐらをつかんだことといい、ここまで怒りをあらわにしているクライドをダリアは初めて見る。ダリアも戸惑っていた。
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