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第四章 悪女と誘拐
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三人のやり取りを考え込みながら眺めていたダリアは、三人の目線が自分に集まったことに気付き、顎に当てていた手を降ろした。
考えるために宙をさまよわせていた視線を三人に順に移した後、ゆっくりと口を開いた。
「決めたわ。今回の件は無かったことにします」
「なんで!」
抗議の声をあげたのはクライドだった。
「君をあんな目にあわせたのに無罪放免にするのか!」
「結果だけみれば、密輸団の残党を全員逮捕できただけで他に被害は無いのよね。……私の誘拐を除けばね」
ダリアはワイアット伯爵の前で視線を止める。
「ですから、私達への口止め料兼慰謝料として、ワイアット伯爵領との取引をすべて見直させてもらうわ。もちろんノーバック領のもね」
「はあ?」
クライドが呆れたような声を上げたが、ダリアは無視をして話を続ける。
「まずは、ワイアット伯爵領の小麦ね。うちで毎年まとめて買い入れているけど、今年は不作と聞いたからうちに優先的に回して。金額も勉強してもらうわ。あとは……」
次々と要求を並べるダリアをクライドは唖然とした顔で見つめる。
ワイアット伯爵も呆然としたままだ。
「ほら、クライドも。こんな機会はもうないわよ」
クライドを振り返るダリアは笑顔を浮かべているが、その目には自身の決定を曲げない強い意志が見えた。
クライドは頭をガシガシ掻くと
「あーもう、わかったよ!」とヤケクソのように言った。
「ダリアが決めたのなら、それに従う。ノーバックの要求は……」
クライドは当主代理としての顔になり、ワイアット伯爵と向き合った。
二人からの要求はしばらく続き、ワイアット伯爵がますます憔悴していった。
空が暗くなり始めた頃、ようやく話はまとまり、ワイアット伯爵とジェシカは帰ることになった。
ダリアとクライドからの容赦ない条件に真っ青を通り越して白くなっている伯爵と、青ざめた顔で黙って下を向いたままのジェシカは、最後に改めて謝罪をして馬車に乗り込んだ。
馬車のドアを閉める直前、クライドは「ああ、ちょっと待って」と声をかけた。
「伯爵、ゴミがついてますよ」と、笑顔で馬車の中に上半身だけ体を入れた。
「あ、ああ、すまん」
ワイアット伯爵が、クライドのいつもの笑顔に安心したように礼を言った。
瞬間、クライドは笑顔を消し、低く冷酷な声で囁いた。
「いいか、今日はダリアが許したからこれで勘弁してやる。次は無いから覚えておけ。どんな手段を使ってでもお前らを潰してやる」
二人は気づいた。ダリアが許しても、クライドは全く自分たちを許していないことを。
ワイアット伯爵は昔から貴族社会にも領地運営にもあまり興味がない。現状維持ができればいいと思っている。
そんな彼の耳にも入ってきたのが、クライドの名前だ。
気難しいと噂される公爵家の前当主に気に入られ、子爵家子息ながら「孫娘がいたら婿にしたかった」と言わしめるほどの人物。
過去に、ワイアット伯爵もクライドに助けてもらったことがあるが、あのときも一介の子爵家子息では考えられない人脈を使っていた。
そんな彼なら、弱小なワイアット伯爵家など潰すことも不可能ではないだろう。
クライドの射殺さんばかりの視線に二人は体が硬直しながらも、なんとか頷いた。
「二度と顔を見せるな」
二人を睨みつけ、ドアを閉めた。
考えるために宙をさまよわせていた視線を三人に順に移した後、ゆっくりと口を開いた。
「決めたわ。今回の件は無かったことにします」
「なんで!」
抗議の声をあげたのはクライドだった。
「君をあんな目にあわせたのに無罪放免にするのか!」
「結果だけみれば、密輸団の残党を全員逮捕できただけで他に被害は無いのよね。……私の誘拐を除けばね」
ダリアはワイアット伯爵の前で視線を止める。
「ですから、私達への口止め料兼慰謝料として、ワイアット伯爵領との取引をすべて見直させてもらうわ。もちろんノーバック領のもね」
「はあ?」
クライドが呆れたような声を上げたが、ダリアは無視をして話を続ける。
「まずは、ワイアット伯爵領の小麦ね。うちで毎年まとめて買い入れているけど、今年は不作と聞いたからうちに優先的に回して。金額も勉強してもらうわ。あとは……」
次々と要求を並べるダリアをクライドは唖然とした顔で見つめる。
ワイアット伯爵も呆然としたままだ。
「ほら、クライドも。こんな機会はもうないわよ」
クライドを振り返るダリアは笑顔を浮かべているが、その目には自身の決定を曲げない強い意志が見えた。
クライドは頭をガシガシ掻くと
「あーもう、わかったよ!」とヤケクソのように言った。
「ダリアが決めたのなら、それに従う。ノーバックの要求は……」
クライドは当主代理としての顔になり、ワイアット伯爵と向き合った。
二人からの要求はしばらく続き、ワイアット伯爵がますます憔悴していった。
空が暗くなり始めた頃、ようやく話はまとまり、ワイアット伯爵とジェシカは帰ることになった。
ダリアとクライドからの容赦ない条件に真っ青を通り越して白くなっている伯爵と、青ざめた顔で黙って下を向いたままのジェシカは、最後に改めて謝罪をして馬車に乗り込んだ。
馬車のドアを閉める直前、クライドは「ああ、ちょっと待って」と声をかけた。
「伯爵、ゴミがついてますよ」と、笑顔で馬車の中に上半身だけ体を入れた。
「あ、ああ、すまん」
ワイアット伯爵が、クライドのいつもの笑顔に安心したように礼を言った。
瞬間、クライドは笑顔を消し、低く冷酷な声で囁いた。
「いいか、今日はダリアが許したからこれで勘弁してやる。次は無いから覚えておけ。どんな手段を使ってでもお前らを潰してやる」
二人は気づいた。ダリアが許しても、クライドは全く自分たちを許していないことを。
ワイアット伯爵は昔から貴族社会にも領地運営にもあまり興味がない。現状維持ができればいいと思っている。
そんな彼の耳にも入ってきたのが、クライドの名前だ。
気難しいと噂される公爵家の前当主に気に入られ、子爵家子息ながら「孫娘がいたら婿にしたかった」と言わしめるほどの人物。
過去に、ワイアット伯爵もクライドに助けてもらったことがあるが、あのときも一介の子爵家子息では考えられない人脈を使っていた。
そんな彼なら、弱小なワイアット伯爵家など潰すことも不可能ではないだろう。
クライドの射殺さんばかりの視線に二人は体が硬直しながらも、なんとか頷いた。
「二度と顔を見せるな」
二人を睨みつけ、ドアを閉めた。
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