37 / 42
第五章 悪女と結婚
1-02
しおりを挟む
「なんだみんな賛成なら問題ないね」あっけらかんとクライドが言う。
「ちょっと待って、私は賛成していない」
「何が不満なのさ。イケメン、騎士団員として将来有望、当主たちからの信頼も厚い、ノーバック家当主代理としてすでに仕事はこなしているから君の補佐もできる、非の打ち所のない完璧な婿なのに」
「そういうことじゃなくて。あなたはいいの? 私が相手よ? 嫌われまくっている稀代の悪女よ?」
「いいに決まっているだろ。俺は君が好きなんだから」
満面の笑みを浮かべてのたまうクライドにダリアは言葉を失った。
固まっているダリアを見て、ランダルはニッキーにダリアにもお茶を入れるように命じた。
やがてダリアの前に温かい紅茶が出される。
「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着いて」クライドが軽い調子で言う。
ダリアは無言でティーカップを手に取る。
いろいろ思うところも言いたいこともあるが、今はとりあえずお茶を飲む。一口飲んだら少し落ち着いた。
それを見てクライドが話しを続けた。
「うちの兄とメアリとの結婚は、君がメアリを家から追い出す、という暴挙で終わったけど、ノーバック家としてもトレッド様から出入り禁止にされてからいろいろ考えていたんだよ」
「暴挙って」ダリアは不服そうに口をとがらせる。
「出入り禁止になってすぐくらいかな、兄がね、メアリと結婚したいからトレッド様に認めてもらえるようがんばりたいって家族の前で宣言したんだよ。だから父が、メアリが結婚するまでという条件を設けて、それまでは思うようにやっていい、その代わり、メアリが他の男性と結婚したら、すっぱり諦めて他の女性を娶ることを考えなさい、と。
自己主張をあまりしない兄がそこまでいうのは本当に珍しいから、両親と俺は協力していたわけ」
初めて聞く内容に、ダリアは驚いた。
「兄は、マクレディ領の経済に頼り切っているノーバック領の現状を見直して認めてもらう作戦をとることに決めてね。
今まではノーバックのものは近くて需要の多いマクレディ領に納めるのが普通で、実際、運送の手間を考えると、多少値を下げてもマクレディ領に納めるのがお得だったんだけど、それを他の領へも販路を広げて、マクレディへの依存度を減らしていたんだよ」
それにはダリアも気づいていた。ここ数年、ノーバックから入ってくる木材の量が減り、マクレディ領内でも価格が上昇しているのだ。
マクレディ領は発展した豊かな領だが、それは交易によるものが大きい。山地や農地は少ないため、農作物や木材などは自領だけではまかないきれず、他領から買い付けることが多い。ノーバック領は場所も近く輸送コストも抑えられるため、マクレディ領での取扱量が多くなってしまうのは当然だ。
トレッドは、ノーバック領をマクレディに頼り切っていると怒っていたが、実際はマクレディもノーバック領に頼っているのだ。
「俺が王都で当主代理として動いていたからノーバックの次期当主は俺じゃないかと勘ぐっている人もいるみたいだけど、俺は兄に協力して王都で根回しをしているだけで、実際領地を走り回っていたのは兄だから、領民にとって次期当主は兄以外にはいないと思うよ」
クライドは必死だった兄の様子を思い出して、目を細めた。
「そんな簡単に領内の状況を変えられるわけもないんだけど、それでも数年かけて少しづつ上向いていたんだよ」
クライドはそこでコーヒーを一口飲んで続けた。
「そんなときに、トレッド様と奥様が亡くなったという話を聞いて」
ダリアの体が一瞬こわばった。
「ちょっと待って、私は賛成していない」
「何が不満なのさ。イケメン、騎士団員として将来有望、当主たちからの信頼も厚い、ノーバック家当主代理としてすでに仕事はこなしているから君の補佐もできる、非の打ち所のない完璧な婿なのに」
「そういうことじゃなくて。あなたはいいの? 私が相手よ? 嫌われまくっている稀代の悪女よ?」
「いいに決まっているだろ。俺は君が好きなんだから」
満面の笑みを浮かべてのたまうクライドにダリアは言葉を失った。
固まっているダリアを見て、ランダルはニッキーにダリアにもお茶を入れるように命じた。
やがてダリアの前に温かい紅茶が出される。
「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着いて」クライドが軽い調子で言う。
ダリアは無言でティーカップを手に取る。
いろいろ思うところも言いたいこともあるが、今はとりあえずお茶を飲む。一口飲んだら少し落ち着いた。
それを見てクライドが話しを続けた。
「うちの兄とメアリとの結婚は、君がメアリを家から追い出す、という暴挙で終わったけど、ノーバック家としてもトレッド様から出入り禁止にされてからいろいろ考えていたんだよ」
「暴挙って」ダリアは不服そうに口をとがらせる。
「出入り禁止になってすぐくらいかな、兄がね、メアリと結婚したいからトレッド様に認めてもらえるようがんばりたいって家族の前で宣言したんだよ。だから父が、メアリが結婚するまでという条件を設けて、それまでは思うようにやっていい、その代わり、メアリが他の男性と結婚したら、すっぱり諦めて他の女性を娶ることを考えなさい、と。
自己主張をあまりしない兄がそこまでいうのは本当に珍しいから、両親と俺は協力していたわけ」
初めて聞く内容に、ダリアは驚いた。
「兄は、マクレディ領の経済に頼り切っているノーバック領の現状を見直して認めてもらう作戦をとることに決めてね。
今まではノーバックのものは近くて需要の多いマクレディ領に納めるのが普通で、実際、運送の手間を考えると、多少値を下げてもマクレディ領に納めるのがお得だったんだけど、それを他の領へも販路を広げて、マクレディへの依存度を減らしていたんだよ」
それにはダリアも気づいていた。ここ数年、ノーバックから入ってくる木材の量が減り、マクレディ領内でも価格が上昇しているのだ。
マクレディ領は発展した豊かな領だが、それは交易によるものが大きい。山地や農地は少ないため、農作物や木材などは自領だけではまかないきれず、他領から買い付けることが多い。ノーバック領は場所も近く輸送コストも抑えられるため、マクレディ領での取扱量が多くなってしまうのは当然だ。
トレッドは、ノーバック領をマクレディに頼り切っていると怒っていたが、実際はマクレディもノーバック領に頼っているのだ。
「俺が王都で当主代理として動いていたからノーバックの次期当主は俺じゃないかと勘ぐっている人もいるみたいだけど、俺は兄に協力して王都で根回しをしているだけで、実際領地を走り回っていたのは兄だから、領民にとって次期当主は兄以外にはいないと思うよ」
クライドは必死だった兄の様子を思い出して、目を細めた。
「そんな簡単に領内の状況を変えられるわけもないんだけど、それでも数年かけて少しづつ上向いていたんだよ」
クライドはそこでコーヒーを一口飲んで続けた。
「そんなときに、トレッド様と奥様が亡くなったという話を聞いて」
ダリアの体が一瞬こわばった。
21
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします
水都 ミナト
恋愛
伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。
事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。
かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。
そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。
クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが…
★全7話★
※なろう様、カクヨム様でも公開中です。
さよならをあなたに
キムラましゅろう
恋愛
桔梗の君という源氏名を持つ遊君(高級娼婦)であった菫。
たった一人、州主の若君に執着され独占され続けて来たが、
その若君がとうとう正妻を迎える事になった。
と同時に菫は身請けをされるも、彼の幸せを願い自ら姿を消す覚悟を決める。
愛していても、愛しているからこそ、結ばれる事が出来ない運命もある……。
元婚約者としての矜持を胸に抱き、彼の人生から消え、そして自らの人生をやり直す。そんな菫の物語。
※直接的な性描写はないですが行為を匂わす表現が作中にあります。
苦手な方はご自衛ください。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる