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第五章 悪女と結婚
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ダリアはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと話しだした。
「ラリーが王都で仕入れてきた話を聞くと、クライドって本当に評判がいいのよね。騎士団の同僚達からも信頼されていて、出世も早い。顔も広くて、当主たちからの覚えもいい。本人の前では絶対に言わないけど顔もイケメンの部類に入る。令嬢からの人気はイマイチと本人は思っているけど実際は令嬢からの人気も絶大。まさに名実ともに〝婿に来てほしい男性ナンバーワン〟なのよ」
「ダリア様にとっては違うのですか?」
「彼がそれだけの評価を受けるようになったのは、彼が頑張ったからよ。私と結婚するとその評価は地まで落ちるわ」
「順番が逆ですよ。クライド様はダリア様と結婚したいからがんばって、それだけの評価を得られるようになったのですよ」
「でも……」
「メアリ様を追い出したとき、ダリア様は仰っていましたよね。トレッド様の言葉が呪いのようにメアリ様を縛り付けていると。今はダリア様が同じ状況ですよ。〝姉を追い出した悪女〟という言葉に囚われています。
クライド様がダリア様と結婚したいと言っているんです。それでいいじゃないですか。ダリア様もクライド様のことが好きなんですし」
「え?」
「もしかしてご自身では気づいていませんでしたか?みんな気づいてましたよ」
「え? 私が? クライドを?」
自分の顔が赤くなっていくのをダリアは感じた。それと同時に今まで意識していなかったいろいろな感情が湧き上がってくる。
「ダリア様、ひとりで苦しむことはないのです。クライド様に頼ってもいいのです。クライド様もそれを望んでおります」
ダリアは下を向いて唇を噛む。
クライドにはすでに何度も頼っている。そしてその度に〝嫌われ者の稀代の悪女〟である私は彼に迷惑をかけるのだ。
夜会のときも、私をエスコートしたせいで陰口を叩かれていた。
以前だったら良い噂しか聞かなかったお茶会でも、クライドを責める声が聞こえてきた。
私を誘拐したジェシカさんも、クライドの相手が悪女の私だったから許せなかったと言っていた。
もしかしたら今も私のせいで王都でいわれのない誹謗中傷にさらされているかもしれない。
私は彼に幸せになってほしい。
彼は私の隣を望んでくれたけど、私の隣にいるせいで彼が傷つけられることに私は耐えられない。
わざわざ私と嫌われ者の道を歩く必要はない。私と結婚しなくても引く手あまただ。もっと良い結婚相手は山ほどいる。
〝婿に来てほしい男性ナンバーワン〟の称号は皆に愛されているという証拠だ。
私は彼に、今まで通り皆から愛されて幸せに生きてほしいのだ。そのためには私は隣りにいてはいけない。……好きだから。
彼は私を好きだと言ってくれた。でも私はその手をとることはできない。ああ、これが呪縛か。
「私は……」
ダリアの目から涙が溢れる。流れる涙を拭うこともせず、ダリアはただ、ぼんやりと虚空を見つめていた。
翌日、ダリアはノーバック子爵家に断りの手紙を書いた。
そして、それからクライドが訪ねてくることはなくなった。
「ラリーが王都で仕入れてきた話を聞くと、クライドって本当に評判がいいのよね。騎士団の同僚達からも信頼されていて、出世も早い。顔も広くて、当主たちからの覚えもいい。本人の前では絶対に言わないけど顔もイケメンの部類に入る。令嬢からの人気はイマイチと本人は思っているけど実際は令嬢からの人気も絶大。まさに名実ともに〝婿に来てほしい男性ナンバーワン〟なのよ」
「ダリア様にとっては違うのですか?」
「彼がそれだけの評価を受けるようになったのは、彼が頑張ったからよ。私と結婚するとその評価は地まで落ちるわ」
「順番が逆ですよ。クライド様はダリア様と結婚したいからがんばって、それだけの評価を得られるようになったのですよ」
「でも……」
「メアリ様を追い出したとき、ダリア様は仰っていましたよね。トレッド様の言葉が呪いのようにメアリ様を縛り付けていると。今はダリア様が同じ状況ですよ。〝姉を追い出した悪女〟という言葉に囚われています。
クライド様がダリア様と結婚したいと言っているんです。それでいいじゃないですか。ダリア様もクライド様のことが好きなんですし」
「え?」
「もしかしてご自身では気づいていませんでしたか?みんな気づいてましたよ」
「え? 私が? クライドを?」
自分の顔が赤くなっていくのをダリアは感じた。それと同時に今まで意識していなかったいろいろな感情が湧き上がってくる。
「ダリア様、ひとりで苦しむことはないのです。クライド様に頼ってもいいのです。クライド様もそれを望んでおります」
ダリアは下を向いて唇を噛む。
クライドにはすでに何度も頼っている。そしてその度に〝嫌われ者の稀代の悪女〟である私は彼に迷惑をかけるのだ。
夜会のときも、私をエスコートしたせいで陰口を叩かれていた。
以前だったら良い噂しか聞かなかったお茶会でも、クライドを責める声が聞こえてきた。
私を誘拐したジェシカさんも、クライドの相手が悪女の私だったから許せなかったと言っていた。
もしかしたら今も私のせいで王都でいわれのない誹謗中傷にさらされているかもしれない。
私は彼に幸せになってほしい。
彼は私の隣を望んでくれたけど、私の隣にいるせいで彼が傷つけられることに私は耐えられない。
わざわざ私と嫌われ者の道を歩く必要はない。私と結婚しなくても引く手あまただ。もっと良い結婚相手は山ほどいる。
〝婿に来てほしい男性ナンバーワン〟の称号は皆に愛されているという証拠だ。
私は彼に、今まで通り皆から愛されて幸せに生きてほしいのだ。そのためには私は隣りにいてはいけない。……好きだから。
彼は私を好きだと言ってくれた。でも私はその手をとることはできない。ああ、これが呪縛か。
「私は……」
ダリアの目から涙が溢れる。流れる涙を拭うこともせず、ダリアはただ、ぼんやりと虚空を見つめていた。
翌日、ダリアはノーバック子爵家に断りの手紙を書いた。
そして、それからクライドが訪ねてくることはなくなった。
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