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エピローグ
02(完)
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ふざけているとしか思えない短い手紙をたっぷり時間をかけて読んで、ダリアは眉をひそめてクライドを見た。
「なにこの手紙……」
突然大きな音が屋敷内に響いた。
先程からずっと外から聞き慣れない音が耳に届く。
「もしかしてこの音もあなたがらみ?」
「そう、実家を追い出されたからね。ノーバック家にある俺の私物を全部持ってきちゃった」
親指を立てて爽やかに笑う。
「今、使用人総出で搬入してますのでしばらくお待ち下さい」
ランダルは澄ました顔で答えるが、ダリアは次から次へと起きる事柄についていけてない。
「搬入? どこに?」
「これメアリからの手紙」
クライドからまた手紙が渡される。
その手紙には、姉メアリの字で
「あなたのことだから私の部屋はあの日のまま残していて、たまにそこでヘコんだりしているんでしょうけど、マクレディの屋敷に私の部屋はもう必要ない。なによりあなたが落ち込むための場所なんていらない。私の部屋だった場所は今日からクライドの部屋よ。
その部屋は私の部屋だった頃の面影が全く無くなるように変えるからね。これは私からのお礼とお祝い。ありがとう、大好きよ」
「お姉様までなんで……」
外からはトンカチの音も聞こえてくる。
「ちょっと待って、そんな大規模に改装してるの?」
「昨日までで部屋の中はほぼ終了しております。あとは入口のドアを取り替えるぐらいです。まもなく終わりますから」
「悪いねえ」ちっとも悪いと思っていない口調でクライドが言う。
「え? 以前からやってたの? 私知らないんだけど」
そういえばここ最近は、視察などの名目で外出する機会がやたらと多かったことをダリアは思い出した。
「夕方にはクライド様にマクレディ領警備隊の隊長が挨拶にくるそうです」
「了解。できれば最初はこちらから挨拶に行きたかったな」
「え? なんで隊長まで知ってるの?」
クライドとランダルが打ち合わせを始める。
ダリアの頭は混乱したままだ。
「ちょ、ちょっと待って! ふたりとも!」
ダリアが大声を出すと、ようやくクライドとランダルが話を止め、ダリアを見た。
「なにこれ? なにが起きてるの? わかるように説明して」
「何って、婿になりに来たんだよ。君がメアリを呪縛から解いたように、今度は俺が君の呪縛を解きに来た」
「え……」
ダリアは目を見開いてクライドを見つめた。
「君は充分がんばったよ。当主としても領主としても。王都での君の噂が悪いものからだんだん良いものに変わっていっていることも俺は知っている。もう君は悪女なんかじゃない。幸せになっていいんだ」
クライドの言葉がダリアの心をほぐしていく。
「メアリがこの家で押しつぶされそうになって君や周囲から心配されていたように、今の君も周囲からとても心配されていたんだよ。今回のコレは君以外みんな知っていた」
ランダルを振り返ると彼はうなずいた。私も知っていましたとなぜかニッキーも答えた。
「そう、だったの……」
ダリアはようやく理解した。自分がメアリを追い出したときと同じことをやり返されているのだと。
「俺は君が好きだし、君も俺が好き。それだけだよ。だから結婚しよう」
クライドが手を差し出す。ダリアはその手を取ろうとしてはっと気づいたように手を引っ込める。
「いや、ちょっと待って」
「ちっ、流されなかったか」
「ダリア様のことだから、流されて手を取ると思ったんですけどね。当主として少しは成長していたようです」
ランダルが感慨深げに言う。
「まあいいや。時間はたっぷりあるし」
クライドは持ってきた大きな袋をダリアに差し出した。
「これなに?」
「俺が家を追い出された原因になった巣箱」
「巣箱は本当にあったんだ」
ダリアがぼそっとつぶやいた。
「ダリア、まずはこの巣箱を掛けにいこう」
クライドは嬉しそうに笑う。
「それはいいですね。裏の森にお茶の用意をさせます」
「ああ、頼むよ」
ランダルがニッキーに合図を送ると、ニッキーは一礼をして執務室から出ていった。
クライドはダリアの腕を掴むと、ずるずると引きずるように連れて行った。
クライドは鼻歌を歌いながら、上機嫌で歩いている。
すれ違う使用人たちは、皆、ダリアたちを見て笑顔になっていく。
自分の手を握って前を歩くクライドの後ろ姿を眺めながら、このまま流されていくのもいいのかもしれないとダリアは思った。
【 完 】
初めて書いた作品です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
[No.1] 2024/06/13
「なにこの手紙……」
突然大きな音が屋敷内に響いた。
先程からずっと外から聞き慣れない音が耳に届く。
「もしかしてこの音もあなたがらみ?」
「そう、実家を追い出されたからね。ノーバック家にある俺の私物を全部持ってきちゃった」
親指を立てて爽やかに笑う。
「今、使用人総出で搬入してますのでしばらくお待ち下さい」
ランダルは澄ました顔で答えるが、ダリアは次から次へと起きる事柄についていけてない。
「搬入? どこに?」
「これメアリからの手紙」
クライドからまた手紙が渡される。
その手紙には、姉メアリの字で
「あなたのことだから私の部屋はあの日のまま残していて、たまにそこでヘコんだりしているんでしょうけど、マクレディの屋敷に私の部屋はもう必要ない。なによりあなたが落ち込むための場所なんていらない。私の部屋だった場所は今日からクライドの部屋よ。
その部屋は私の部屋だった頃の面影が全く無くなるように変えるからね。これは私からのお礼とお祝い。ありがとう、大好きよ」
「お姉様までなんで……」
外からはトンカチの音も聞こえてくる。
「ちょっと待って、そんな大規模に改装してるの?」
「昨日までで部屋の中はほぼ終了しております。あとは入口のドアを取り替えるぐらいです。まもなく終わりますから」
「悪いねえ」ちっとも悪いと思っていない口調でクライドが言う。
「え? 以前からやってたの? 私知らないんだけど」
そういえばここ最近は、視察などの名目で外出する機会がやたらと多かったことをダリアは思い出した。
「夕方にはクライド様にマクレディ領警備隊の隊長が挨拶にくるそうです」
「了解。できれば最初はこちらから挨拶に行きたかったな」
「え? なんで隊長まで知ってるの?」
クライドとランダルが打ち合わせを始める。
ダリアの頭は混乱したままだ。
「ちょ、ちょっと待って! ふたりとも!」
ダリアが大声を出すと、ようやくクライドとランダルが話を止め、ダリアを見た。
「なにこれ? なにが起きてるの? わかるように説明して」
「何って、婿になりに来たんだよ。君がメアリを呪縛から解いたように、今度は俺が君の呪縛を解きに来た」
「え……」
ダリアは目を見開いてクライドを見つめた。
「君は充分がんばったよ。当主としても領主としても。王都での君の噂が悪いものからだんだん良いものに変わっていっていることも俺は知っている。もう君は悪女なんかじゃない。幸せになっていいんだ」
クライドの言葉がダリアの心をほぐしていく。
「メアリがこの家で押しつぶされそうになって君や周囲から心配されていたように、今の君も周囲からとても心配されていたんだよ。今回のコレは君以外みんな知っていた」
ランダルを振り返ると彼はうなずいた。私も知っていましたとなぜかニッキーも答えた。
「そう、だったの……」
ダリアはようやく理解した。自分がメアリを追い出したときと同じことをやり返されているのだと。
「俺は君が好きだし、君も俺が好き。それだけだよ。だから結婚しよう」
クライドが手を差し出す。ダリアはその手を取ろうとしてはっと気づいたように手を引っ込める。
「いや、ちょっと待って」
「ちっ、流されなかったか」
「ダリア様のことだから、流されて手を取ると思ったんですけどね。当主として少しは成長していたようです」
ランダルが感慨深げに言う。
「まあいいや。時間はたっぷりあるし」
クライドは持ってきた大きな袋をダリアに差し出した。
「これなに?」
「俺が家を追い出された原因になった巣箱」
「巣箱は本当にあったんだ」
ダリアがぼそっとつぶやいた。
「ダリア、まずはこの巣箱を掛けにいこう」
クライドは嬉しそうに笑う。
「それはいいですね。裏の森にお茶の用意をさせます」
「ああ、頼むよ」
ランダルがニッキーに合図を送ると、ニッキーは一礼をして執務室から出ていった。
クライドはダリアの腕を掴むと、ずるずると引きずるように連れて行った。
クライドは鼻歌を歌いながら、上機嫌で歩いている。
すれ違う使用人たちは、皆、ダリアたちを見て笑顔になっていく。
自分の手を握って前を歩くクライドの後ろ姿を眺めながら、このまま流されていくのもいいのかもしれないとダリアは思った。
【 完 】
初めて書いた作品です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
[No.1] 2024/06/13
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