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第一部『異世界転移と冒険者』
孤島転移とリヴィアたん
しおりを挟む頬をペチペチと叩かれて目を覚ました。
「……ん……?」
薄く目を開ける。明るい。視界はまだぼんやりとしている。
あれ? 俺、いつのまに寝てたんだ?
肌に纏うワイシャツとスーツの感触。
残業明けの終電帰りで、またそのままベッドにダイブしてしまったのか。
うーん。思い出せない。
思い出せないし、まぁいいか。眠いし。
そんな事を考えながら、もう一度目をつぶる。と、またしても頬を叩かれた。
「お~い。起きろっての~」
「む……?」
女の子の声だ。
段々と脳が起きてくる。周囲から聴こえるのは穏やかな波の音。
「海かぁ……。いいなぁ、海……。……うみぃ……!?」
ガバっと起き上がって辺りを見渡した。
海、海、海。
海外リゾートばりの真っ青なホライゾン。
今、俺がいるのはどう見ても絶海の孤島の山頂だった。
そして――
「びっくりしたなぁ。ねぇ、キミ。大丈夫?」
眼の前に、とびきりの美少女が綺麗な眉を怪訝そうにしかめて座っていた。
「だ、誰……? ってーか、ここどこ? 俺の家は? 会社……! 会社行かないと……!」
手元に落ちていた鞄を慌てて拾い上げて立ち上がる。
立ち上がってみたものの、どこにも行く場所など無い。
だって、ここは海のど真ん中。電車もなけりゃタクシーも呼べるはずがない。
「す、スマホを……」
ポケットからスマホを取り出す。
画面は真っ暗で、何秒間電源ボタンを長押ししようが反応しない。
「電池切れ!? じゅ、充電を……って出来るかい! こんな場所でッ!!」
スマホを放り投げる。
パニック。パニックだ。
いや、だって自分の家がいきなり世界の果ての無人島みたいになってたら誰だってそうなるだろ普通。
すると、目の前の謎の女の子がカラカラと笑った。
「兄さん、なんか面白いね~。変な格好してるし。とりあえず座れば?」
ほだされるように言われ、俺は再び草の上に座って少女を観察した。
高校生くらいだろうか。猫のように大きな目がくりくりと愛らしい。
編み込みのあるセミロングの髪は海のように真っ青で、どこぞの民族衣装のような変わった服を着ていた。
いや、明らかに変な格好してるのはキミでしょ。
しかし、変な格好よりも、その民族衣装をはち切れさせんばかりに膨らんでいる胸の方がインパクトが大きかった。
いかん、チラ見はバレるってネットに書いてあった。
「あの……ここはどこですか?」
少しだけ冷静になった頭で問いかける。
「ここは〈紺碧の産声〉。魔力障壁に囲まれた、地図にない場所だよ。一番近いのは〈グランクレフ大陸〉かな」
あ、ダメだ。全然分からん。無理。
ってーか、もしかしてアレか!? 流行りの『異世界転移』ってやつか!?
いやいや、フィクションのお話でしょう!
俺は現実と虚構の区別の付けられる正常な大人だ!
俺が頭を抱えて悶ていると、今度は少女が俺に問いかけた。
「兄さんこそ、一体何者なの? ここに人間が来るなんて、二千年ぶりくらいだけど」
「俺……? 俺は……」
とりあえず、少女の言葉のうち『二千年』というくだりは聞かなかったことにして、俺は自分のことを冷静に反芻し始めた。
――坂内コウジ。27歳。会社員。
朝の満員電車で出社して、残業で深夜に帰り、コンビニ飯を食って泥のように眠るという、至って健全なサラリーマンという名の奴隷だ。
そう、すなわち社畜なので、コレが夢なら今すぐに起きて出社をしなければならないのだ――。
俺が『自分は何者なんだ!』と考えていると、目の前に突然文字が浮かび上がった。
【坂内コウジ Lv:1
HP:24/24
マナ:0/39
AP:400/400
ジョブ:召喚師
スキル:召喚術 400 魔獣語 80 幻獣語 80 神獣語 80 観察 60
装備品:布の服】
「ス、ステータス……?」
あ、コレ完全にあの手の異世界だ。
並んでいる文字は全く見たことのない不思議な形をしているが、なぜか日本語を読むかのように意味が頭に入ってくる。
うわー。こういうの結構好きでアニメとか観てたけど、実際に自分がなってみるとすげーアホっぽいぞ。
「コージ。変わった名前だね。コンビニ、とか、カイシャ、とかはよく分かんないけど。あ、召喚師だ。懐かしいな~」
このステータス、呼び出したものは他人にも見えるらしい。
少女が俺の隣に移動してきて興味津々と言った感じで覗き込んでいる。
「ジョブって。俺は、召喚師になった覚えなんてないぞ」
「ふーん。ジョブって生まれつき備わってる場合もあるって聞くしねー」
「召喚師、ねぇ……」
いきなりこんな所に飛ばされて『はい、あなたは召喚師です』って言われても、ワクワクする以前に『なんのこっちゃ』という感じだ。
「で、コージはなんでこんなところで寝てたの?」
少女が俺の方を向いて首をかしげる。顔が近い。心拍数が跳ね上がるのが分かった。
俺はつい顔をそらしてしまった。
「な、なんでって言われてもなぁ……」
ここ数日の記憶が無い。何かもやもやしたものが脳の隅っこに引っかかっている気がするが、掴もうとすると煙のようにすり抜けていく。
俺は辺りを囲む果てしない海を見渡して、遠い目をした。
「せっかくの異世界転移だとしても、いきなりどん詰まりってちょっと難易度がエクストリームすぎるぞ……。か、帰りたいっ……!」
「コージは、もとの場所に帰りたいんだ。なんて場所?」
「ん? 東京……だな」
「とーきょー。聞いたことないな~。どこの大陸だろ」
「あ、いや、多分そうじゃなくてだな――」
――ぐうう。
言いかけた言葉を、自分の腹の音が遮った。
腹が減った。こんな緊急事態でも腹は減るのだなぁ。
「そういえば……」
俺は手元にあった鞄の中を漁った。
書類。これはもはや何の役にも立たない。
筆記用具。うーん……。まぁ役立つか。
充電器類。だからコンセントねぇっつの。
ライター。お、役立つ。随分前に煙草は辞めたが、捨て忘れてたのか。
そして一番奥底から出てきたのが、『カップヌードル(カレー味)』だった。
昼飯用に買ったものだろう。
「これで、後はお湯があれば食えるんだが……」
沸かそうにも真水がない。どこかに川でも流れていればいいが。
立ち上がって、改めて辺りを見渡す。
自分がいるのは小高い岩山の頂上。麓は森で囲まれ、村落のようなものも当然見当たらない。
「どしたの? なにそれ?」
「これはカップラーメンと言ってだな……って、説明しても分からんか。お湯が欲しいんだけど、この辺に湧き水とか無いか? あ、それだけじゃだめだ。湯を沸かす器も必要だ」
少女は不思議そうに首を傾げると、
「水なら一杯出せるけど。器は……そうだ、あたしの祠にしまってあるのが使えると思うよ!」
「ほんとか!? ありがとう! えっと……キミの名前まだ聞いてなかったな」
俺が言うと、少女は立ち上がってニコリと笑った。
やばい、超かわいい。テレビで見るアイドルなんか比じゃない。
「あたしは、〈りゔぃあたん〉だよ」
そう自己紹介をしてくれたが、肝心の名前の発音が独特ではっきりと分からなかった。
「リヴィア……たん?」
自分の事を『たん』付けで呼ぶのか。ちょっと痛いが、まぁ可愛いから許そう。
「リヴィア。じゃあ、その祠に案内してくれよ」
「うん! こっちこっち!」
リヴィアたんが、俺の手を引っ張って岩山を下っていく。
……女の子と手を繋いだのって、何年ぶりだろう。
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