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第一幕

序章

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「強くなれ。」

 抑揚のない言葉。


「無理だよ。私には・・・」


   少女が弱々しく答えると、隣で佇む少年は視線だけ少女に向ける。その鋭い目つきに、少女はますます自信を失い落ち込んでいく。
 部屋の中は薄暗く温度を感じない。
 少女は不安と寂しさに、自分の身体を抱き締めた。こうでもしないと、不安に押し潰されそうだったからだ。

「どうして、私にできると思うの?…無理だよ。」
「演じろ。」
「演じる…?」

   間髪入れずに答えた少年の言葉に、少女は少年を見上げるが、彼は静かに頷くだけで、それ以上は何も言ってくれない。
   無言で佇む少年の後ろには、金や銀製の調度品がいくつも置かれていた。使用人によって毎日磨かれているのだろう。それは埃ひとつなく、とても綺麗にされているのに、今の少女にはどれもがくすんで見えていた。ニ人だけしかいない部屋も、広すぎて寂しく感じる。

   なぜ?という疑問と裏切られたという気持ちで、心が押し潰されそうになる少女は、少年に疑問の答えを求めるが、少年は無表情のままで何も答えてはくれそうにない。

 静かな時間だけが流れた。

   少女は諦めたように窓の外へと視線を移すと、そこに映る景色を眺めながらため息をつく。それは心を押し潰そうとするものを追い出すための行動だ。
   そんな少女が吐いた息は白く、外に映る真っ白な世界に溶けて消えてしまう。窓の外から見える雪に埋もれた街を、おとぎ話の雪華と同じ名を持つ少女は不安げな瞳でただ見下ろすのだった。
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