辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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つむじぐるぐる

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 ――へえ。つむじ、右巻きなのね。

 エメリーンが何故だか頭頂を眺めているその人は、辺境伯ヒューバート・ダイナリアだ。

 ダイナリア辺境伯と言えば、長年に渡り、魔物や隣国から国を守護してきた辺境伯家の主人で、王家を含め貴族家なら誰でも一目置いている、そんな立場の男である。

 さらにヒューバートは、世紀の美男子と呼ばれた男だ。その容姿は、かつて王都新聞に、『彫刻のように端正なその姿がまばゆい金の髪と青い瞳でいろどられたとき、まるで神話の中の男神が現代に現れたかのような、そんな人々を魅了してやまない彼の存在感に、私は呼吸をすることも忘れてしまった』などと、その造形を賞賛する記事が掲載されたほどのものだった。

 いや、今でも美貌は衰えていないのだろう。先日の舞踏会でも、ヒューバートには女性たちが群がっていた。

 そんな辺境伯ヒューバート・ダイナリアが今、エメリーンの前に片膝をついて頭を下げているのだ。

 ――え、えーと? どういう状況かしら、これは。

 なかなかな家柄の、それだけ魅力的な男性でありながら、ヒューバートとの結婚については、貴族家の誰もが避けた。「女狂いの辺境伯」相手では、体裁が悪いし、何より幸せになれそうにないと判断した貴族が多かったということだろう。

 そして、結婚相手がヒューバートだと聞かされたエメリーンも、心の奥底ではがっかりしていた。だがそれでも、何とか仲良くできれば、という希望は持ち続けていたのだ。

 そんなエメリーンの心を打ち砕くように、ヒューバートから掛けられた初めての言葉は「何だ、こっちか」というあんまりなものだった。

 初夜にも他の女性の元へ行ったのか、エメリーンの前に姿を現すことすらなかったヒューバートは、その後すぐに、エメリーンだけを領地へ送った。

 魔物に怯えて過ごした、辺境伯領への旅路の中、エメリーンはヒューバートへの期待を徐々に捨てて行ったのだ。

 それからのエメリーンは、ヒューバートとの関係については、あえて考えないようにしていた。辺境伯夫人として何をするべきかや、ルイと自身との関係、ルイとヒューバートの関係については、できる限り真摯に考えて、行動してきたつもりだ。だがエメリーンとヒューバートの関係については、考えても無駄だと思っていた。

 それは子爵家にいたときの、義姉エリナーへの感情に近い。エメリーンにとって、ヒューバートとの関係を考えることは、ただただ面倒なことだった。

 アリサの記憶が戻っても、エメリーンのそれまでの記憶が消えたわけではなかったため、その基本的なスタンスは変わっていない。今までヒューバートがとってきた、エメリーンに対する態度を鑑みれば、ヒューバートとの関係についてなど、向き合う必要もないことだった。「好みのタイプではない」で、話を終わらせて何も問題がなかったのだ。

 だからエメリーンには、今のこの状況は戸惑いしかない。

「これまでのこと、全て謝罪する。私が悪かった。許してくれとはとても言えないが、どうかこれからは、私のことも視界に入れて貰えないだろうか」

 うつむいたヒューバートの口から、たどたどしく、エメリーンが思ってもみなかった謝罪が飛び出してきた。

「一から、いやマイナスからになるが、やり直しをさせて欲しい。もちろん、時間が掛かるであろうことは承知している。エメリーン、出会ったときから今まで、本当に申し訳なかった」

 ――やり直し?

 より深く頭が下げられたことで、ヒューバートのつむじが先ほどよりも良く見える。

 エメリーンはそのつむじを目で追いながら、頭の中もぐるぐると色々なことが巡っていた。
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