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ひと味違う
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「あ、美味しい」
そんな場合ではないと分かってはいるが、やはり執事長の淹れた紅茶はひと味違うとエメリーンは感じた。
先日、王太子夫妻とのティーパーティで、おそらくこの国で最高級の紅茶を味わったエメリーンだが、それよりも執事長が淹れた紅茶の方が美味しいと感じるのは何故なのか。
その理由は、執事長がエメリーンの好みを知り尽くしている、という一点に尽きるのだろう。つい零れ出た、場違いなエメリーンの「美味しい」という言葉を、微笑みで受け止めた執事長の後ろで、侍女のマーサが悔しそうな顔をしている。
そのマーサの顔も今は場違いなのだが、どうやらマーサはそのことに気が付いていないようだ。
コホンと軽い咳払いで場を誤魔化したエメリーンは、一旦ティーカップをテーブルに置いて、会議の内容に集中することにした。
オルクス子爵領へ向かうために増員した、執事長と5人の兵士が王都に到着したのは昨晩のことだ。
彼らが中2日休めるように予定を組んだのだが、このような会議が何回か入っているため、果たして休みと言えるのかどうか。因みに今は夜で、この会議はルイ抜きで行われている。
自身の希望で振り回される彼らに、エメリーンは彼らの到着早々に詫びたのだが、兵士たちに「いえ、なかなか対人の実践が行えていなかったので、むしろありがたいです」と感謝されてしまった。
「そうそう。兵士長のルドガーも、一緒に来たがっておりましたよ。ルドガーは領地防衛の指揮官を任されているというのに、領地を離れてどうするつもりなのでしょうね。困ったものです」
執事長の言葉に兵士たちが苦笑いを浮かべていた。どうやら辺境伯領にて、誰が行くのかひと悶着あったようだ。
――執事長だけでなく、兵士長のルドガーまで来てくれたら無敵だったわね。でもそうすると、やっぱり辺境伯領が心配だわ。
エメリーンは、王太子夫妻とのティーパーティの中で提示された資料のことを思い出していた。あの資料で分かることの一つは、ダイナリア辺境伯領へ攻撃を仕掛けようとしている者が確実にいる、ということだ。
そのことについては、すでに辺境伯領にも伝えている。「執事長には、辺境伯領へ戻ってもらった方が良いのではないか」と思ったエメリーンだが、ヒューバートに確認すると、「全く問題無い」という力強い回答が返って来た。
執事長と精鋭5人が抜けても、領地の守りは固いらしい。どうやら辺境伯領の戦力については、エメリーンがまだ知らないこともあるようだ。
だがエメリーンは、そのことを不満には思わなかった。領地や領民たちが守られるなら、それは些末なことだとエメリーンは思う。
会議中、「自分もこちらに加われて、とても光栄です」と緊張した面持ちだったのは、ダンという若い兵士だ。
ダンは以前、追いかけっこでルイに捕まり、他の兵士たちにスタミナ不足を指摘されていた。その悔しさをバネにしたのか、ダンは精鋭5人の中に選ばれるほどの兵士になったらしい。
「よろしくお願いしますね、ダン。どうかルイ様から目を離さないで下さい」
「はい、必ずお守りします」
力強い返事には、自信が満ち溢れている。だがエメリーンは、そっとダンに耳打ちした。
「ルイ様も、あれから更にスピードアップしてるわよ?」
「……二人一組で守ります」
「ええ、お願いね」
エメリーンは、無理なものを出来ると言わないダンの姿勢に好感を持った。手段はどうでも構わない。ルイが危険な目に遭わなければ、エメリーンはそれで良いのだ。
「執事長とあなたたちが加わってくれたから、安心してオルクス子爵領に向かえるわ。……でも相手の中には、人を人とも思わぬ殺人集団がいるの。どうか油断せず、全員揃って辺境伯領に帰れるようにしてちょうだい」
「「「はい!」」」
「戦略的撤退は恥ずかしいことじゃないから、どうか常に選択肢として持っておいて」
「「「分かりました!」」」
兵士たちにそんな言葉を掛けたエメリーンに、ヒューバートが歩み寄ってきた。
「エメリーン、君の希望は良く分かった。――お前たち、エメリーンの言ったとおりだ。私たちは一人も欠けることなくダイナリア辺境伯領へ帰るぞ」
「「「はい!」」」
とても家族旅行に向けての会議とは言えない物々しい雰囲気の中、エメリーンは再びティーカップを手にした。
「ああ、美味しい」
これからのことを思って少し緊張したエメリーンだったが、紅茶の味と香りにホッとして緊張が解れた。そしてその「美味しい」という言葉を聞いて、穏やかに微笑む執事長の姿を見て、エメリーンはより安心するのだった。
そんな場合ではないと分かってはいるが、やはり執事長の淹れた紅茶はひと味違うとエメリーンは感じた。
先日、王太子夫妻とのティーパーティで、おそらくこの国で最高級の紅茶を味わったエメリーンだが、それよりも執事長が淹れた紅茶の方が美味しいと感じるのは何故なのか。
その理由は、執事長がエメリーンの好みを知り尽くしている、という一点に尽きるのだろう。つい零れ出た、場違いなエメリーンの「美味しい」という言葉を、微笑みで受け止めた執事長の後ろで、侍女のマーサが悔しそうな顔をしている。
そのマーサの顔も今は場違いなのだが、どうやらマーサはそのことに気が付いていないようだ。
コホンと軽い咳払いで場を誤魔化したエメリーンは、一旦ティーカップをテーブルに置いて、会議の内容に集中することにした。
オルクス子爵領へ向かうために増員した、執事長と5人の兵士が王都に到着したのは昨晩のことだ。
彼らが中2日休めるように予定を組んだのだが、このような会議が何回か入っているため、果たして休みと言えるのかどうか。因みに今は夜で、この会議はルイ抜きで行われている。
自身の希望で振り回される彼らに、エメリーンは彼らの到着早々に詫びたのだが、兵士たちに「いえ、なかなか対人の実践が行えていなかったので、むしろありがたいです」と感謝されてしまった。
「そうそう。兵士長のルドガーも、一緒に来たがっておりましたよ。ルドガーは領地防衛の指揮官を任されているというのに、領地を離れてどうするつもりなのでしょうね。困ったものです」
執事長の言葉に兵士たちが苦笑いを浮かべていた。どうやら辺境伯領にて、誰が行くのかひと悶着あったようだ。
――執事長だけでなく、兵士長のルドガーまで来てくれたら無敵だったわね。でもそうすると、やっぱり辺境伯領が心配だわ。
エメリーンは、王太子夫妻とのティーパーティの中で提示された資料のことを思い出していた。あの資料で分かることの一つは、ダイナリア辺境伯領へ攻撃を仕掛けようとしている者が確実にいる、ということだ。
そのことについては、すでに辺境伯領にも伝えている。「執事長には、辺境伯領へ戻ってもらった方が良いのではないか」と思ったエメリーンだが、ヒューバートに確認すると、「全く問題無い」という力強い回答が返って来た。
執事長と精鋭5人が抜けても、領地の守りは固いらしい。どうやら辺境伯領の戦力については、エメリーンがまだ知らないこともあるようだ。
だがエメリーンは、そのことを不満には思わなかった。領地や領民たちが守られるなら、それは些末なことだとエメリーンは思う。
会議中、「自分もこちらに加われて、とても光栄です」と緊張した面持ちだったのは、ダンという若い兵士だ。
ダンは以前、追いかけっこでルイに捕まり、他の兵士たちにスタミナ不足を指摘されていた。その悔しさをバネにしたのか、ダンは精鋭5人の中に選ばれるほどの兵士になったらしい。
「よろしくお願いしますね、ダン。どうかルイ様から目を離さないで下さい」
「はい、必ずお守りします」
力強い返事には、自信が満ち溢れている。だがエメリーンは、そっとダンに耳打ちした。
「ルイ様も、あれから更にスピードアップしてるわよ?」
「……二人一組で守ります」
「ええ、お願いね」
エメリーンは、無理なものを出来ると言わないダンの姿勢に好感を持った。手段はどうでも構わない。ルイが危険な目に遭わなければ、エメリーンはそれで良いのだ。
「執事長とあなたたちが加わってくれたから、安心してオルクス子爵領に向かえるわ。……でも相手の中には、人を人とも思わぬ殺人集団がいるの。どうか油断せず、全員揃って辺境伯領に帰れるようにしてちょうだい」
「「「はい!」」」
「戦略的撤退は恥ずかしいことじゃないから、どうか常に選択肢として持っておいて」
「「「分かりました!」」」
兵士たちにそんな言葉を掛けたエメリーンに、ヒューバートが歩み寄ってきた。
「エメリーン、君の希望は良く分かった。――お前たち、エメリーンの言ったとおりだ。私たちは一人も欠けることなくダイナリア辺境伯領へ帰るぞ」
「「「はい!」」」
とても家族旅行に向けての会議とは言えない物々しい雰囲気の中、エメリーンは再びティーカップを手にした。
「ああ、美味しい」
これからのことを思って少し緊張したエメリーンだったが、紅茶の味と香りにホッとして緊張が解れた。そしてその「美味しい」という言葉を聞いて、穏やかに微笑む執事長の姿を見て、エメリーンはより安心するのだった。
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