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おともだち
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オルクス子爵領への旅行準備でバタバタしていたためか、王太子夫妻から招待されたティーパーティへ向かう馬車の中でも、エメリーンは緊張せずに済んでいる。
だが向かいに座るヒューバートは、「はあ」と今日何度目かのため息を吐いた。王太子夫妻と会うことが多いはずのヒューバートの方が、緊張しているように見えるのは何故だろうか。
「どうしましたか?」
そう心配そうに訊ねたのは、エメリーンの隣に座るルイだ。やはりエメリーンよりルイの方が、ヒューバートに甘い。
「いや、その……」
チラリと、ヒューバートがエメリーンに視線を向けた。意味ありげなその視線に、エメリーンが首を傾げる。
「なんでしょうか?」
「いや、その。……そうだな。どのみち分かることだ。先に二人に伝えておこう」
躊躇いながら口を開いたヒューバートの前置きを聞いて、エメリーンは少し嫌な予感がした。ヒューバートが、こんなにギリギリのタイミングまで言わなかったこととは何だろうか。
「待ってください、旦那様。それは本当に、今、聞いておいた方が良いことですか?」
「……どうだろうか。何だか自信がなくなったな」
エメリーンのたった一言で、また悩み始めたヒューバートの背中を押したのはルイだった。
「ちちうえ、しっかり! ぼ―ーわたしは、ききたいです」
ルイが聞きたいというのであれば仕方がない、とエメリーンは口を噤んだ。引き続き、少し嫌な予感はしている。だがルイが望むのなら、それで良いとエメリーンは思う。
「王太子殿下には、ルイと同じ歳のフェリス姫という方がいることは伝えただろう?」
「はい。おともだちになりたいとききました」
ハキハキと答えるルイに対し、ヒューバートはどうも煮え切らない様子だ。
「それで? フェリス姫様がどうかされたのですか?」
王太子夫妻にはまだ他に子供はいないし、ルイも同様に、ダイナリア辺境伯であるヒューバートの、たった一人の子供だ。だから縁談のはずはないと、エメリーンは確信している。
そもそもルイはまだ4歳だ。縁談のはずはないだろうと思いながらも、エメリーンは高位貴族や王族であれば、それがありえないことではないことを既に知っている。辺境伯領で執事長に習ったからだ。
「その……、バトー公爵家の三番目の娘も、ルイとフェリス姫様と同じ年でね」
「え……」
「大人たちのティーパーティとは別で、ルイとフェリス姫様と、そのデボラ嬢と三人で、子供だけの時間も作ってほしいそうだ」
「え? それは……」
思わず余計なことを言いそうになったエメリーンは、慌てて口を閉ざした。
――バトー公爵家の三番目の娘? 先日の舞踏会には参加していなかったわよね……。でも、ルイ様と同じ歳なら、それならその子は、ルイ様との縁談が成り立ってしまうんじゃない?
「どうだろうか? ルイはどう思う?」
「そのデボラさまとも、おともだちになればよいですか? エメリーンさまは、どうおもいますか?」
ルイの質問に、エメリーンはハッとした。先日フェリス姫とのことについて、エメリーンが嬉しいならという理由で了承したルイが、デボラについてもエメリーンに意見を求めている。
ルイがエメリーンの気持ちを考えてくれるのは嬉しいが、それは少し過剰だとエメリーンは思う。だからエメリーンは、ルイに向けて満面の笑みを作った。
「まあ、ルイ様。フェリス姫様に続いて、公爵家のご令嬢のデボラ様ですって。私は、ルイ様にお友達が増えるのは、とても嬉しいことだと思いますわ」
「そうなのですか?」
「ええ。男性のお友達も出来ればと思いますが、まずはフェリス姫様とデボラ嬢に会ってみましょう?」
その笑顔のまま、今度はエメリーンがヒューバートをチラリと見た。視線を受けたヒューバートの身体が、ビクッと跳ねた。ヒューバートは、その笑顔がただの笑顔ではないことに気が付いたようだ。
ヒューバートがため息を吐いていたのが、デボラ嬢のせいだと思ってしまったら、ルイが彼女と出会う前に、要らぬ先入観を与えてしまう。エメリーンとしては、それは避けたいと思った。
本人の預かり知らぬところで、先入観を持たれるのは、面倒なことだ。エメリーンはそれを、嫌というほど知っている。
「……ところで、旦那様? 先ほどまでのため息は、昨夜少し飲み過ぎたからなのでしょう? そのようなことで、ルイ様を心配させないで下さいませ」
「ぬ? ん、あ、ああ。そうだな。すまなかったな、ルイ。もう大丈夫だ」
「え?」
エメリーンの描いた筋書き通り、ヒューバートは、デボラ嬢のせいでため息を吐いていたわけではない、という芝居をした。だがヒューバートは、すぐに筋書きから外れて、ルイの頭をポンポンと撫でた。
「それより、フェリス姫様とデボラ嬢とのことだが、楽しんでくると良い。……ただ、幼いとはいえ、女性相手だからな。その、話は途中で遮らずに、最後まで聞くと良いぞ」
途中から、女性の扱いについて、ルイに話し始めたヒューバートを、エメリーンがコホンとわざとらしく咳をして止めた。
「ルイ様、せっかくなので、ただ楽しんでいらして下さい。それが私の望むことです」
「はい! わかりました!」
ルイの素直で元気な返事を聞いて、これから王族とのティータイムが始まるというのに、エメリーンは既に一仕事終えたような気分になった。
だが向かいに座るヒューバートは、「はあ」と今日何度目かのため息を吐いた。王太子夫妻と会うことが多いはずのヒューバートの方が、緊張しているように見えるのは何故だろうか。
「どうしましたか?」
そう心配そうに訊ねたのは、エメリーンの隣に座るルイだ。やはりエメリーンよりルイの方が、ヒューバートに甘い。
「いや、その……」
チラリと、ヒューバートがエメリーンに視線を向けた。意味ありげなその視線に、エメリーンが首を傾げる。
「なんでしょうか?」
「いや、その。……そうだな。どのみち分かることだ。先に二人に伝えておこう」
躊躇いながら口を開いたヒューバートの前置きを聞いて、エメリーンは少し嫌な予感がした。ヒューバートが、こんなにギリギリのタイミングまで言わなかったこととは何だろうか。
「待ってください、旦那様。それは本当に、今、聞いておいた方が良いことですか?」
「……どうだろうか。何だか自信がなくなったな」
エメリーンのたった一言で、また悩み始めたヒューバートの背中を押したのはルイだった。
「ちちうえ、しっかり! ぼ―ーわたしは、ききたいです」
ルイが聞きたいというのであれば仕方がない、とエメリーンは口を噤んだ。引き続き、少し嫌な予感はしている。だがルイが望むのなら、それで良いとエメリーンは思う。
「王太子殿下には、ルイと同じ歳のフェリス姫という方がいることは伝えただろう?」
「はい。おともだちになりたいとききました」
ハキハキと答えるルイに対し、ヒューバートはどうも煮え切らない様子だ。
「それで? フェリス姫様がどうかされたのですか?」
王太子夫妻にはまだ他に子供はいないし、ルイも同様に、ダイナリア辺境伯であるヒューバートの、たった一人の子供だ。だから縁談のはずはないと、エメリーンは確信している。
そもそもルイはまだ4歳だ。縁談のはずはないだろうと思いながらも、エメリーンは高位貴族や王族であれば、それがありえないことではないことを既に知っている。辺境伯領で執事長に習ったからだ。
「その……、バトー公爵家の三番目の娘も、ルイとフェリス姫様と同じ年でね」
「え……」
「大人たちのティーパーティとは別で、ルイとフェリス姫様と、そのデボラ嬢と三人で、子供だけの時間も作ってほしいそうだ」
「え? それは……」
思わず余計なことを言いそうになったエメリーンは、慌てて口を閉ざした。
――バトー公爵家の三番目の娘? 先日の舞踏会には参加していなかったわよね……。でも、ルイ様と同じ歳なら、それならその子は、ルイ様との縁談が成り立ってしまうんじゃない?
「どうだろうか? ルイはどう思う?」
「そのデボラさまとも、おともだちになればよいですか? エメリーンさまは、どうおもいますか?」
ルイの質問に、エメリーンはハッとした。先日フェリス姫とのことについて、エメリーンが嬉しいならという理由で了承したルイが、デボラについてもエメリーンに意見を求めている。
ルイがエメリーンの気持ちを考えてくれるのは嬉しいが、それは少し過剰だとエメリーンは思う。だからエメリーンは、ルイに向けて満面の笑みを作った。
「まあ、ルイ様。フェリス姫様に続いて、公爵家のご令嬢のデボラ様ですって。私は、ルイ様にお友達が増えるのは、とても嬉しいことだと思いますわ」
「そうなのですか?」
「ええ。男性のお友達も出来ればと思いますが、まずはフェリス姫様とデボラ嬢に会ってみましょう?」
その笑顔のまま、今度はエメリーンがヒューバートをチラリと見た。視線を受けたヒューバートの身体が、ビクッと跳ねた。ヒューバートは、その笑顔がただの笑顔ではないことに気が付いたようだ。
ヒューバートがため息を吐いていたのが、デボラ嬢のせいだと思ってしまったら、ルイが彼女と出会う前に、要らぬ先入観を与えてしまう。エメリーンとしては、それは避けたいと思った。
本人の預かり知らぬところで、先入観を持たれるのは、面倒なことだ。エメリーンはそれを、嫌というほど知っている。
「……ところで、旦那様? 先ほどまでのため息は、昨夜少し飲み過ぎたからなのでしょう? そのようなことで、ルイ様を心配させないで下さいませ」
「ぬ? ん、あ、ああ。そうだな。すまなかったな、ルイ。もう大丈夫だ」
「え?」
エメリーンの描いた筋書き通り、ヒューバートは、デボラ嬢のせいでため息を吐いていたわけではない、という芝居をした。だがヒューバートは、すぐに筋書きから外れて、ルイの頭をポンポンと撫でた。
「それより、フェリス姫様とデボラ嬢とのことだが、楽しんでくると良い。……ただ、幼いとはいえ、女性相手だからな。その、話は途中で遮らずに、最後まで聞くと良いぞ」
途中から、女性の扱いについて、ルイに話し始めたヒューバートを、エメリーンがコホンとわざとらしく咳をして止めた。
「ルイ様、せっかくなので、ただ楽しんでいらして下さい。それが私の望むことです」
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