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18年
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「そうですね。あまりわたしらしくないのですが、せっかくですので最初から話しましょうか」
「え? 最初から?」
「はい。その方が、護衛の方もわたしを信じやすいでしょうし」
秘密の多いヤナゼが自分語りをしようとしていることに気が付いて、エメリーンは最初からの話をおとなしく聞くことにした。
オルクス子爵家にヤナゼがウィローとして潜り込んだのは、今から18年前のことだという。
王都の子爵邸に、気弱な青年を装って使用人として潜入したウィローは、当時の執事長に嫌われるように、まごまごした態度を見せ続けた。
そして狙い通り、執事長に嫌われたウィローは、オルクス子爵領の子爵邸に送られたのだ。
クビになってお終いの可能性もあったのだが、当時すでにオルクス子爵領から逃げ出す領民が増えていたことから、気弱なウィローへの嫌がらせという意味で、執事長は子爵領送りを選んだらしい。
ウィローにしてみれば、完全に計画通りだった。
使えない使用人、というレッテルを貼られて、オルクス子爵領の子爵邸に送られたウィローだったが、そこから周囲に徐々に成長していく姿を見せ続けた。
――18年って。いくら何でも長すぎじゃない?
ウィローが18年もの長い時間を掛けて築き上げてきたのは、使用人たち全体を束ねる能力と、何よりも信頼関係だ。時間をたっぷり掛けた分、その信頼はとても強固なものとなっているのだろう。
そしてウィローは、悪党たちとも上手く付き合ってきたらしい。適度な距離を保ち、子爵邸内で彼らが傍若無人に振る舞うことのないように、絶妙な関係を築き上げたことも、使用人たちから一目置かれている理由の一つなのだそうだ。
オルクス領は、当時から悪党が溢れる領地だった。清濁併せ吞めなければ、ウィローは生き残れなかっただろう。
具体的なことは聞かされなかったが、ウィローと悪党たちとの関係性は、グレーをとうに超えたやりとりもあった上で築かれているようだ。
「奴らを根絶やしにするためなら、わたしは何だってやるつもりでしたから」
ウィローとして過ごした日々を語るヤナゼの話を、エメリーンは不思議な気持ちで聞いていた。
王都のオルクス子爵邸に居たエメリーンの元には、王都へのおつかいがてらや、たまのお休みの日に訪れていたらしい。
エメリーンがアリサだった頃から、謎多き人だったヤナゼだが、エメリーンは今日、ほんの少しだけヤナゼのことが分かった気がした。
「……そして、最近のエメリーン様の話を聞いて、やっと今までの日々が報われるのだと、わたしは直感しました。だからわたしは、今のエメリーン様にお会いしたかったのです」
「そう……」
ヤナゼの言っているのは、ヤナゼ自ら王都に赴き、エメリーンに資料を渡してくれた日のことだろう。あの夜、エメリーンとヤナゼが話したのはほんの短い時間だったが、ヤナゼは直感を確信に変えたようだ。
「すみません、長々と。話が逸れましたね」
ヤナゼの言葉に、エメリーンが首を横に振った。
「いえ、構わないわ」
確かに話は大きく逸れたが、ヤナゼが語った内容は、エメリーンには知る価値のある話だった。
ーー本当にとことん時間を掛けたのね。……その分、敵が大きいということなのでしょうけど。
「さて。それで、ですね。わたしは、元オルクス子爵令嬢を含むダイナリア辺境伯一行が、このオルクス子爵領へ訪れることを知り、そのことをアントスの奴らに知らせました」
「はあっ? 何やってんだ? あんた?」
ヤナゼの口調が、急に「やっちゃった」というような軽い雰囲気になったからか、バアルの口からもすぐに非難の言葉が飛び出てきた。
「だって、さすがにこの邸宅にアントスの奴らがいる状態で、皆さまを迎え入れるのは危険すぎますよ。さっきも言いましたが、ルイ様が攫われます。どんな手を使ってでも、邸内は綺麗にしておかないとダメでしょう」
「き、綺麗にって」
「わたしは最初からそのつもりでいたので、エメリーン様にもここにアントスがいる、とはお伝えしていなかったのですよ。実際、いませんしね。わたしには、それが確実にできる自信がありましたので」
「どうです。18年、時間を掛けた甲斐があったでしょう?」と、執務机に座り直して、胸を張ったヤナゼのシルエットを見つめながら、エメリーンは自身の口角が自然に上がっていくのを感じていた。
エメリーンの隣では「じゅ、18年って……、あんた、何だって一体……?」と、バアルがその途轍もない時間に困惑していた。
「え? 最初から?」
「はい。その方が、護衛の方もわたしを信じやすいでしょうし」
秘密の多いヤナゼが自分語りをしようとしていることに気が付いて、エメリーンは最初からの話をおとなしく聞くことにした。
オルクス子爵家にヤナゼがウィローとして潜り込んだのは、今から18年前のことだという。
王都の子爵邸に、気弱な青年を装って使用人として潜入したウィローは、当時の執事長に嫌われるように、まごまごした態度を見せ続けた。
そして狙い通り、執事長に嫌われたウィローは、オルクス子爵領の子爵邸に送られたのだ。
クビになってお終いの可能性もあったのだが、当時すでにオルクス子爵領から逃げ出す領民が増えていたことから、気弱なウィローへの嫌がらせという意味で、執事長は子爵領送りを選んだらしい。
ウィローにしてみれば、完全に計画通りだった。
使えない使用人、というレッテルを貼られて、オルクス子爵領の子爵邸に送られたウィローだったが、そこから周囲に徐々に成長していく姿を見せ続けた。
――18年って。いくら何でも長すぎじゃない?
ウィローが18年もの長い時間を掛けて築き上げてきたのは、使用人たち全体を束ねる能力と、何よりも信頼関係だ。時間をたっぷり掛けた分、その信頼はとても強固なものとなっているのだろう。
そしてウィローは、悪党たちとも上手く付き合ってきたらしい。適度な距離を保ち、子爵邸内で彼らが傍若無人に振る舞うことのないように、絶妙な関係を築き上げたことも、使用人たちから一目置かれている理由の一つなのだそうだ。
オルクス領は、当時から悪党が溢れる領地だった。清濁併せ吞めなければ、ウィローは生き残れなかっただろう。
具体的なことは聞かされなかったが、ウィローと悪党たちとの関係性は、グレーをとうに超えたやりとりもあった上で築かれているようだ。
「奴らを根絶やしにするためなら、わたしは何だってやるつもりでしたから」
ウィローとして過ごした日々を語るヤナゼの話を、エメリーンは不思議な気持ちで聞いていた。
王都のオルクス子爵邸に居たエメリーンの元には、王都へのおつかいがてらや、たまのお休みの日に訪れていたらしい。
エメリーンがアリサだった頃から、謎多き人だったヤナゼだが、エメリーンは今日、ほんの少しだけヤナゼのことが分かった気がした。
「……そして、最近のエメリーン様の話を聞いて、やっと今までの日々が報われるのだと、わたしは直感しました。だからわたしは、今のエメリーン様にお会いしたかったのです」
「そう……」
ヤナゼの言っているのは、ヤナゼ自ら王都に赴き、エメリーンに資料を渡してくれた日のことだろう。あの夜、エメリーンとヤナゼが話したのはほんの短い時間だったが、ヤナゼは直感を確信に変えたようだ。
「すみません、長々と。話が逸れましたね」
ヤナゼの言葉に、エメリーンが首を横に振った。
「いえ、構わないわ」
確かに話は大きく逸れたが、ヤナゼが語った内容は、エメリーンには知る価値のある話だった。
ーー本当にとことん時間を掛けたのね。……その分、敵が大きいということなのでしょうけど。
「さて。それで、ですね。わたしは、元オルクス子爵令嬢を含むダイナリア辺境伯一行が、このオルクス子爵領へ訪れることを知り、そのことをアントスの奴らに知らせました」
「はあっ? 何やってんだ? あんた?」
ヤナゼの口調が、急に「やっちゃった」というような軽い雰囲気になったからか、バアルの口からもすぐに非難の言葉が飛び出てきた。
「だって、さすがにこの邸宅にアントスの奴らがいる状態で、皆さまを迎え入れるのは危険すぎますよ。さっきも言いましたが、ルイ様が攫われます。どんな手を使ってでも、邸内は綺麗にしておかないとダメでしょう」
「き、綺麗にって」
「わたしは最初からそのつもりでいたので、エメリーン様にもここにアントスがいる、とはお伝えしていなかったのですよ。実際、いませんしね。わたしには、それが確実にできる自信がありましたので」
「どうです。18年、時間を掛けた甲斐があったでしょう?」と、執務机に座り直して、胸を張ったヤナゼのシルエットを見つめながら、エメリーンは自身の口角が自然に上がっていくのを感じていた。
エメリーンの隣では「じゅ、18年って……、あんた、何だって一体……?」と、バアルがその途轍もない時間に困惑していた。
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