辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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アニキについていく

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「アニキ、なーんか変なんだぜ」

 井戸で汲み上げた水を使って、コップを大雑把に洗いながら、ツッパはそう独りごちた。ツッパの視線は、カイリとルイがいる小屋の扉に向いている。

 ツッパは物心ついたときにはスラム街にいた。きっと親に捨てられたのだろうとは思うが、ツッパはそれを覚えていないし、周りにはツッパと同じような子供がたくさんいたので、そういうものだと思っていた。

 ツッパには親はいないがアニキがいる。カイリもツッパと同じように、スラム街で暮らす子供の一人だったが、カイリはその中でもとりわけ力が強かった。

 ある日、カイリが自身の2倍はあるような大人を投げ飛ばすのを見て、ツッパはカイリをアニキと呼ぶようになったのだ。

 当初はツッパに付きまとわれるのを迷惑がっていたカイリだが、一人ではやっつけられなかった大人を、ツッパが加勢することで倒せてからは、いつも一緒にいるのが当たり前になった。

 ツッパの他にもカイリをアニキと慕う奴らもいたが、そいつらは常に増えたり減ったりしていた。元々記憶力がそんなに良いとは言えないツッパは、いなくなった奴らの顔や名前を覚えていない。仲間だった頃ですら、うろ覚えだったのだから仕方がないだろう。

 そうして大人になっても、ツッパはカイリの後ろをついてまわっている。

 ――あいつ、何て言ったっけ?

 今日、カイリとツッパに偉そうに命令していた男は、二人が最近入った組織、アントスの幹部だ。カイリがあの男には丁寧に接しているので、ツッパもそれに合わせて男を立てている。だがツッパはあの男のことを、ひょろっと細くて弱そうな見た目だなと思っていた。

 ――ねんこうじょれつ? なんだっけ? あ、先に入ったもん勝ちって意味だっけな。

 先に入った者が偉いということなら、つい最近アントスに入ったばかりのカイリとツッパは確かに下っ端だ。カイリがいくら強くても、あの男に頭を下げなければならないのも仕方がない。仕方がないのだが、ツッパにはどうもそれが気持ち悪く感じた。

 ――あんな弱そうな奴がアントスの幹部なんてな。はあ。すげえ組織だって聞いてたのに、あんまり腕っぷしの強そうな奴はいねえのかな。……どうせなら、あのドラゴン殺しみたいなのがいる組織に入って、って……。うおっ、思い出しただけで身震いするんだぜ……。

 先日遭遇したドラゴン殺しの英雄ゴーリアントに向けられた殺気を思い出して、ツッパはぶるりと震えた。ツッパが物心ついてから二十数年経つが、腰が抜けるほど恐ろしい存在にあったのは、あれが初めてのことだった。

 ――オレはともかく、アニキがあんなにビビったのも初めてなんだぜ……。

 カイリとツッパが二人して逃げ帰って、あのアントスの幹部の男に訴えたのは、「ゴーリアントの相手は無理」ということだ。そんな二人を鼻で笑った男の采配で、今回の仕事を回された。

 ミルパラのメンバーが攫ってきた子供を一日見張る。それだけの簡単な仕事だ。そのはずだったが、仕事の内容も日数も増えてしまった。

「あいつ、最初からそのつもりだったんじゃねえかな……」

 ツッパもカイリも子供相手は苦手だが、あの男は更に向いていなさそうだ。先ほど男とルイが話をしているところを見ていたツッパはそう感じていた。

 ――アニキは顔は怖えけど、優しいところもあるからなあ。

 ツッパは食事中のルイの姿を凝視するカイリの姿を思い出していた。あれはきっと、ルイが硬いパンを喉に詰まらせないように見守っていたのだろう。そうツッパは確信している。

 ――アニキ、絶対ルイ様のこと気に入ったんだよな。……まあオレは、何があってもアニキについていくだけさ。

 ツッパはため息を吐くと、もう一度丁寧にコップを洗い直した。
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