辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

文字の大きさ
149 / 155

ミルパラの拠点にて

しおりを挟む
「ここまでありがとう。一人で戻らせてごめんなさい。どうか気を付けて戻ってちょうだい」

「わっしのことはお構いなく。ここらで少し休んで、明るくなってから、ぼちぼちと戻りますんで。それよりお二方こそ、重々お気を付けくだせえ」

「ええ、ありがとう」

 エメリーンとヤナゼが御者と別れたのは、馬車では通れない道を行くと決めたからだった。現在地はユハ山の隣にある、2つの峰からなるサウスティ山の山すそだ。

 山の麓をぐるっと反対側まで行ったところに、ミルパラの拠点の一つがある。馬車でそのまま向かうことも出来るのだが、ヤナゼからの提案で、ここで馬車を降りることを選んだのだ。

「ここまで夜道を無理して走ってもらったのだもの。何とか今夜のうちにルイ様に追いつきたいわ」

「はい。そうしましょう」

 ヤナゼの言葉は少なかったが、エメリーンの目には、月明かりの中でヤナゼが頷くのが見えた。ヤナゼの後ろをエメリーンが追い掛けるように、人目を避けて二人は駆けた。

 途中、ヤナゼがエメリーンに合わせてスピードを抑えているのが分かって、エメリーンは少し情けない気持ちになったのだが、余計なプライドを捨てて今は一所懸命に進むことを選んだ。

 そうしてようやく二人がミルパラの拠点に辿り着いたのは、真夜中のことだった。

「どうやら宴会中のようですね」

 やはりミルパラはそれなりに稼いでいる組織のようだ。その建物は2階建てのログハウスで、大きく造りがしっかりしている。

 ヤナゼとエメリーンは少し離れた位置から、広々としたデッキで酒を飲んでいるメンバーの姿を数えた。

「……5人。いえ、7人。ああ、ここからでは中が良く見えないですね」

「そうね。あ、ナナリが居たわ」

 息を呑んだエメリーンの視線の先で、ナナリが嬉しそうな顔で、あご髭のある組織の男の腕に絡みついた。その腕は遠目にもなかなか太そうだ。

「あ」

 他のメンバーがいるのにも関わらず、ナナリと男が熱いキスを交わしている。暗闇の中、エメリーンが渋い表情をしていることに気付いているのかいないのか、ヤナゼが「ああ、あれはミルパラのナンバー2、ブールですね」とエメリーンに教える。

「そう。じゃああの男は、ナナリの夫なのかしら?」

「いえ、ブールの妻は別の女だったかと。あ、来ましたね」

「え?」

 エメリーンとヤナゼの視線の先で、修羅場が始まった。両手にワイングラスを持って現れたその女は、酔っているのかご機嫌な様子だった。ふくよかで一見優しそうなその女は、ナナリとブールの濃厚なキスシーンを目にすると、すぐさま2杯のワインをナナリの顔にぶちまけたのだ。

 何を言っているのかまでは聞こえないが、想像はつく。女はナナリをブールから引き離し、デッキの床へ押し倒した。そのままナナリの上に馬乗りになると、ナナリの赤髪を掴んでデッキの床に打ち付けている。

 「ぎゃあ」とか「痛いっ」とか、ナナリの悲鳴はエメリーンの耳まで届いた。騒ぎを聞きつけて、ミルパラのメンバーが続々とデッキに出てきている。

「11、12……。こんなものでしょうかね」

「そうね。まあ全員が出てきたとは限らないけど」

 ジタバタと暴れるナナリを、ついさっきまで熱いキスに応じていたブールが、面白そうに眺めている。どうやら助ける気はないようだ。

 ぎゃあぎゃあと喚いているナナリを遠目に見つめながら、エメリーンはふとヒューバートのことを思い出していた。

 ーーそういえば旦那様は、ナナリのことを『ぱっちりとした目が印象的』と言っていたわね。……ブールもその、『ぱっちりとした目』っていうのに誘われて、キスをしていたのかしら? ……いえ、そんなことを考えている場合ではなかったわね。

 エメリーンがヤナゼの方を見遣ると、静かに首を横に振っている。エメリーンが場違いなことを考えていることに気が付いた訳ではないだろうが、何だかエメリーンはいたたまれない気になった。

「今は無理ですね。時を待ちましょう」

 ヤナゼの言葉にエメリーンは「ええ」と頷いた。夜中とはいえ、あんな騒ぎが起きていれば、寝ているメンバーなどごく僅かだろう。

 エメリーンもさすがに正面突破をする気はない。ルイを捜すにも、ナナリから情報を聞き出すにも、あまりにも状況が悪かった。

 ――ルイ様がいるとしたら2階の部屋かしら?

「……とっとと騒ぎを終えて眠れば良いのに」

「本当に」

 まだまだ終わりそうにない、酒に酔ったミルパラのメンバーたちのいざこざを睨みながら、エメリーンは唇を噛んだ。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

処理中です...