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さあ、どうぞ
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「ああ、よろしければ、この機会に辺境伯のお仕事も私が代行しましょうか? そうすれば旦那様はお好きなだけ、お好きな女性と好き勝手なことができるでしょうし」
「は? は? あ、いや、いやそれは、辺境伯としての仕事は、私の仕事だ」
「ああ、そうですか。それならしっかりやってくださいね」
勢いに押されても、自身の仕事は手放さなかったヒューバートを、ほんの少し――爪の先ほどではあるが認めつつ、エメリーンはさらに捲し立てる。
「ところで、ずっと思っていたんですが、旦那様の女好きってなんなんですか? ああ、勘違いしないでくださいね。私は旦那様がどれだけ他の女性の元に通おうが全く構わないです。旦那様は私の好みのタイプではありませんし」
「えっ?」
エメリーンの言葉に、ヒューバートが心底意外そうな顔をした。なぜ意外そうな顔をしているのか、エメリーンにはそっちの方が意外だ。
「えっ、て何ですか? と言うか、私の好みのタイプなんて興味ないでしょう? いえ、そうじゃなくて。私が言いたいのは、嫡男であるルイ様にさえ、まともに父親らしいことができていないくせに、これから愛人の方たちとの間にできた子供たちがどんどん現れた時に、どういう対応をするつもりですかってことですよ。あ、私に期待しないでくださいね。私はルイ様の環境改善ができれば、それでいいので。旦那様は次の奥様をどなたにするか、捜しながら行動されるといいと思いますよ」
「「「えっ?」」」
驚きの声が上がったのは、壁際に立つ三人からだ。
「まあ、まだまだ先の話ですよ。しばらくはルイ様の側から離れろと言われても離れませんからね。でも私には他にもやらないといけないことがありますので、これから何人も現れるかもしれない愛人の方の子供までは面倒みきれません。ほら、こちらの旦那様と同じように、領地に戻らず王都で遊び呆けている、どこぞの子爵夫妻がいるでしょう? そちらのことも、やっぱり放っておいてはいけないと思っているんです。嫁いだからって、元の領地のことは関係ないなんて、もうそんなことを考えるのは止めにしました。困っている領民たちがいると知ってしまった今となっては、もう何とかするように動くしかないと思っているんですよ」
「奥様……」
マーサが涙ぐんでいるのは、同じ話を馬車の中で聞いていた、あの日のことを思い出しているからだろう。
「オルクス子爵家のことか? それは、どういうことだ? 何か私にできることがあれば」
「いや、ヒューバート様は、まずは辺境伯領のことに注視されたほうが良いですな。そうですよな、奥様」
なぜかこのタイミングで、オルクス子爵領対策についての助力を言い掛けたヒューバートを、ルドガーが制止した。エメリーンは「ええ」と答えて、ルドガーと苦笑を交わす。
「旦那様にできることと仰るのであれば、ルイ様との関係改善を第一にお考えください」
「それは……」
なぜそこで返事を躊躇うのか、エメリーンは鎮まりかけていた怒りが、またふつふつと込み上げてくるのを感じた。そもそもエメリーンがそのことを知るきっかけとなったのは、一緒にランニングをしている時にルイがこぼした言葉だった。
「ぼくがつよくなったら、ちちうえはぼくのことをすきになってくれるかな」
ヒューバートが自身のことを嫌っていることが前提のその言葉に、エメリーンは首を傾げた。
「旦那様がルイ様に、その、何か言ったのですか?」
遠回しに質問したエメリーンは、ルイが見るからに寂しそうな顔になったのを見た。
「ううん。ちちうえは、ぼくとあうことも、おなはしすることもないから」
――会うことも、話すこともない?
「ははうえがぼくをすてた……から、ちちうえも、ぼくをきらいに……でも、ぼくがつよくなったら、へんきょうはくにふさわしくつよくなったら、ちちうえはぼくのことをすきになってくれるんじゃないかとおもって……」
わずか4歳の子供が、そんな悲しいことを言いながら上を向いて走っていた。それがどれほど難しいことか、エメリーンには前世の経験と重ねて想像することができた。
――ルイ様は、なんて強い子なんだろう。
ルイを賞賛したい気持ちと同時に、ルイのあの昏い目の原因が分かって、エメリーンは心底腹が立ったのだ。
今、ルイとの関係改善をと伝えて、それを回避しようとしているヒューバートを目の当たりにして、エメリーンはここ数日溜め込んでいた怒りを、もう一度爆発させることになる。
「やっぱり旦那様は父親失格ですね。女は好きだけど子供は嫌いですか? あれだけ女遊びがお盛んだったら、まだまだ子供が増えるかもしれないのに、その子たちのことも放置ですか? 何人増えても、全部使用人たちに丸投げですか? は? それってどんなクズですか? ご自分でもクズだと思いませんか? いくら何でもクズ過ぎませんか? クズを極めたい夢でもお持ちですか? すでに極めているようにも見えますけど、さらなるクズ――クズの王様でも目指しているんですか? 頑張ってくださいね、ってどなたか応援でもしてくれているんですか?」
「なっ、私にも理由が」
「理由? 母親に捨てられた2歳の子供を放置する理由ですか? そんなものあります?」
うっ、と言葉に詰まったヒューバートを見て、エメリーンが鼻で笑う。
「どうぞ? 私を――いえ、私たちを納得させることのできる理由があれば、どうぞ仰ってください。いたいけな幼子を放置して女遊びに出掛けるのに、どんな理由が? それって領地の危機か何かでしょうか? もっと大きく、国でも滅びそうでしょうか? それって女遊びをすると解決する危機なんでしょうか? さあどうぞ? 答えてくださいよ。さあ、どうぞ?」
いつの間にか壁際で気配を消していたルドガーたちをエメリーンがチラリと見ると、すごいことに巻き込まれたという顔をしていたが、その顔は揃って晴れやかでもあった。
「は? は? あ、いや、いやそれは、辺境伯としての仕事は、私の仕事だ」
「ああ、そうですか。それならしっかりやってくださいね」
勢いに押されても、自身の仕事は手放さなかったヒューバートを、ほんの少し――爪の先ほどではあるが認めつつ、エメリーンはさらに捲し立てる。
「ところで、ずっと思っていたんですが、旦那様の女好きってなんなんですか? ああ、勘違いしないでくださいね。私は旦那様がどれだけ他の女性の元に通おうが全く構わないです。旦那様は私の好みのタイプではありませんし」
「えっ?」
エメリーンの言葉に、ヒューバートが心底意外そうな顔をした。なぜ意外そうな顔をしているのか、エメリーンにはそっちの方が意外だ。
「えっ、て何ですか? と言うか、私の好みのタイプなんて興味ないでしょう? いえ、そうじゃなくて。私が言いたいのは、嫡男であるルイ様にさえ、まともに父親らしいことができていないくせに、これから愛人の方たちとの間にできた子供たちがどんどん現れた時に、どういう対応をするつもりですかってことですよ。あ、私に期待しないでくださいね。私はルイ様の環境改善ができれば、それでいいので。旦那様は次の奥様をどなたにするか、捜しながら行動されるといいと思いますよ」
「「「えっ?」」」
驚きの声が上がったのは、壁際に立つ三人からだ。
「まあ、まだまだ先の話ですよ。しばらくはルイ様の側から離れろと言われても離れませんからね。でも私には他にもやらないといけないことがありますので、これから何人も現れるかもしれない愛人の方の子供までは面倒みきれません。ほら、こちらの旦那様と同じように、領地に戻らず王都で遊び呆けている、どこぞの子爵夫妻がいるでしょう? そちらのことも、やっぱり放っておいてはいけないと思っているんです。嫁いだからって、元の領地のことは関係ないなんて、もうそんなことを考えるのは止めにしました。困っている領民たちがいると知ってしまった今となっては、もう何とかするように動くしかないと思っているんですよ」
「奥様……」
マーサが涙ぐんでいるのは、同じ話を馬車の中で聞いていた、あの日のことを思い出しているからだろう。
「オルクス子爵家のことか? それは、どういうことだ? 何か私にできることがあれば」
「いや、ヒューバート様は、まずは辺境伯領のことに注視されたほうが良いですな。そうですよな、奥様」
なぜかこのタイミングで、オルクス子爵領対策についての助力を言い掛けたヒューバートを、ルドガーが制止した。エメリーンは「ええ」と答えて、ルドガーと苦笑を交わす。
「旦那様にできることと仰るのであれば、ルイ様との関係改善を第一にお考えください」
「それは……」
なぜそこで返事を躊躇うのか、エメリーンは鎮まりかけていた怒りが、またふつふつと込み上げてくるのを感じた。そもそもエメリーンがそのことを知るきっかけとなったのは、一緒にランニングをしている時にルイがこぼした言葉だった。
「ぼくがつよくなったら、ちちうえはぼくのことをすきになってくれるかな」
ヒューバートが自身のことを嫌っていることが前提のその言葉に、エメリーンは首を傾げた。
「旦那様がルイ様に、その、何か言ったのですか?」
遠回しに質問したエメリーンは、ルイが見るからに寂しそうな顔になったのを見た。
「ううん。ちちうえは、ぼくとあうことも、おなはしすることもないから」
――会うことも、話すこともない?
「ははうえがぼくをすてた……から、ちちうえも、ぼくをきらいに……でも、ぼくがつよくなったら、へんきょうはくにふさわしくつよくなったら、ちちうえはぼくのことをすきになってくれるんじゃないかとおもって……」
わずか4歳の子供が、そんな悲しいことを言いながら上を向いて走っていた。それがどれほど難しいことか、エメリーンには前世の経験と重ねて想像することができた。
――ルイ様は、なんて強い子なんだろう。
ルイを賞賛したい気持ちと同時に、ルイのあの昏い目の原因が分かって、エメリーンは心底腹が立ったのだ。
今、ルイとの関係改善をと伝えて、それを回避しようとしているヒューバートを目の当たりにして、エメリーンはここ数日溜め込んでいた怒りを、もう一度爆発させることになる。
「やっぱり旦那様は父親失格ですね。女は好きだけど子供は嫌いですか? あれだけ女遊びがお盛んだったら、まだまだ子供が増えるかもしれないのに、その子たちのことも放置ですか? 何人増えても、全部使用人たちに丸投げですか? は? それってどんなクズですか? ご自分でもクズだと思いませんか? いくら何でもクズ過ぎませんか? クズを極めたい夢でもお持ちですか? すでに極めているようにも見えますけど、さらなるクズ――クズの王様でも目指しているんですか? 頑張ってくださいね、ってどなたか応援でもしてくれているんですか?」
「なっ、私にも理由が」
「理由? 母親に捨てられた2歳の子供を放置する理由ですか? そんなものあります?」
うっ、と言葉に詰まったヒューバートを見て、エメリーンが鼻で笑う。
「どうぞ? 私を――いえ、私たちを納得させることのできる理由があれば、どうぞ仰ってください。いたいけな幼子を放置して女遊びに出掛けるのに、どんな理由が? それって領地の危機か何かでしょうか? もっと大きく、国でも滅びそうでしょうか? それって女遊びをすると解決する危機なんでしょうか? さあどうぞ? 答えてくださいよ。さあ、どうぞ?」
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