辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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この胸の痛みを

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 ルイの母親でヒューバートの妻であったグレイスが、あの日ヒューバートの元を去ってから、ヒューバートは荒れていた。いや、今も荒れているというべきか。

 ――愛して、いたんだ。

 グレイスのことを思うと、ヒューバートは今も胸が痛い。26歳にもなって、夫と子供を捨てた女のことをいつまでも未練たらしく想って、勝手に苦しんでいることが滑稽だということは分かってはいた。

 突然母を失ったルイを思いやることもできず、それどころかグレイスと同じ銀髪が目に入ることがつらくて、ルイを視界に入れることを避け続けた。

 「理由? 母親に捨てられた2歳の子供を放置する理由ですか? そんなものあります?」とエメリーンに言われて、ヒューバートは頭をドカンと殴られたような衝撃を受けた。
 
 ――ああ、本当に、そのとおりだ。そのとおり、でしかない。
 
 ヒューバートは現実逃避のため、数多の女性たちと浮名を流した。考えることを放棄して、ただ身体だけの関係を繰り返した。「一晩だけ」と伝えても「それでもいい」と群がってきた彼女たちの中には、ヒューバートの容姿を目当てとしていたものも、単純にお金を欲したものもいた。辺境伯という地位を持つ男との一夜の関係が何かのステイタスとなるのか、「自慢する」とうれしそうに言ったものもいた。

 ただれた夜をどれだけ重ねても、グレイスへの想いが薄れなかったのはなぜだったのか。ヒューバートとルイを捨てて、ただの兵士の一人と他国へ逃亡したグレイスを、どうして忘れることができなかったのか。
 
 ヒューバートの権力を使えば、グレイスの行方を探し出して連れ戻すこともできただろうし、制裁を加えることもできただろう。兵士のバアルは「いっそのこと、始末してきましょうか」と、いつまでも変わらないヒューバートに怒って過激な進言をして来たが、ヒューバートは「やめろ」と一言で断った。グレイスがこの世からいなくなったとしても、この胸の痛みが消えるとも思えなかったからだ。

 ――愛して、いたんだ……。

「……いた、か」

 ヒューバートは、ようやくグレイスのことを過去形で語れるようになった自身に気が付いた。胸の痛みがいつ消えるのかは分からないが、それはエメリーンが与えてくる頭の痛さや衝撃で搔き消せそうな気もする。

 ――エメリーン、か……。

「私は、好みのタイプではない、か……」

 ルイとの関係改善に力を注ぐのは決定だが、エメリーンとの関係構築のため、まずは好みのタイプを聞いてみるのもいいかもしれない。ヒューバートは、そんな明日のことを想像しながら、また無意識に微笑んでいた。
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