辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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辺境伯一家、降り立つ

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 エメリーンにも、今日が修羅場になることは良く分かっていた。ルイに耳障りなことを聞かせず、守りきるにはどうすれば良いか。エメリーンはエメリーンなりに考えを巡らせていた。

「旦那様、先手必勝です。ルイ様を抱いて入場されるのはどうでしょうか」

 エメリーンの提案に、「えっ」と不満気な声を発したのはルイだった。

「ぼ、ぼく、エメリーンさまをエスコートするれんしゅうしてたの」

「まあ!」

 ルイの言葉にエメリーンの心が揺れたが、今優先すべきはルイの立場を見せつけることだ。

「ルイ様、それはまた今度の楽しみに取っておいても良いですか? 今日はルイ様を初めて見る方ばかりですから、誰の目にも、ルイ様が次期辺境伯だと一目で分かると私も嬉しいです」

「うん……、わかった。ちちうえ、それでおねがいします」

「分かった。そうしよう」

 ヒューバートに決定権はなかったが、ヒューバートはそのことに不満もなかった。だがルイは、まだ少し不満があるようだ。

「でも、ぼく、あかちゃんみたいじゃない?」

 もちろん本当なら、ルイが自分で歩いて入場する方が良い。だがヒューバートとルイの関係が良好であることを、一目で知らしめるには、抱いて入るのが手っ取り早いのだ。

「ルイ様は赤ちゃんなんかじゃありませんよ。今日は、旦那様とルイ様の仲が良いことを、みんなに見てもらう日なんです」

 「そうか」と納得したように頷いたルイが、エメリーンに向かって笑った。

「エメリーンさまともなかよしなの、みてもらう」

「まあ! ええ、そうしましょうね」

 優しいルイの言葉で上機嫌になったエメリーンは、実に良い笑顔で馬車から降りることになるのだが、それが端から見れば、ヒューバートに愛されて幸せそうな様子にも見えることに、エメリーンは気が付いていなかった。

 右腕でルイを抱き、左手をエスコートに差し出したヒューバートに、エメリーンが満面の笑みで応える。もちろんエメリーンの笑顔は、ルイに向けられたものだ。

「では、行くぞ」

「はい!」

「ええ、行きましょう」

 その日、バトー公爵家の舞踏会に現れた、イルミナ王国一と言っても過言ではない美貌の辺境伯と、その辺境伯に色合い以外はそっくりな辺境伯子息は、入場時から大いに視線を集めた。

 そしてその二人に大切に扱われていた、意思の強そうな黒い瞳が印象的な小柄な若い女性にも、遠慮のない視線が浴びせられた。

 若い女性なら多少は怯みそうな状況だったが、その女性は視線を物ともせず、美しい姿勢で彼ら同様に人々の目を引きつけていた。

「もしかして、あの方が……?」

「想像と違うわ」

「別の方ではないかしら? ヒューバート様ならあり得るのではなくて?」

 若い女性の正体が、辺境伯夫人のエメリーンであるというシンプルな回答に、人々がなかなか辿り着けないのも無理はない。ヒューバートの評判も、結婚式の様子も、あまりにも有名だったからだ。

「……私のせいだな」

 エメリーンの耳に届いたヒューバートの呟きに、エメリーンは小さなため息一つで答えた。
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