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参謀ミナハとの静かなる戦い
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「貴女がシュテルン様のお気に入り? まだほんの子供じゃないですか」
ランチタイムの終わり際、颯爽とナギのいる食堂に現れたのは、黒縁メガネをかけたスタイルの良い赤髪の美女だった。
配膳を待つ列の最後尾にわざわざ並んでナギを訪ねてきた女。その女の腰まであるストレートヘアは、つい触りたくなるほどツヤツヤしていた。
——うわぁ、参謀のミナハだ。シュッとしてるなぁ。
大阪のおばちゃん的なことを思いながらも、ナギはとっさに子供のような無邪気な笑顔をミナハに向けた。
「えっと? こんにちはー」
メランガの頭脳であるミナハを敵に回すのは危険だと、ナギはとっさに判断していた。さらにナギの記憶では、ミナハはシュテルンに心酔していたはずだ。
「貴女は毎日シュテルン様の部屋に入り浸っているそうですね。どういうつもりですか?」
ナギの笑顔に一瞬だけ怯んだものの、ミナハはビシッと右手の人差指でナギを差して聞いた。言葉は丁寧だが、目は笑っていない。
——うわ、これはやばい。ここで怪しまれて、シュテルンの側に居られなくなるわけにはいかないのよ……。うん、ちょっと、いや、かなり抵抗はあるけど、この作戦で行こう。
「ええええっ?」
意図して幼く見えるように大げさに首を傾げながら、ナギは答えた。声もいつもより高めを意識する。
「だって、シュテルンの部屋、すっごい広いんだよ?」
「……は?」
まだ言葉が続くと思っていたのであろうミナハが、拍子抜けしたような顔をしている。
——うん。頭の良い人には、多くを語らないのが一番よね。そして、私は子供。警戒が必要ない感じの。……うん、踏ん張れ、私。理性を捨てろ。命の方が大切だ。
「だからね、広いのっ! シュテルンのリビング、側転を10回続けてできるくらい、なんだよ?」
「こーんなのっ!」と両手を目いっぱい広げて、ナギは広さと側転をアピールした。
「側転……」
「え? 側転、知らない? んーと、前転だと何十回だろう……。目が、目が回っちゃうよぅ……」
「いえ、側転は分かります」
「そーう? 良いよねー、側転っ!」
両手を握りしめ、今度は側転大好きをアピールするナギの勢いに、ミナハは押されるまま「はあ」と頷いた。
——よし! 今だ。逃げようっ。
「側転、側転ーっ」と言いながら、ナギは厨房の奥に引っ込んだ。
——うおおおお、なんだ「良いよね、側転っ!」って。あー、ダメだ。いや、ダメじゃない。私は子供。私は子供……。
そのまま厨房内に留まることも出来ず、トイレに行っていたたまれなさを流したナギがカウンターに戻ったときには、ミナハの姿はもうそこにはなかった。
——ふぅ、とりあえず、ごまかせた……?
「あ、あれ?」
ホッとしたナギは、膝から力が抜けてカウンターの手前でしゃがみこんでしまった。どうやら自身で思っていた以上に、ナギはミナハとの対面に緊張していたらしい。
「ナギ、どうした? 今日もロボか?」
「ロボ、ボロか?」
夜の仕込みに集中していたはずのパムとナナが、いつのまにか手を止めている。
——ロボでボロ、とか。身も心も、ある意味ボロボロだよ……。
パムとナナの率直な物言いに、時折ナギの心も折れそうになる。だが二人から悪意を感じないからだろうか。ナギはつい笑ってしまうのだ。
「はは、いえ、大丈夫です。すみません」
「ソウカ」
「ナギ、ムリなトキはムリ言え」
「はーい。ありがとうございます」
ひと息吐いて立ち上がりながら、ナギはふと心配になって二人を振り返った。すでに仕事モードに戻ったパムとナナは、ナギのことをもう見てはいない。
——さっきの、聞かれてない……よね?
二人は基本、カウンターより少し離れた位置で作業をしている。カウンター越しの会話はパムとナナには聞こえていないと、今までナギは疑ったこともなかったのだが、今日のミナハとのやりとりは、本当に聞かれていてはまずいような気がしたのだ。
「ナギ、もうキャクはナイか?」
顔を上げずにパムに聞かれ、ナギは慌ててカウンターの外に目を向けた。
「あ、もういないようです」
「ナイならヒルヤスミ。また夜ハタラケー」
「オツカレ」
「あ、はい。お疲れ様です」とナギが振り返ったときには、いつものようにパムとナナは手を取り合ってスタタタッと走り去るところだった。
お決まりのように、すでに遠くなった背中を見ながら、ナギは本日2度目の脱力感を感じていた。
——やっぱり、機械仕掛けのおもちゃみたい……。ってか、本当にあの二人、何者なの?
ナギの記憶にある限り、『Weeds never die.』にパムとナナの姿はなかった。だがあんな個性的なキャラがモブキャラだというのも謎だ。
カウンターの上を拭いて、下げられていた食器を洗浄機に入れると、ナギは疑問を頭を横に振ることで追い出した。
——やめやめ。さ、休憩しよっと。
悩んでも解決しないことはとりあえず忘れる。思考に取り憑かれて動けなくなることを嫌ったナギが、ここ数年心掛けていることだ。
両手を組んで大きく伸びをしながら、ナギは厨房に背を向けた。
——そうだ。たこ焼き、食べに行こうかな。
ランチタイムの終わり際、颯爽とナギのいる食堂に現れたのは、黒縁メガネをかけたスタイルの良い赤髪の美女だった。
配膳を待つ列の最後尾にわざわざ並んでナギを訪ねてきた女。その女の腰まであるストレートヘアは、つい触りたくなるほどツヤツヤしていた。
——うわぁ、参謀のミナハだ。シュッとしてるなぁ。
大阪のおばちゃん的なことを思いながらも、ナギはとっさに子供のような無邪気な笑顔をミナハに向けた。
「えっと? こんにちはー」
メランガの頭脳であるミナハを敵に回すのは危険だと、ナギはとっさに判断していた。さらにナギの記憶では、ミナハはシュテルンに心酔していたはずだ。
「貴女は毎日シュテルン様の部屋に入り浸っているそうですね。どういうつもりですか?」
ナギの笑顔に一瞬だけ怯んだものの、ミナハはビシッと右手の人差指でナギを差して聞いた。言葉は丁寧だが、目は笑っていない。
——うわ、これはやばい。ここで怪しまれて、シュテルンの側に居られなくなるわけにはいかないのよ……。うん、ちょっと、いや、かなり抵抗はあるけど、この作戦で行こう。
「ええええっ?」
意図して幼く見えるように大げさに首を傾げながら、ナギは答えた。声もいつもより高めを意識する。
「だって、シュテルンの部屋、すっごい広いんだよ?」
「……は?」
まだ言葉が続くと思っていたのであろうミナハが、拍子抜けしたような顔をしている。
——うん。頭の良い人には、多くを語らないのが一番よね。そして、私は子供。警戒が必要ない感じの。……うん、踏ん張れ、私。理性を捨てろ。命の方が大切だ。
「だからね、広いのっ! シュテルンのリビング、側転を10回続けてできるくらい、なんだよ?」
「こーんなのっ!」と両手を目いっぱい広げて、ナギは広さと側転をアピールした。
「側転……」
「え? 側転、知らない? んーと、前転だと何十回だろう……。目が、目が回っちゃうよぅ……」
「いえ、側転は分かります」
「そーう? 良いよねー、側転っ!」
両手を握りしめ、今度は側転大好きをアピールするナギの勢いに、ミナハは押されるまま「はあ」と頷いた。
——よし! 今だ。逃げようっ。
「側転、側転ーっ」と言いながら、ナギは厨房の奥に引っ込んだ。
——うおおおお、なんだ「良いよね、側転っ!」って。あー、ダメだ。いや、ダメじゃない。私は子供。私は子供……。
そのまま厨房内に留まることも出来ず、トイレに行っていたたまれなさを流したナギがカウンターに戻ったときには、ミナハの姿はもうそこにはなかった。
——ふぅ、とりあえず、ごまかせた……?
「あ、あれ?」
ホッとしたナギは、膝から力が抜けてカウンターの手前でしゃがみこんでしまった。どうやら自身で思っていた以上に、ナギはミナハとの対面に緊張していたらしい。
「ナギ、どうした? 今日もロボか?」
「ロボ、ボロか?」
夜の仕込みに集中していたはずのパムとナナが、いつのまにか手を止めている。
——ロボでボロ、とか。身も心も、ある意味ボロボロだよ……。
パムとナナの率直な物言いに、時折ナギの心も折れそうになる。だが二人から悪意を感じないからだろうか。ナギはつい笑ってしまうのだ。
「はは、いえ、大丈夫です。すみません」
「ソウカ」
「ナギ、ムリなトキはムリ言え」
「はーい。ありがとうございます」
ひと息吐いて立ち上がりながら、ナギはふと心配になって二人を振り返った。すでに仕事モードに戻ったパムとナナは、ナギのことをもう見てはいない。
——さっきの、聞かれてない……よね?
二人は基本、カウンターより少し離れた位置で作業をしている。カウンター越しの会話はパムとナナには聞こえていないと、今までナギは疑ったこともなかったのだが、今日のミナハとのやりとりは、本当に聞かれていてはまずいような気がしたのだ。
「ナギ、もうキャクはナイか?」
顔を上げずにパムに聞かれ、ナギは慌ててカウンターの外に目を向けた。
「あ、もういないようです」
「ナイならヒルヤスミ。また夜ハタラケー」
「オツカレ」
「あ、はい。お疲れ様です」とナギが振り返ったときには、いつものようにパムとナナは手を取り合ってスタタタッと走り去るところだった。
お決まりのように、すでに遠くなった背中を見ながら、ナギは本日2度目の脱力感を感じていた。
——やっぱり、機械仕掛けのおもちゃみたい……。ってか、本当にあの二人、何者なの?
ナギの記憶にある限り、『Weeds never die.』にパムとナナの姿はなかった。だがあんな個性的なキャラがモブキャラだというのも謎だ。
カウンターの上を拭いて、下げられていた食器を洗浄機に入れると、ナギは疑問を頭を横に振ることで追い出した。
——やめやめ。さ、休憩しよっと。
悩んでも解決しないことはとりあえず忘れる。思考に取り憑かれて動けなくなることを嫌ったナギが、ここ数年心掛けていることだ。
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