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こちらのどかで行列のできない安らぎの食堂ホール担当
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テーブルの上の皿やグラスを片付けながら、ナギは壁一面の大きな四角い窓の外に広がる梨園を見つめ、眩しさに目を眇めた。濃緑の葉が茂る木々には、黄金色の果実がたわわに実っている。
「ナギちゃーん、料理上がったよー」
「はい」
間延びした若い男の声に呼ばれて、ナギは短く応えた。
4人用の丸テーブルが三つ。そんな小さなこの食堂には、ランチの時間もほぼ終わりの時間となった現在、1組の客しかいない。
料理人1人、ホール担当1人のこじんまりしたここは、昼も夜も行列が出来ることもなくのんびりしている。
あれから、ふた月が過ぎた。
穏やかな時間を重ねれば重ねるほど、ラオン国で過ごした日々も、元の世界で起きた悲劇も、何もかも夢だったのではないかとナギは思う。
思えば、両親を失ってから初めて、ナギは本当に穏やかな日々の中にいる。
片付けの手を止めて、ナギは出来たての料理を五十がらみの夫婦に運ぶ。隣の敷地に広がる梨園で働くこの夫婦は、この小さな食堂の常連客だ。
「わあ、ナギちゃん、ナギちゃん。何回見てもすごいわ。お料理が載ったお皿を3枚同時に持つなんて。ナギちゃんってば、もしかしたら指の数が多いの?」
「いえ、セレーネさん。5本ずつですよ」
「ふふふふ、そうねぇ、そう見えるわー。でも不思議なのよー」
皿をテーブルに置いたナギが両手を広げて見せると、セレーネは無邪気に微笑んだ。セレーネの夫のダンは、そんな妻の姿を嬉しそうに見守っている。実に仲の良い夫婦だ。
皿の3枚持ちは、栄養士たちの主催した健康料理レストランというイベントで仲間から教わった技術だが、こんなところで役に立つとは思ってもみなかった。本当は4枚持ちも習ったのだが、残念ながら指の短いナギが習得出来たのは、3枚持ちまでだ。
「さあ、温かいうちにいただこうか」
「ええ、そうね」
「どうぞごゆっくりお召し上がりください」
「ありがとう」
どこまでもなごやかな夫婦とのやりとりに、父母のことを思い出してほんの少し胸が痛んだが、ナギはその痛みに気が付かないフリをした。
——今日も、のどかだな……。
ここは、ラオン国よりはるか北方の国。ナギ一人では決して越えることの出来ないと言われた険しい山を越えた先の、そのまた先にある農業が盛んな国ファウバ。
ナギが居るのは、ファウバの片隅にある果樹園の村ミヤワーだ。常春のラオン国にはなかった四季があるミヤワーは、今は夏だが、冷房の効いた店内でほとんどのときを過ごすナギには、暑さはそう感じられない。
もっともメランガでもずっと、メランガキャッスルにいたナギは、ラオン国が常春だということも知らなかった。
どこまでも田舎に見えるミヤワーだが、何もかもアゴーレの魔力で補われていたメランガとは違って、上下水道に電気にガスのインフラが整っている。
まるでナギが元いた世界にありそうな田舎の風景は、ナギに安らぎを与えてくれていた。
「さて、と」
途中だったテーブルの片付けを終わらせて、他に下げ物もなく、ドリンクなども足りていることを確認したナギは、食器類を持って洗い場に入った。
「ナギちゃん、洗い物済んだら、ランチの看板片付けちゃおっかー」
「はい」
またも一番シンプルな返事だけを返したナギに、料理人から不満そうなため息が漏れたが、ナギはそれを洗い物の水音で聞こえなかったことにした。
「ナギちゃーん、料理上がったよー」
「はい」
間延びした若い男の声に呼ばれて、ナギは短く応えた。
4人用の丸テーブルが三つ。そんな小さなこの食堂には、ランチの時間もほぼ終わりの時間となった現在、1組の客しかいない。
料理人1人、ホール担当1人のこじんまりしたここは、昼も夜も行列が出来ることもなくのんびりしている。
あれから、ふた月が過ぎた。
穏やかな時間を重ねれば重ねるほど、ラオン国で過ごした日々も、元の世界で起きた悲劇も、何もかも夢だったのではないかとナギは思う。
思えば、両親を失ってから初めて、ナギは本当に穏やかな日々の中にいる。
片付けの手を止めて、ナギは出来たての料理を五十がらみの夫婦に運ぶ。隣の敷地に広がる梨園で働くこの夫婦は、この小さな食堂の常連客だ。
「わあ、ナギちゃん、ナギちゃん。何回見てもすごいわ。お料理が載ったお皿を3枚同時に持つなんて。ナギちゃんってば、もしかしたら指の数が多いの?」
「いえ、セレーネさん。5本ずつですよ」
「ふふふふ、そうねぇ、そう見えるわー。でも不思議なのよー」
皿をテーブルに置いたナギが両手を広げて見せると、セレーネは無邪気に微笑んだ。セレーネの夫のダンは、そんな妻の姿を嬉しそうに見守っている。実に仲の良い夫婦だ。
皿の3枚持ちは、栄養士たちの主催した健康料理レストランというイベントで仲間から教わった技術だが、こんなところで役に立つとは思ってもみなかった。本当は4枚持ちも習ったのだが、残念ながら指の短いナギが習得出来たのは、3枚持ちまでだ。
「さあ、温かいうちにいただこうか」
「ええ、そうね」
「どうぞごゆっくりお召し上がりください」
「ありがとう」
どこまでもなごやかな夫婦とのやりとりに、父母のことを思い出してほんの少し胸が痛んだが、ナギはその痛みに気が付かないフリをした。
——今日も、のどかだな……。
ここは、ラオン国よりはるか北方の国。ナギ一人では決して越えることの出来ないと言われた険しい山を越えた先の、そのまた先にある農業が盛んな国ファウバ。
ナギが居るのは、ファウバの片隅にある果樹園の村ミヤワーだ。常春のラオン国にはなかった四季があるミヤワーは、今は夏だが、冷房の効いた店内でほとんどのときを過ごすナギには、暑さはそう感じられない。
もっともメランガでもずっと、メランガキャッスルにいたナギは、ラオン国が常春だということも知らなかった。
どこまでも田舎に見えるミヤワーだが、何もかもアゴーレの魔力で補われていたメランガとは違って、上下水道に電気にガスのインフラが整っている。
まるでナギが元いた世界にありそうな田舎の風景は、ナギに安らぎを与えてくれていた。
「さて、と」
途中だったテーブルの片付けを終わらせて、他に下げ物もなく、ドリンクなども足りていることを確認したナギは、食器類を持って洗い場に入った。
「ナギちゃん、洗い物済んだら、ランチの看板片付けちゃおっかー」
「はい」
またも一番シンプルな返事だけを返したナギに、料理人から不満そうなため息が漏れたが、ナギはそれを洗い物の水音で聞こえなかったことにした。
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