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話し合いは思った以上にこちらのペースでした
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小さなテーブルにブルと向かい合って座ったナギは、元の世界で見ていたテレビドラマでよくある取り調べの風景だなと可笑しくなった。
笑いそうなのを奥歯を噛みしめて堪えたのは、そんな状況ではないことはナギにも分かっていたからだ。
万が一にもナギが逃亡することがないようにか、イエーはドアに凭れて立っている。
バンッと派手な音に悲鳴を上げたのは、古くて小さな木製のテーブルだ。ブルのあからさまな威圧に、イエーは複雑な表情をしたが、口を出すことはしなかった。
「さて、話を聞かせてもらおうか。俺はレド様やピクたちとは違う。嘘は通じないからそう思え」
「……こわーい。なんてね」
ブルの脅しに対し、ナギは口先だけ怯えてかわいげなく応じた。あからさまな棒読みの言葉に、早速ブルが苛ついたのが分かる。
「馬鹿にしてるのか?」
「別に?」
ふいっと身体ごと右を向いて、ナギは足を組んだ。
「で? 何が聞きたいの?」
ナギの生意気な態度に、ブルが目を細める。ブルが挑発に乗ってくれば、その分だけ話が進めやすくなると、ナギは計算していた。
「昏い目をしてるな。お前、本当にガキか? 歳はいくつだ」
「女性に年齢を聞くなんて、本当に失礼ね」
「なにっ?」
「ま、目上の人間に対しての態度もサイテーだけど」
「なっ!?」
ブルとイエーが揃って目を見張ったのが分かった。それほどナギの言ったことは、思いもよらないことだったのだろう。
「目上だと? それはいくら何でも言い過ぎじゃないのか。俺は25だぞ」
「そう、じゃあ私の二つ下ね」
「なっ?」
「なんやてーっ!!」
叫んだのはイエーで、ブルは言葉を失っている。どうやらナギの告白は想像を超えたらしい。
ここが好機だとナギは話を進めることにした。本当のことを織り交ぜた嘘は、タイプは違えど直情的なブルとイエーには見破れないだろうとナギは思ったのだ。
二人が驚くしかない真実の後に、ナギは二人が他のメンバーにはそう簡単にはすべてを話せない嘘を吐けばいい。
ナギは顔を上げて、ブルと視線を合わせた。眉間に皺が寄ったのは、いまだ間抜け面をしているブルが可笑しかったからだが、その後の話にぴったりとマッチした。
「私はシュテルンにとって、欲望のはけ口でしかないの。シュテルンはメランガに迷い込んだ私に、食堂の仕事を与えて、都合の良いときに身体の関係を求めてたのよ」
「はっ? 欲望のはけ口って、身体の関係って、お、お前……?」
ほんのり耳を赤く染めたブルとは対照的に、イエーは顔から首まで真っ赤になりながら、「なんやて」と呟いている。その様子から、嘘半分の話を二人がまんまと信じたようだとナギは確信した。
「シュテルンは私のことをただの穴って思ってた。だから私は、あなたたちが欲しいような情報は何も知らされていないわ」
「あ、あ、穴、って……」
「……私、ずっとメランガから逃げ出したかったの」
「ええっ?」
「だ、だがお前は、シュテルンのとこに戻せと言っていたじゃないか」
「うん、確かに言ったわ。あのときは動転してて。だって勝手に逃げたなんて、シュテルンに知られたらと思ったら怖くて、生きた心地もしなくて……。でも落ち着いて考えてみたら、メランガから出られて良かったって思ったの」
「シュテルンの相手は大変だし」と、夜の生活を想像させる言葉を、ナギはもう一度口にした。どうやらそのことが、二人を動揺させるには一番効果的だったからだ。
「お前……」
ブルの声は、この部屋に入ってから発した第一声よりも低い。バンッと2度目になる机の音に、ナギは内心びくっとしたが、ナギを庇うようにテーブルの上に上半身を投げ出したイエーにこそ、ナギは驚いた。それから、次にブルが発した言葉にもだ。
「シュテルンの野郎、許しがたいな!」
「ナギちゃんをいじめんの、もうやめたってー!」
「えっ?」
タイミングが重なったブルとイエーの声。ナギの前で見つめ合った二人だったが、気まずそうに先に目を逸らしたのはブルだった。
「年齢はともかく、あんな大男がこんな小柄な女を性欲のはけ口にするとか、あ、穴呼ばわりとか、俺にはそんなことは許せない」
「お、オレも。あっ、そういや、ブルやんの姉ちゃんも小柄やもんな」
「う、うるさいっ! それは今関係ないっ!」
——へー、お姉さんがいるんだ。ってか、ブルやんって……。
イエー越しにナギがブルをチラリと見ると、ブルはナギに険しい表情を向けた。
「お前も、断るとか逃げるとか、何か抵抗は出来なかったのか!」
「え……」
「いや、シュテルン相手に下手に抵抗などしたら、何をされるか分からないか……。悪い。今のは忘れろ」
「あ、いや……」
ただの嫌な奴だと思っていたブルだが、やはり間違いなく正義の組織の一員だったらしい。イエーともども、すっかりナギの——弱者の味方だ。
——チョロ過ぎて、怖いんですけど。
思っていたより簡単にナギを信じたブルに、ナギは少しがっかりしていた。
——結局、ただの『いい人』か……。
ナギにとっては都合がいいはずなのに、ナギはそれをつまらないと思ってしまった。
自身が失った大切なものを、ブルやサザミナのメンバーたちは、きっとまだ持っているのだ。どこまでも変わってしまった自身を思い、ナギは自身の身も心も急激に冷え込んでいくのを感じた。
ともかく、ナギに対して唯一警戒心を露にしていたブルを味方につけたことで、ナギの願いは簡単に叶えられることになった。
ついにナギは、ラオン国からの逃亡に成功したのだ。
笑いそうなのを奥歯を噛みしめて堪えたのは、そんな状況ではないことはナギにも分かっていたからだ。
万が一にもナギが逃亡することがないようにか、イエーはドアに凭れて立っている。
バンッと派手な音に悲鳴を上げたのは、古くて小さな木製のテーブルだ。ブルのあからさまな威圧に、イエーは複雑な表情をしたが、口を出すことはしなかった。
「さて、話を聞かせてもらおうか。俺はレド様やピクたちとは違う。嘘は通じないからそう思え」
「……こわーい。なんてね」
ブルの脅しに対し、ナギは口先だけ怯えてかわいげなく応じた。あからさまな棒読みの言葉に、早速ブルが苛ついたのが分かる。
「馬鹿にしてるのか?」
「別に?」
ふいっと身体ごと右を向いて、ナギは足を組んだ。
「で? 何が聞きたいの?」
ナギの生意気な態度に、ブルが目を細める。ブルが挑発に乗ってくれば、その分だけ話が進めやすくなると、ナギは計算していた。
「昏い目をしてるな。お前、本当にガキか? 歳はいくつだ」
「女性に年齢を聞くなんて、本当に失礼ね」
「なにっ?」
「ま、目上の人間に対しての態度もサイテーだけど」
「なっ!?」
ブルとイエーが揃って目を見張ったのが分かった。それほどナギの言ったことは、思いもよらないことだったのだろう。
「目上だと? それはいくら何でも言い過ぎじゃないのか。俺は25だぞ」
「そう、じゃあ私の二つ下ね」
「なっ?」
「なんやてーっ!!」
叫んだのはイエーで、ブルは言葉を失っている。どうやらナギの告白は想像を超えたらしい。
ここが好機だとナギは話を進めることにした。本当のことを織り交ぜた嘘は、タイプは違えど直情的なブルとイエーには見破れないだろうとナギは思ったのだ。
二人が驚くしかない真実の後に、ナギは二人が他のメンバーにはそう簡単にはすべてを話せない嘘を吐けばいい。
ナギは顔を上げて、ブルと視線を合わせた。眉間に皺が寄ったのは、いまだ間抜け面をしているブルが可笑しかったからだが、その後の話にぴったりとマッチした。
「私はシュテルンにとって、欲望のはけ口でしかないの。シュテルンはメランガに迷い込んだ私に、食堂の仕事を与えて、都合の良いときに身体の関係を求めてたのよ」
「はっ? 欲望のはけ口って、身体の関係って、お、お前……?」
ほんのり耳を赤く染めたブルとは対照的に、イエーは顔から首まで真っ赤になりながら、「なんやて」と呟いている。その様子から、嘘半分の話を二人がまんまと信じたようだとナギは確信した。
「シュテルンは私のことをただの穴って思ってた。だから私は、あなたたちが欲しいような情報は何も知らされていないわ」
「あ、あ、穴、って……」
「……私、ずっとメランガから逃げ出したかったの」
「ええっ?」
「だ、だがお前は、シュテルンのとこに戻せと言っていたじゃないか」
「うん、確かに言ったわ。あのときは動転してて。だって勝手に逃げたなんて、シュテルンに知られたらと思ったら怖くて、生きた心地もしなくて……。でも落ち着いて考えてみたら、メランガから出られて良かったって思ったの」
「シュテルンの相手は大変だし」と、夜の生活を想像させる言葉を、ナギはもう一度口にした。どうやらそのことが、二人を動揺させるには一番効果的だったからだ。
「お前……」
ブルの声は、この部屋に入ってから発した第一声よりも低い。バンッと2度目になる机の音に、ナギは内心びくっとしたが、ナギを庇うようにテーブルの上に上半身を投げ出したイエーにこそ、ナギは驚いた。それから、次にブルが発した言葉にもだ。
「シュテルンの野郎、許しがたいな!」
「ナギちゃんをいじめんの、もうやめたってー!」
「えっ?」
タイミングが重なったブルとイエーの声。ナギの前で見つめ合った二人だったが、気まずそうに先に目を逸らしたのはブルだった。
「年齢はともかく、あんな大男がこんな小柄な女を性欲のはけ口にするとか、あ、穴呼ばわりとか、俺にはそんなことは許せない」
「お、オレも。あっ、そういや、ブルやんの姉ちゃんも小柄やもんな」
「う、うるさいっ! それは今関係ないっ!」
——へー、お姉さんがいるんだ。ってか、ブルやんって……。
イエー越しにナギがブルをチラリと見ると、ブルはナギに険しい表情を向けた。
「お前も、断るとか逃げるとか、何か抵抗は出来なかったのか!」
「え……」
「いや、シュテルン相手に下手に抵抗などしたら、何をされるか分からないか……。悪い。今のは忘れろ」
「あ、いや……」
ただの嫌な奴だと思っていたブルだが、やはり間違いなく正義の組織の一員だったらしい。イエーともども、すっかりナギの——弱者の味方だ。
——チョロ過ぎて、怖いんですけど。
思っていたより簡単にナギを信じたブルに、ナギは少しがっかりしていた。
——結局、ただの『いい人』か……。
ナギにとっては都合がいいはずなのに、ナギはそれをつまらないと思ってしまった。
自身が失った大切なものを、ブルやサザミナのメンバーたちは、きっとまだ持っているのだ。どこまでも変わってしまった自身を思い、ナギは自身の身も心も急激に冷え込んでいくのを感じた。
ともかく、ナギに対して唯一警戒心を露にしていたブルを味方につけたことで、ナギの願いは簡単に叶えられることになった。
ついにナギは、ラオン国からの逃亡に成功したのだ。
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