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あれとこれとそれとこれ
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「何だ、うれしくないのか?」と、体が硬直したかのように動けないでいるナギを、シュテルンが笑う。その笑いは、ナギの胸にすとんと落ちた。
「う、れしい、けど」
「けど、何だ。まだ何かあるのか?」
「えっと……え? 何で?」
ナギの疑問に、シュテルンが「分からん」と答えた。
「はあ?」
「正直に言うとな、ナギが俺の所有物だとアゴーレ様に言われた時から、俺にはよく分からなくてな」
「……何が分からないのよ」
「お前が俺のものだったら、何だっていうんだ?」
「へ?」
「お前を売るほど、金に困っているわけでもない。監禁だか何だかも、大して面白くはなさそうだ。だから、お前が自由になりたいと言うなら、なればいいと思った」
言われてみれば、実にシュテルンらしいものの考え方だ。モノ扱いをされていたのだと動揺しきっていたナギは、完全に拍子抜けした。
「あ、で、でも、『俺の猫』って何度も……」
先ほども、トシェの前でも、シュテルンはそう言ったのだ。『俺の猫』とナギを呼ぶシュテルンは、ナギの目に、楽しそうに見えた。
ふと思い出したナギの言葉を聞いて、シュテルンがみるみる不機嫌になっていく。
「あれとこれと何の関係がある」
「ええ?」
ナギには何が違うのかは分からないが、シュテルンにとっては何かが違うということなのか。首を捻るナギをシュテルンが睨みつけた。
「何か文句あるか?」
「な、ない」
「そうか」と、ブランデーのボトルを手にしたシュテルンの膝の上に、ナギは次の瞬間、勢いよく飛び乗って、その太い腹に抱きついた。
——うん。とにかく私は自由になったんだもの。文句なんか、あるはずがないよね。
ぎゅーっとしがみつくように力を込めて、その硬さと熱さを堪能する。
「おい。どういうつもりだ、猫」
「うん、シュテルン、最高っ!」
「は」
「シュテルン、いや、すごいわ、やっぱり」
歓喜して、シュテルンの腹筋に顔を擦りよせているナギの行動が理解できないのか、今度はシュテルンの動きがぴたりと止まった。
「……お前、俺から離れたかったんじゃないのか?」
「は? 誰がいつそんなこと言ったのよ」
「いや、しかし、自由になりたいと」
「それとこれと何の関係があるの」
ナギはすりすりと思う存分、シュテルンの硬い腹筋と胸筋の温もりを堪能する。ナギが本当に猫なら、今まさにシュテルンに懐いたといってもいいだろう。警戒心もなく、ゴロゴロと喉を鳴らして。
——あ。
くつくつというシュテルンの笑いが、ナギの右頬を伝わってくる。きっとシュテルンは、また至極楽しそうな顔をしているのだろうとナギは思った。
「そうかよ」という呟きも、ブランデーを飲み込んだごくりという音も、ナギに届く音がすべて嬉しい。そう思える自身が、ナギはうれしかった。
シュテルンが、口先だけでナギを自由にすると言ったのではないか。そんなことをナギが疑う必要は微塵もない。シュテルンは、わざわざそんな面倒くさいことはしないと分かっているからだ。
——そういうとこも、いいよね。
男らしいというのは、シュテルンのためにある言葉だっただろうか。そんなあばたもえくぼ的なことを思いながら、腹筋に頬ずりしていたナギの身体が、ヒョイと浮いた。
——あれ?
天井に続いてシュテルンの顔が視界に入ったナギは、テーブルの上に転がされて、シュテルンに覗きこまれていた。
「えーと?」
「お前、俺に抱かれたいだろう?」
ナギがシュテルンに抱きついた。そこからシュテルンが導き出した実に即物的な思考に、ナギは微笑んで答える。
「いや、別に?」
「あん?」
「っていうか、シュテルンが抱きたいんだよね? そうだな。もう1回、アレ言ってくれたら抱かせてあげる」
組み敷かれた体勢で、ナギはシュテルンの鼻を押した。おそらくは、今まで誰からもされたことのないブタ鼻の仕打ちに、シュテルンは鼻の頭に皺を寄せる。
「……アレ?」
「抱かせてください、は流石に無理だろうから、抱かせろ、ってアレ。ちょっとキュンキュンしたしね」
心が軽くなると、口も軽やかになるのだなとナギは発見していた。シュテルンとの言葉の応酬を楽しみながら、シュテルンの笑い方を真似てニッと笑う。
自身の笑い方まで真似たナギの、悪戯な指先を掴んだシュテルンは、鼻と鼻が触れるほど近くで唸るように囁いた。
「抱かせろ」
猛獣使いになったつもりでいたナギが、自身がただのエサだったことに気づいたのは、それからすぐのことだった。
「う、れしい、けど」
「けど、何だ。まだ何かあるのか?」
「えっと……え? 何で?」
ナギの疑問に、シュテルンが「分からん」と答えた。
「はあ?」
「正直に言うとな、ナギが俺の所有物だとアゴーレ様に言われた時から、俺にはよく分からなくてな」
「……何が分からないのよ」
「お前が俺のものだったら、何だっていうんだ?」
「へ?」
「お前を売るほど、金に困っているわけでもない。監禁だか何だかも、大して面白くはなさそうだ。だから、お前が自由になりたいと言うなら、なればいいと思った」
言われてみれば、実にシュテルンらしいものの考え方だ。モノ扱いをされていたのだと動揺しきっていたナギは、完全に拍子抜けした。
「あ、で、でも、『俺の猫』って何度も……」
先ほども、トシェの前でも、シュテルンはそう言ったのだ。『俺の猫』とナギを呼ぶシュテルンは、ナギの目に、楽しそうに見えた。
ふと思い出したナギの言葉を聞いて、シュテルンがみるみる不機嫌になっていく。
「あれとこれと何の関係がある」
「ええ?」
ナギには何が違うのかは分からないが、シュテルンにとっては何かが違うということなのか。首を捻るナギをシュテルンが睨みつけた。
「何か文句あるか?」
「な、ない」
「そうか」と、ブランデーのボトルを手にしたシュテルンの膝の上に、ナギは次の瞬間、勢いよく飛び乗って、その太い腹に抱きついた。
——うん。とにかく私は自由になったんだもの。文句なんか、あるはずがないよね。
ぎゅーっとしがみつくように力を込めて、その硬さと熱さを堪能する。
「おい。どういうつもりだ、猫」
「うん、シュテルン、最高っ!」
「は」
「シュテルン、いや、すごいわ、やっぱり」
歓喜して、シュテルンの腹筋に顔を擦りよせているナギの行動が理解できないのか、今度はシュテルンの動きがぴたりと止まった。
「……お前、俺から離れたかったんじゃないのか?」
「は? 誰がいつそんなこと言ったのよ」
「いや、しかし、自由になりたいと」
「それとこれと何の関係があるの」
ナギはすりすりと思う存分、シュテルンの硬い腹筋と胸筋の温もりを堪能する。ナギが本当に猫なら、今まさにシュテルンに懐いたといってもいいだろう。警戒心もなく、ゴロゴロと喉を鳴らして。
——あ。
くつくつというシュテルンの笑いが、ナギの右頬を伝わってくる。きっとシュテルンは、また至極楽しそうな顔をしているのだろうとナギは思った。
「そうかよ」という呟きも、ブランデーを飲み込んだごくりという音も、ナギに届く音がすべて嬉しい。そう思える自身が、ナギはうれしかった。
シュテルンが、口先だけでナギを自由にすると言ったのではないか。そんなことをナギが疑う必要は微塵もない。シュテルンは、わざわざそんな面倒くさいことはしないと分かっているからだ。
——そういうとこも、いいよね。
男らしいというのは、シュテルンのためにある言葉だっただろうか。そんなあばたもえくぼ的なことを思いながら、腹筋に頬ずりしていたナギの身体が、ヒョイと浮いた。
——あれ?
天井に続いてシュテルンの顔が視界に入ったナギは、テーブルの上に転がされて、シュテルンに覗きこまれていた。
「えーと?」
「お前、俺に抱かれたいだろう?」
ナギがシュテルンに抱きついた。そこからシュテルンが導き出した実に即物的な思考に、ナギは微笑んで答える。
「いや、別に?」
「あん?」
「っていうか、シュテルンが抱きたいんだよね? そうだな。もう1回、アレ言ってくれたら抱かせてあげる」
組み敷かれた体勢で、ナギはシュテルンの鼻を押した。おそらくは、今まで誰からもされたことのないブタ鼻の仕打ちに、シュテルンは鼻の頭に皺を寄せる。
「……アレ?」
「抱かせてください、は流石に無理だろうから、抱かせろ、ってアレ。ちょっとキュンキュンしたしね」
心が軽くなると、口も軽やかになるのだなとナギは発見していた。シュテルンとの言葉の応酬を楽しみながら、シュテルンの笑い方を真似てニッと笑う。
自身の笑い方まで真似たナギの、悪戯な指先を掴んだシュテルンは、鼻と鼻が触れるほど近くで唸るように囁いた。
「抱かせろ」
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