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帰ろうか
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翌日、ラオン国の落下さんは、本当にナギの所有物になった。
それがとんでもないことだと分かっているつもりでいたナギだが、その譲渡の場に向かうために、シュテルンが黒の軍服を身に纏ったとき、その重大さをより実感したのだ。
ちなみにナギの服は、また白シャツに黒パンツで、こんなことなら昨日のうちに何かそれらしいものを買いに行けば良かったとナギは後悔した。
訳も分からず連れて来られたのであろうカズは、黒地の浴衣に、鼠色混じりの白い帯を締めている。浴衣には格子柄があるのだなと、見えづらい模様に気がつくほど見つめていると、カズの身体がカタカタと震え出した。
真新しい着物に、靴下と手袋で、見た目では隠されてはいるが、染みついた血の匂いは取れていない。
ともかく、メランガの応接室で、シュテルンとミナハ、レドとブルの立ち会いのもと、落下さん——カズは、ナギに引き渡された。
「……こんな風に、もらっても」
レドとブルが帰ってから、ぼそりと呟いたナギを睨んだのはミナハだった。
「それはわたしの台詞だ。ひと部屋埋まるうえに、世話係も必要だろう。このような怪我人、手が掛かって仕方がない」
「殺るか?」
爪の先ほどの迷いもないシュテルンの言葉に、カズがびくりと震えた。
「こいつ、ナギに殺してくれって頼んだんだろう? では俺が代わりに殺してやろう」
「あー、止めて」
捕食者を前にした小動物のように震えているカズと、目を爛々と光らせているシュテルン。冷ややかな眼差しで金勘定が頭を巡っているミナハ。そんな中、ナギは冷静さを取り戻していた。
床に座らされたカズの前に両膝をついて座ると、深いため息がこぼれる。
「なに、してんのよ。こんな世界で」
「……ひっ」
怯えた声を上げたカズに、ナギは落胆する。やはりカズは、まともな話など出来る状態にないということを再確認しただけだ。
「……ねえ、あんたの娘、名前なんていうの?」
ふとナギが呟いた言葉に、カズが反応を示した。ガタガタと激しく震えながら、カズは突然叫んだのだ。
「デお、ダスナッ! ザクラッ、ザクラダケッ、ヤメ、ロォッ!」
「なっ!? 何だ、こいつ。いきなりっ」
立ち上がって暴れ出したカズを、ミナハが再び座らせて羽交い締めにする。弱りきったカズ相手のため、それはそんなに手の掛かることではなかった。
「さくら? さくらっていうの?」
「ヤメ、ロッ、ザクラニ、テ、テヲ、ダスナッ!」
「はいはい、分かったから」
唸るような声で、「やめろ」と「手を出すな」と繰り返すカズを、しばらく眺めてからナギは静かに微笑った。
「……帰ろうか」
ナギの言葉に、カズが唸るのをやめた。
「帰ろう? 日本へ」
絶望に染まっていたカズの瞳から、大粒の涙が溢れる。その涙があまりにも透明で綺麗で、ナギは不思議な気がした。
ミナハが手を離しても、カズがもう暴れないことを確認して、ナギはシュテルンとミナハに声を掛けた。
「私、アゴーレ様のところに行ってくるね」
自身も一緒に来ると言うシュテルンに、ミナハと共にカズを見ているように頼み、ナギは単身アゴーレの私室へと向かった。
それがとんでもないことだと分かっているつもりでいたナギだが、その譲渡の場に向かうために、シュテルンが黒の軍服を身に纏ったとき、その重大さをより実感したのだ。
ちなみにナギの服は、また白シャツに黒パンツで、こんなことなら昨日のうちに何かそれらしいものを買いに行けば良かったとナギは後悔した。
訳も分からず連れて来られたのであろうカズは、黒地の浴衣に、鼠色混じりの白い帯を締めている。浴衣には格子柄があるのだなと、見えづらい模様に気がつくほど見つめていると、カズの身体がカタカタと震え出した。
真新しい着物に、靴下と手袋で、見た目では隠されてはいるが、染みついた血の匂いは取れていない。
ともかく、メランガの応接室で、シュテルンとミナハ、レドとブルの立ち会いのもと、落下さん——カズは、ナギに引き渡された。
「……こんな風に、もらっても」
レドとブルが帰ってから、ぼそりと呟いたナギを睨んだのはミナハだった。
「それはわたしの台詞だ。ひと部屋埋まるうえに、世話係も必要だろう。このような怪我人、手が掛かって仕方がない」
「殺るか?」
爪の先ほどの迷いもないシュテルンの言葉に、カズがびくりと震えた。
「こいつ、ナギに殺してくれって頼んだんだろう? では俺が代わりに殺してやろう」
「あー、止めて」
捕食者を前にした小動物のように震えているカズと、目を爛々と光らせているシュテルン。冷ややかな眼差しで金勘定が頭を巡っているミナハ。そんな中、ナギは冷静さを取り戻していた。
床に座らされたカズの前に両膝をついて座ると、深いため息がこぼれる。
「なに、してんのよ。こんな世界で」
「……ひっ」
怯えた声を上げたカズに、ナギは落胆する。やはりカズは、まともな話など出来る状態にないということを再確認しただけだ。
「……ねえ、あんたの娘、名前なんていうの?」
ふとナギが呟いた言葉に、カズが反応を示した。ガタガタと激しく震えながら、カズは突然叫んだのだ。
「デお、ダスナッ! ザクラッ、ザクラダケッ、ヤメ、ロォッ!」
「なっ!? 何だ、こいつ。いきなりっ」
立ち上がって暴れ出したカズを、ミナハが再び座らせて羽交い締めにする。弱りきったカズ相手のため、それはそんなに手の掛かることではなかった。
「さくら? さくらっていうの?」
「ヤメ、ロッ、ザクラニ、テ、テヲ、ダスナッ!」
「はいはい、分かったから」
唸るような声で、「やめろ」と「手を出すな」と繰り返すカズを、しばらく眺めてからナギは静かに微笑った。
「……帰ろうか」
ナギの言葉に、カズが唸るのをやめた。
「帰ろう? 日本へ」
絶望に染まっていたカズの瞳から、大粒の涙が溢れる。その涙があまりにも透明で綺麗で、ナギは不思議な気がした。
ミナハが手を離しても、カズがもう暴れないことを確認して、ナギはシュテルンとミナハに声を掛けた。
「私、アゴーレ様のところに行ってくるね」
自身も一緒に来ると言うシュテルンに、ミナハと共にカズを見ているように頼み、ナギは単身アゴーレの私室へと向かった。
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