召喚されたけれど、夫を捜しに出奔します

秋の叶

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不法侵入で不審者の出来上がり~公一視点~

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 庭作業をするために着替えた妻とリビングで話しをしていると、パッと部屋が明るくなって眩しさに目を閉じた。
 外を走る車に日が当たって反射したか?と思いながら目を開けると、目の前にいたはずの妻が消えていた。
 妻が消えただけじゃなく、リビングにいたはずの俺は薄暗い建物の中にいる。
「は?・・・なんだこれ?」
 どう見てもうちのリビングじゃない。それどころか、昔、妻の祖父母の家に行った時に見たような納屋の中に似ている。

 自分の体を触ってみると感覚はある。夢ではなさそうだ・・・となると、どこかに移動されたのだろうけど、ここはどこだ。
 瞬間移動なんて技術は物語の世界の話で、体験したことも無ければ、周囲で聞いたことも無い。
 戸惑っていると、薄暗い部屋の奥から弱々しい声が聞こえる。
「誰か・・・いるのかい?」
 相手にしてみれば俺は不法侵入の不審者だ。素直に謝ってここがどこなのか聞いてみよう。許してくれるのならだけど。
「あの、突然すみません。自分の家にいたはずなのですが、気が付いたらここにいて、わざとこちらのお宅に入ったわけじゃないんです。ここがどこかも分からなくて」 
 侵入者の言い訳めいた弁明にしかならなかったが、それしか言えなかった。
 すると声の主は『そうかい・・・』と言ったきり無言になる。
 そっと立ち上がって近くに寄ると、建物の隙間からもれる細い薄明かりのそばに粗末なベッドがあり、そこに横になっている人がいた。
 あの一言を話しただけで疲れたのか、眠っている。白髪でやせ細った姿は亡くなる前の母を思い出した。

 かなり体調が悪いんだろうか?会話するだけでもきついかもしれないな。無理矢理起こすわけにいかないので、そっとそばを離れる。目が慣れてきたので、部屋の中を見渡す。
 テーブルと椅子が2脚、テーブルの上にランプのようなものと、ピッチャーのようなもの、それから木の器があった。建物の入り口そばには昔の竈のような作りの台所っぽいものが見える。
 具合の悪そうな人を放ってここを出たほうが良いのか、この部屋以外に誰かいるのか、出たとしてもここがどこなのかがわからないので途方に暮れそうになる。

 テーブルの上にあるちょっと埃を被ったランプに触ってみる。電池式なのか、オイルを使うタイプなのかと思いながらスイッチらしき物に触れると、スッと体温が引いたような感覚がした後、ランプが光る。
 ん?今の感覚は何だ?静電気じゃないよな?
 もう一度スイッチに触れるとランプが消え、また触れると体の熱がスッと引いた感覚がしてランプが点く。
「センサーとも違いそうだし、どういう仕組みだ?」

 今度はピッチャーを持ち上げる。中には何も入っていない。外側にはランプと同じようなスイッチが付いていた。
 ピッチャーにスイッチ?電気ポットなのか?と思いながら触ると、またスッと体温が引いたような感覚がした後、ピッチャーの中に液体が満たされた。
 湯気はないので、お湯ではなさそうだ。ニオイも無い。木の器に中の液体を少し出してみる。ランプの明かりで分かり辛いけれど多分透明。

 ・・・。
 俺の中の何かが消費されて、それで道具が動いて・・・ってことで良いのか?という事は・・・まさか。
 いや、その先を言ってしまったら、物語の世界観になってしまわないか?
 脳内で幾ばくかの葛藤をした後、見ている人はいないんだし、言葉に出さなければ恥ずかしくはない!と覚悟を決めて、心の中でイメージを言う。
『ステータス』

 フッと目の前にディスプレイのようなものが現れる。
名前:夏井公一 Lv1
年齢:56歳
職業:聖者、聖女の夫
体力:50/50
魔力:197/200
魔法:言語理解、生活魔法、回復魔法、治癒魔法、建築魔法、魔道具製作、鑑定魔法、防御魔法、インベントリ(共有)

 うわあああ、何か出た。本当に出た。なんだこれ。聖者ってなんだよ。聖女の夫って・・・。
 え、もしかしてうちの久美子さん、聖女召喚なんてされちゃったの?どこに喚ばれて行ったんだー!!
 目いっぱい狼狽えた。無言だけれど脳内で絶叫した。
 ・・・落ち着こう、焦っても何も変わらないからまず落ち着こう。

 魔法のある世界に夫婦揃って召喚されったっぽい、しかもはぐれたようだ。
 現在地を知りたくて地図を表示できるのか試すが、別のディスプレイっぽいものが出たけれど、丸い点しか表示されない。おそらくこの建物から動いていないからだろう。
 とりあえず、不法侵入の怪しい人間という現状を何とかしたいし、そこで寝ている人も気になるので、起きるまで自己検証しながら待つことにする。

 ステータスを見ると魔力が減っている。ランプやピッチャーを作動させたからだろうな。魔法か・・・この中で試すとすれば、まずは鑑定だな。
 目の前にあるランプを鑑定する。

『ランプ:ガラスと鉄で出来た照明道具、光の魔力を付与した魔石が使われている。魔石の魔力効率はごくわずか』

 スイッチだと思った部分は魔石だったのか。魔力効率の部分が気になったので、更に詳しく見てみると『魔力の多い者は補充可能』と書かれている。
 魔石部分に魔力が移動するように念じながら触れると、ズルっと今までよりも多くの熱が抜けていく感覚がした。
 再び鑑定してみる。

『ランプ:ガラスと鉄で出来た照明道具、光の魔力を付与した魔石が使われている。魔石の魔力効率は十分』

 無事に補充できたようだ。ステータスの魔力量は173/200になっていた。
 物品の鑑定が無事に出来たところで、回復魔法に着目する。まずは自分の膝に魔法を発動させる。加齢による膝の痛みは年々強くなっていく一方だったので、最初に試すならこれだ。
 魔石に補充した時よりも多い魔力が使われた感覚がして、膝の痛みが消えた。ついでに腰も楽になったようでスクワットをしてみても問題ない。
 魔力値は143/200になっている。

 先ほどから気になっていた寝ている人物を見る。人を勝手に鑑定するのは失礼だと感じるが、状態がとても気になるので心の中で謝罪しながら鑑定した。

『メラニー、年齢:75歳、職業:なし、状態:衰弱』

 衰弱・・・良い人か悪い人かも分からないけれど、棚にある食器の数を考えると他に住人がいない気配。具合が悪くてもただただ寝ているしかないのか。
 近くに寄って回復魔法を発動させると、メラニーの土気色をしていた顔が心持ち明るくなった気もするが、ランプの明かりの中なのでよくわからないし、鑑定の結果は変わらない。ぶっつけ本番で申し訳ないが治癒魔法も使ってみた。幾分、呼吸が楽になっているようにも感じるけれど、鑑定の結果に変化が無い。
 魔法が使えても万能ではないだろうし、その人の寿命を引き延ばすような効果が出るわけではないんだろうなと思いながら椅子に戻る。

 半分以上の魔力を使ったし、魔力をあまり消費しない方が良いかもしれないと感じつつも、やっぱり気になるのがこの建物の状態。衛生状態があまり良くないんだよな。寝ている人にとっても汚い部屋よりは綺麗な部屋の方が身体への負担も減るんじゃないか?ってことで、建物内に生活魔法の『洗浄』を容赦なく使った。
 おー!床も壁も天井も綺麗になって、ついでに俺もさっぱりした。
ってことは・・・?とメラニーをそっと見ると、薄汚れた感じが無くなったし、ここに来た時から気になっていた糞尿のようなニオイも消えている。
 下の世話をしてくれる人がいないと、起きられないほど具合が悪い時って、そういう部分が本人は一番辛いよな。

 物理的にも精神的にもすっきりしたところで今度はインベントリの確認をしてみる。
 自宅に有ったものが全部表記されているんじゃないかという量と項目に驚いた。そこにもう一つ書かれた文字に目を見開く。

『久美子使用中:メモ帳、ボールペン』
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