召喚されたけれど、夫を捜しに出奔します

秋の叶

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面談~フェリクス視点~

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 昼休みの直前、アンがフェリクスの部屋を訪れた。
「報告を」と促され、話し出す。
「こちらに来て一晩経過したこともあり、かなり落ち着いている様子です。今朝はお部屋に伺うと既に用意が出来ており、食後に庭師の元へ出かけました。その後は庭師と共にずっと庭作業をしておりました」
 途中まで真顔で報告を聞いていたフェリクスだが、後半は訝しむ様子になる。
「庭作業?庭を散策ではなく?」と確認する。
「はい、水遣りや土づくり、剪定法といったいわゆる庭師の仕事を熱心に聞き取り、そのまま一緒に土や枝を触って作業していました」
 こめかみに指を当て、眉間にしわを作りながら呟く。
「あの女性はなんでまた庭仕事を・・・」
 返答が必要なのかただの呟きなのか微妙なところだが、アンは続きを言う。
「キク様の趣味だそうです」
 それを聞いてフェリクスが顔を上げアンの顔を見る。
「・・・趣味・・・」と言ったきり、暫く無言になる。

 あの女性が聖女ではなかった場合の処遇はまだ決まっていないが、教会から出していいものか、出さずに中で監視するか数日中に決めなくてはいけない。
 聖女であった場合は使いどころを把握し、利用したいところだ。
 午後の面談でどれほどの情報が得られるか。
 アンが退室し、食事が終わった後にサラに案内されてキクが部屋に入ってくる。

 挨拶をし、椅子に腰かける様子は昨日と全く変わらない。全身を覆った服装で表情が全く読めない状態だ。
「郷に入っては郷に従えと言いますけれど、夫のある身で他所様に肌を晒してはいけないという地域だったので、すぐにこちらの様式に馴染むことが出来ず申し訳ありません」
 事情を話しつつ謝罪している。こちらとしても召喚した手前、無理強いするわけにもいかず、今はそのままで良いと伝える。

「魔法の無い世界の方にとって、魔法を利用した生活をしてみていかがでしたか?」
 目があると思われる場所を見ながら聞いてみると、小首を傾げて思い出すように話し出す。
「初めて拝見したのは明かりの魔法やランプの魔道具だったのですけれど、道具はともかく、指先から光が出るのって面白いですね。そういえば、ランプの明かりって一色なのですか?」
 ランプの明かりはランプの明かり以外、他は無いと思うのだがどういう事だ?と思い、先を促す。
「何度か試しているうちに明かりを点ける事が出来るようになったのですけれど、ランプの明かりは固定なのか変えられないんですよね」
「・・・明かりを変えるとは?」
 聞き直すと『あれ?』と言いながら無詠唱で指先に何色もの明かりを点けたり消したりし始めた。
 それを見て、キクの後ろに控えていたサラが目を見開いているが、私も同じような顔をしている事だろう。これは聖女であろうとなかろうと、暫く教会から出してはいけないと心に決めた。

 そっと深呼吸し、少し落ち着きを取り戻してから彼女に問う。
「貴女のいた所は先ほどのように色の種類が豊富なのですか?」
「そうですね、専門家じゃないので詳しいことは説明できないのですけれど、明かりを利用した様々なものがありますよ。赤い色は警戒を促す色に使われたり、青い色は精神状態を落ち着かせるという感じで使われているみたいです。店舗では購買意欲を刺激する明かりの配置というのも聞いたことがあります」 
 研究者って凄いですよねーと何でもない事のように締めくくっていた。
 なるほど、色について研究する者がいたのか。研究できるだけの環境や人員がいた世界はどれほど技術が発達しているのか・・・。

 生活魔法の話だけで終わってはいけないと思い直し、他に使える魔法が無いか聞いてみたが、無いという。
 無いのであれば、この世界の道具で何か気になるかとたずねると、魔動車について話が聞きたいそうだが、馬車が馬なしで動かせるようになっただけの物に、女性が興味を持つのだろうか?
「車体ってどんな仕様なのですか?乗せられる人数は?積載量は?走る速さはどれ程なのでしょう?」
 具体的に質問し始めた。
 大きさは3~4人程度が乗るくらいで、手荷物が乗せられるくらい、馬車より速いと答える。
「初期の頃の車っぽいなー」
 独り言のように呟く声が聞こえたのち、車輪はどんな形状で道は整っているか、走行距離はどれくらいかと聞かれる。
 彼女の世界では魔動車が無くても、同じような何かがあって進歩しているようだ。
「あなたの世界の乗り物はどんな感じでしょう?」
 気になったのでこちらからも問う。
「うーん・・・理解不能になってしまうかもしれないけれど、そのまま現在の物を聞くのと、古い順番から聞くのとどちらがいいのか・・・専門家じゃないしなー」
 迷う様子を見せるので、両方聞かせてもらう事にした。

「私が暮らしていた世界でも、最初は馬車や牛車のように動物が引く乗り物を利用していた時代があって、その後、動力を使った乗り物が出来たんですよ。その動力も人が付きっきりで燃料を補充しないと機能しなかった時代もあれば、一度入れた燃料で長時間動く時代に変化しました。ただし、利用者が爆発的に増えると、燃料の枯渇や燃料による汚染が100年くらいで世界的に問題化したように思います。動力についてはざっくりそのくらいで、次は車輪と道かな。初期の乗り物は木の車輪が多かったかもしれませんが、動物の皮や鉄が使われて、近年になってゴムと言う弾力性のある製品を使ったタイヤと言う名前の車輪が出来て、道を丁寧に舗装すると上下の揺れが少なく快適に走れるようになって今に至る感じだったような。専門家じゃないのでこれも詳細が分からなくてすみません。最後に車体ですが座面だけの時代から箱型の屋根付きの形状に変化して、現在では金属の外装に内部はクッション性の高い座面が使われた密閉空間のものが主体です。あ、密閉といっても窓はもちろんありますよ。人数も1人乗りから100人以上乗ることが出来るものまで様々ですね」
 ゆっくりとした口調で話した後に更にしみじみと言う。
「魔石で動く車ってもしかしたら環境汚染の問題がなさそうですねぇ」

 情報量の多さにめまいを覚える。これ以上は内容を吟味するどころではなくなりそうなので、話を切り上げる。
 また明日・・・ではこちらが持たない気がしたので、明後日面談する事にして部屋に戻るように促す。
 去り際に地図が見たいと言うので許可を出した。

 誰もいなくなった室内で、彼女の発言を書き出し、内容を読み返そうとして遠い目をした。
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