召喚されたけれど、夫を捜しに出奔します

秋の叶

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今までにない出来事の数々~フェリクス視点~

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 久美子が教会を出た日の夜の事。
 
 その日はサトー・キクの調子が悪いという事で、側付きの者達から報告を受けた。
 体調が思わしくないのであれば、何かを強制するわけにもいかない。復調を待つばかりだ。

 フェリクスは召喚に関する本を再確認していた。
 今までは用意する道具や魔石、魔法陣の書き方などを重点的に読んでいたが、何か見落としはないかと他のページに目を通していた。
 『召喚は対である』
 以前は気にならなかった、その文章に目を止める。
「対・・・何が対なのだ?」
 魔法陣なのか、魔石なのか、道具なのか、魔力を通すための人材なのか。
 考えながらページをめくっていると、突然本が燃え出した。
 っ!!
 慌てて火のついた本を宙に浮かべ、暖炉に投げ込む。
 
 部屋の中だというのにごうごうと高温で燃え盛る本。
 呆気にとられながら見ているうちに燃え尽き、灰になった。

「・・・一体何が・・・」
 部屋の中に火の気はなかった。それなのに突然燃えた。
 つつつーっとこめかみを汗が伝う。
 本の写しを作っていなかった事を後悔したがもう遅い。燃えてしまってはもう二度と、召喚が行えない。
 突然の出来事にフェリクスは声を失っていた。

 朝になり、昨夜燃えた本によって傷ついていた机を魔法で補修していると、慌てたようにサラとアンが駆け込んできた。
 所作に対する注意をするより、嫌な予感がして話を促す。
「キク様が、お亡くなりになっています」
「なっ!・・・間違いないのか?」
 2人揃ってコクコクと縦に首を振る。
「いつもの時刻にお部屋へ伺いましたら、返事がなく。体調が思わしくないと昨日お話ししていたので、起き上がる事が出来ないかと思い、扉を開けて中に入りましたら・・・既に冷たくなっておりました」

 なんという事だ。
 召喚のための本が燃えただけではなく、こちらに来た女性まで亡くなるとは。
 昨夜本が勝手に燃えた事と何か関連があるのだろうか?
 世界の魔力不足の懸念に対策をする事もなく、全て終わってしまったのか。
 司祭の不機嫌はさらに増すだろうなと思いつつ、サトー・キクがいる部屋へ急ぐ。

 客室に辿り着き、奥へ向かう。
 寝台に1人の女性と思われる人物が横になっていた。
 そうか、彼女はこんな顔立ちの女性だったのだな。
 ゆったりと話をしていた時の声を思い出しながら、脈を取ろうと手をのばすが、確認するまでもなく冷たい。
 周囲を見ると、彼女が着ていた服が椅子の上に畳まれている。
 少しの情報と、残った衣服だけが遺物になった。

「後程、分霊室にて魔石の取り出しを行う。準備を」
 サラとアンに指示を出す。
「遺品はこちらで検分するので、後で部屋に届けるように」
「かしこまりました」
 2人の返事が聞こえた。

 そのまま司祭の部屋へ移動し、状況を報告した。
「ふん、年寄りはすぐ死ぬな。後のことは任せる」
 彼女の年齢を聞いた時点で、この件に関わろうとしなかった司祭は、予想通りの反応だった。
 時間は前後するが、召喚の陣が書かれた本が燃えた事も合わせて伝える。
 それは流石に驚いたようだったが、状況を説明すると気味が悪そうに頷いていた。
 報告は無事に終わったので自室に戻る。

 部屋に届いていた遺品を手に取る。
 何を使っているのかわからない素材の赤い上着、ボタンとは違う、細工がよくわからない道具がついている。
 確かこれを閉じて着ていたと思ったが、職人達は仕組みがわかるだろうか?
 下に履いていたものにも同じ細工の物がついている。
 向こうでは当たり前に使われていた品なのかもしれない。
 目にあてていた黒いガラスは視界が真っ暗になると思ったが、思ったよりもよく見える。
 顔を隠すだけの用途なのか、他にもあるのか調べてみないとわからないな。

 遺体を安置した分霊室で、サトー・キクの体から魔石が取り出された。
 魔石は教会で使用される事になり、遺体は火葬された上で慰霊塔に収容される。
 
 サトー・キクが死亡した翌日、昼前に緊急の通信が届く。
 『セキュージンにて結界の魔道具確認』
 
「結界の魔道具だと!?そんな物、どこから出てきたんだ?」
 第一報なので詳細は後程届くのだろうが、今までに見たことが無い道具が出てきた事に驚くと共に、違和感を覚えたが、一昨日からの立て続けの出来事に言語化できない感情が脳内を巡り、思考が定まらない。
「何が・・・」と言ったきり、フェリクスは呆然としていた。

* * *

 一方、アンは首を傾げていた。
 キク様って、あんなに痩せていたかしら?
 初めてお会いした時に素足を見かけたけれど、もう少し張りがあったような気がするのよね。
 亡くなる直前に苦しんであそこまでやつれたのかしら?
 お顔は穏やかだったのに。分からないわ。

「アンさんのお名前は、髪の色と合っていて素敵ですね」
 そう呟いていた彼女を思い出す。

 サラも首を傾げていた。
 お亡くなりになった方って、体内から色々排出するものだと思っていたけれど、整っていたのよね。
 まるで筋力が無いお身体なのに、庭で楽しそうに作業できるほど動き回れたのかしら?
 異世界から来た人は違うものなのかしら?それとも魔法を使っていた?
 むしろ別人だと言われた方が納得するのですけれど、出入りする人もいませんし、荒唐無稽な話だわ。

 2人の疑問は助祭に届けられることが無かった。
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