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マルゴの友人
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先の一件以来、リュシーは暫く話をしなくなった。
日常的な家事はこなすものの、思い出したようにびくつく事がある。
子供の頃に父親に怒鳴られて生活してきた記憶に苛まれているようだ。
『少なくとも今、あの時の環境にいるわけではないからね。自分の中で折り合いをつけて、反省と今後どうするか本人が考えるしかないんだ』
数日経過し、怒鳴り声が無い事にほっとして、少し落ち着いて物事が考えられるようになった気配のリュシー。
マルゴが移動の魔法について手順を話した。
それを聞いて安易に魔法を使ったのは、村の子供達にせがまれた時と同じ事だったと気が付いた顔をする。
「難しいな・・・」
毎日同じ事だけだったら間違えなくなるのに、同じ日というものが無い。
日常的な家事だって、天気が違ったり気温が違う。
畑仕事になれば薬草や作物の成長に合わせて作業するため、尚更だ。
マルゴに聞いてみた。
「師匠、間違えないためにはどうすればいいの?」
「絶対に間違えない人はいないんじゃないかねぇ」
「師匠も?」
「もちろんだ。ただ、何かを行う時に『自分がされたら嫌な事はしない。』のと、『自分がしてもらったら嬉しい事』は考えるね。全員が同じ考えじゃないから、正解が無いのが難しい事だね」
「嬉しい事・・・」
私が嬉しい事ってなんだろう?
大声が無くて、静かに寝られる事。
浮動車でどこまでも飛んでいける事。
あとは・・・何かあったかなぁ・・・。
嬉しい事が分からないまま過ごしていたある日、マルゴの友人だという魔女が訪ねてきた。
「こんにちは。初めましてリュシー。私はマルゴの友人のジアーナよ」
薄茶色の髪の毛にグレーの瞳の中年女性が挨拶する。
「いらっしゃいませ。初めまして。リュシーです」
お互い右手を出して握手する。
「若いお嬢さんはお菓子が好きかしら?レヴァシを持ってきたのだけれど、食べる?」
「お菓子?レ・・・ヴァシ?」
首を傾げていると、マルゴが答えた。
「ああ、そういえば菓子は食べたことが無いかもしれないね。この子は食が細いから食事だけでいっぱいいっぱいなんだよ」
ジアーナは目を見開いてマルゴを見た後、テーブルにリュシーを連れて行く。
「ベリーやリンゴをオーブンで焼いて、砂糖や水を加えて1日焼いて乾燥して作るのよ。お茶と一緒に食べましょう」
にっこりと微笑んで籠からレヴァシが入っていると思われる箱を取り出す。
「あ、お茶の準備しますね」
リュシーが台所へ向かう。
「薬草茶より紅茶が良いわ」
頷いてジアーナが希望する紅茶を淹れた。
お茶を蒸らしている間、陶器の小皿にくるくると巻かれたレヴァシを並べるジアーナ。
三人でお茶を飲み始める。
「どうぞ」
お皿ごと差し出されたので、リュシーは一つ摘まみ、じっと見てから口に含んだ。
甘酸っぱく、果物の濃厚な味が口の中に広がる。
「ふわぁ。初めて食べました」
驚きを口にして、紅茶を飲む。
「風邪の予防になるというよりも、好きだから食べちゃうのよねぇ」
そう言ってジアーナはぽいっと口に入れて食べていた。
お茶を飲み終わった後、マルゴとジアーナは話があるようなので、片づけをしてリュシーは庭に行く。
雑草をむしったり、薬草を洗って干したり、今夜使いそうな野菜を収獲して洗う。
台所に野菜を持っていくと、ジアーナが薬の配達に一緒に行くという。
マルゴの作った薬を箱に入れ、倉庫から浮動車を出す。
「わーお!リュシーったら箒じゃなくて、それに乗るの?」
「はい。以前いただいたもので、箒より良いなと思ってこれに乗ってます」
「ねぇねぇ、私も一緒に乗る事が出来る?」
「後ろの席にどうぞ」
二人乗りは初めてだったため、少しふらついたが問題なく飛ぶことが出来た。
「凄いわ、素敵!中も快適じゃない。これ良いわね。私も買おうかしら?」
「東の方の国の大きな商家からお礼にいただいたんです」
「あら、じゃあ薬の配達が終わったらそのまま案内してくれる?」
「わかりました」
寄り道した商家で無事に浮動車を購入する事が出来たジアーナはご機嫌だ。
「ねぇリュシー、ちょっと練習したいから人が少ない方に下りてちょうだい」
「はい」
民家が少なく、街道や農地が多いあたりに浮動車を下ろす。
レジーナは自分の浮動車に乗り込んで嬉々として練習を始める。
魔女歴が長いせいか、順応が早い。
そんな様子を見ていると、リュシーの近くに一人の男性が座り込んでいた事に気が付く。
木を背もたれにして、何やら悪態をついていたが、目が合う。
「なんだよ」
「いえ、何も」
「何してんだよ。」
「師匠の友人が新しい乗り物の練習をしているのを見ています」
「乗り物の練習?」
リュシーが上を指すので、つられるように見る。
「なっ!魔動車が飛ぶのか!」
「車輪が無いので浮動車です。箒の代わりに使うために練習してます」
驚く男性に冷静に突っ込む。
「箒って、あんた達魔女なのか?」
「そうですよ」
「魔女って願いを叶えるって本当か?」
「本当です」
「俺の願いでも?」
「願いがあるなら」
数秒沈黙していた男性が口を開く。
「俺の持っていた道具を奪った奴がいるんだ。そいつに復讐したい。酷い目に遭わせたい」
「叶えましょう」
リュシーは髪の毛の中から、白く光り輝く一本の毛をつまみ、プチッと抜き取る。
「道具を所有者から奪った者に復讐を。『vindicta』(ヴィンディクタ)」
言葉の終わりに両手に持っていた白く輝く毛髪が風に飛んでいく。
「よし!これであいつは酷い目に遭うぞ!じゃあな!」
男性は嬉しそうにその場を立ち去った。
浮動車に乗り慣れたジアーナが近くに下りる。
「お待たせ。このまま乗って帰れそうだわ。あら?誰かと話していたの?」
「願いをかなえて欲しいって言われて・・・」
「そう。何を願われたの?」
「道具を奪った人に復讐したいって」
「へぇ」
少し考えてジアーナは言う。
「ちょっとついて行ってみましょうか」
リュシーに拒否権は無いので頷く。
上空から浮動車で男性の後を追う。
村に到着した男性が、別の男性に何かを怒鳴っている。
怒鳴られている男性が道具を奪ったのだろうか?
そんな事を思っていると、突然、稲妻が落ちる。
轟音と光に驚いて閉じていた眼をそっと開けると、復讐を願った男性が地面に寝そべっていた。
ジアーナが合図するので、浮動車をそっと下ろす。
「そこの貴方、何があったの?」
雷に驚いて見ていたら、空から女性が2人下りてきて、戸惑いつつも辛うじて返事をする。
「あ・・・ああ、その男が昔、俺が貸した道具なのに奪ったとか言いがかりをつけてきて、酷い目に合うから覚悟しろと言い出したら・・・今こんな状態に」
「ふぅ~ん・・・。もしかしてそこに倒れている男は、貴方から借りた事を忘れて奪われたと思っていたのかしら?」
「こいつはいつもそうなんだ。村中で色んなものを借りては『最初から自分の物だった』と言いがかりをつける」
その言葉を聞き、願いの魔術の効果にリュシーは驚いた。
復讐を願った本人が酷い目に遭うとは、借りた事を忘れるにもほどがある。
「それで、貴方はそこに倒れている男性の回復を願うの?」
「いや、自業自得だろう。助けたいと思う村人は誰もいないんじゃないか?」
「そう。じゃあ私達はこのまま帰るわね」
リュシーとジアーナの二人はマルゴの家に戻った。
家に入ったジアーナが浮動車を購入したと嬉しそうに報告する。
ついでにリュシーが願いの魔術を使い、その後を見届けた話をする。
「今回のあれは、あれで良いんじゃないかしら?」
「もっと穏便に出来たんじゃないのかね」
「それは調和の魔女だからこその見解でしょ?リュシーは『調和』じゃないんだもの」
「だけどねぇ・・・」
「少し任せてみたら良いじゃない」
ジアーナの一言で、マルゴはリュシーに仕事を任せてみる事にした。
日常的な家事はこなすものの、思い出したようにびくつく事がある。
子供の頃に父親に怒鳴られて生活してきた記憶に苛まれているようだ。
『少なくとも今、あの時の環境にいるわけではないからね。自分の中で折り合いをつけて、反省と今後どうするか本人が考えるしかないんだ』
数日経過し、怒鳴り声が無い事にほっとして、少し落ち着いて物事が考えられるようになった気配のリュシー。
マルゴが移動の魔法について手順を話した。
それを聞いて安易に魔法を使ったのは、村の子供達にせがまれた時と同じ事だったと気が付いた顔をする。
「難しいな・・・」
毎日同じ事だけだったら間違えなくなるのに、同じ日というものが無い。
日常的な家事だって、天気が違ったり気温が違う。
畑仕事になれば薬草や作物の成長に合わせて作業するため、尚更だ。
マルゴに聞いてみた。
「師匠、間違えないためにはどうすればいいの?」
「絶対に間違えない人はいないんじゃないかねぇ」
「師匠も?」
「もちろんだ。ただ、何かを行う時に『自分がされたら嫌な事はしない。』のと、『自分がしてもらったら嬉しい事』は考えるね。全員が同じ考えじゃないから、正解が無いのが難しい事だね」
「嬉しい事・・・」
私が嬉しい事ってなんだろう?
大声が無くて、静かに寝られる事。
浮動車でどこまでも飛んでいける事。
あとは・・・何かあったかなぁ・・・。
嬉しい事が分からないまま過ごしていたある日、マルゴの友人だという魔女が訪ねてきた。
「こんにちは。初めましてリュシー。私はマルゴの友人のジアーナよ」
薄茶色の髪の毛にグレーの瞳の中年女性が挨拶する。
「いらっしゃいませ。初めまして。リュシーです」
お互い右手を出して握手する。
「若いお嬢さんはお菓子が好きかしら?レヴァシを持ってきたのだけれど、食べる?」
「お菓子?レ・・・ヴァシ?」
首を傾げていると、マルゴが答えた。
「ああ、そういえば菓子は食べたことが無いかもしれないね。この子は食が細いから食事だけでいっぱいいっぱいなんだよ」
ジアーナは目を見開いてマルゴを見た後、テーブルにリュシーを連れて行く。
「ベリーやリンゴをオーブンで焼いて、砂糖や水を加えて1日焼いて乾燥して作るのよ。お茶と一緒に食べましょう」
にっこりと微笑んで籠からレヴァシが入っていると思われる箱を取り出す。
「あ、お茶の準備しますね」
リュシーが台所へ向かう。
「薬草茶より紅茶が良いわ」
頷いてジアーナが希望する紅茶を淹れた。
お茶を蒸らしている間、陶器の小皿にくるくると巻かれたレヴァシを並べるジアーナ。
三人でお茶を飲み始める。
「どうぞ」
お皿ごと差し出されたので、リュシーは一つ摘まみ、じっと見てから口に含んだ。
甘酸っぱく、果物の濃厚な味が口の中に広がる。
「ふわぁ。初めて食べました」
驚きを口にして、紅茶を飲む。
「風邪の予防になるというよりも、好きだから食べちゃうのよねぇ」
そう言ってジアーナはぽいっと口に入れて食べていた。
お茶を飲み終わった後、マルゴとジアーナは話があるようなので、片づけをしてリュシーは庭に行く。
雑草をむしったり、薬草を洗って干したり、今夜使いそうな野菜を収獲して洗う。
台所に野菜を持っていくと、ジアーナが薬の配達に一緒に行くという。
マルゴの作った薬を箱に入れ、倉庫から浮動車を出す。
「わーお!リュシーったら箒じゃなくて、それに乗るの?」
「はい。以前いただいたもので、箒より良いなと思ってこれに乗ってます」
「ねぇねぇ、私も一緒に乗る事が出来る?」
「後ろの席にどうぞ」
二人乗りは初めてだったため、少しふらついたが問題なく飛ぶことが出来た。
「凄いわ、素敵!中も快適じゃない。これ良いわね。私も買おうかしら?」
「東の方の国の大きな商家からお礼にいただいたんです」
「あら、じゃあ薬の配達が終わったらそのまま案内してくれる?」
「わかりました」
寄り道した商家で無事に浮動車を購入する事が出来たジアーナはご機嫌だ。
「ねぇリュシー、ちょっと練習したいから人が少ない方に下りてちょうだい」
「はい」
民家が少なく、街道や農地が多いあたりに浮動車を下ろす。
レジーナは自分の浮動車に乗り込んで嬉々として練習を始める。
魔女歴が長いせいか、順応が早い。
そんな様子を見ていると、リュシーの近くに一人の男性が座り込んでいた事に気が付く。
木を背もたれにして、何やら悪態をついていたが、目が合う。
「なんだよ」
「いえ、何も」
「何してんだよ。」
「師匠の友人が新しい乗り物の練習をしているのを見ています」
「乗り物の練習?」
リュシーが上を指すので、つられるように見る。
「なっ!魔動車が飛ぶのか!」
「車輪が無いので浮動車です。箒の代わりに使うために練習してます」
驚く男性に冷静に突っ込む。
「箒って、あんた達魔女なのか?」
「そうですよ」
「魔女って願いを叶えるって本当か?」
「本当です」
「俺の願いでも?」
「願いがあるなら」
数秒沈黙していた男性が口を開く。
「俺の持っていた道具を奪った奴がいるんだ。そいつに復讐したい。酷い目に遭わせたい」
「叶えましょう」
リュシーは髪の毛の中から、白く光り輝く一本の毛をつまみ、プチッと抜き取る。
「道具を所有者から奪った者に復讐を。『vindicta』(ヴィンディクタ)」
言葉の終わりに両手に持っていた白く輝く毛髪が風に飛んでいく。
「よし!これであいつは酷い目に遭うぞ!じゃあな!」
男性は嬉しそうにその場を立ち去った。
浮動車に乗り慣れたジアーナが近くに下りる。
「お待たせ。このまま乗って帰れそうだわ。あら?誰かと話していたの?」
「願いをかなえて欲しいって言われて・・・」
「そう。何を願われたの?」
「道具を奪った人に復讐したいって」
「へぇ」
少し考えてジアーナは言う。
「ちょっとついて行ってみましょうか」
リュシーに拒否権は無いので頷く。
上空から浮動車で男性の後を追う。
村に到着した男性が、別の男性に何かを怒鳴っている。
怒鳴られている男性が道具を奪ったのだろうか?
そんな事を思っていると、突然、稲妻が落ちる。
轟音と光に驚いて閉じていた眼をそっと開けると、復讐を願った男性が地面に寝そべっていた。
ジアーナが合図するので、浮動車をそっと下ろす。
「そこの貴方、何があったの?」
雷に驚いて見ていたら、空から女性が2人下りてきて、戸惑いつつも辛うじて返事をする。
「あ・・・ああ、その男が昔、俺が貸した道具なのに奪ったとか言いがかりをつけてきて、酷い目に合うから覚悟しろと言い出したら・・・今こんな状態に」
「ふぅ~ん・・・。もしかしてそこに倒れている男は、貴方から借りた事を忘れて奪われたと思っていたのかしら?」
「こいつはいつもそうなんだ。村中で色んなものを借りては『最初から自分の物だった』と言いがかりをつける」
その言葉を聞き、願いの魔術の効果にリュシーは驚いた。
復讐を願った本人が酷い目に遭うとは、借りた事を忘れるにもほどがある。
「それで、貴方はそこに倒れている男性の回復を願うの?」
「いや、自業自得だろう。助けたいと思う村人は誰もいないんじゃないか?」
「そう。じゃあ私達はこのまま帰るわね」
リュシーとジアーナの二人はマルゴの家に戻った。
家に入ったジアーナが浮動車を購入したと嬉しそうに報告する。
ついでにリュシーが願いの魔術を使い、その後を見届けた話をする。
「今回のあれは、あれで良いんじゃないかしら?」
「もっと穏便に出来たんじゃないのかね」
「それは調和の魔女だからこその見解でしょ?リュシーは『調和』じゃないんだもの」
「だけどねぇ・・・」
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