残酷な魔女

秋の叶

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パメラとの出会い

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 話はマルゴがリュシーの魔法を封じた時に戻る。
 魔女として学び、仕事を覚えたけれど、リュシーが願いを行使するたび、あまりにも多くの人が亡くなる結果にマルゴは頭を抱えていた。
 人や環境に大きく影響しないように心掛けているマルゴにとって看過できない。
 魔法を封じたことで気付く事があるのではないかと願っている。

 一方、リュシーは魔法が使えない事にふてくされていた。
 生活魔法が使えない場合は魔道具を使えばいいのだけれど、その魔道具さえ使えないのだ。
 顔を洗いたくても水を汲んでこなければいけない、トイレに行けば洗浄をマルゴに頼まなければいけない、これは思春期の子供にとってかなり恥ずかしい事だ。
 手を洗う時も、調理する時も、食器を洗う時も、畑や薬草園に水を撒く時も生活魔法が使えない。時間がかかるし不便すぎて嫌になる。
 それでも毎日朝が来るし、夜になる。生活は止まらない。

 不便だ不便だと文句を言いながらも過ごして一週間、マルゴが薬の配達をリュシーに頼む。
 浮動車に乗らなくても、歩いて行ける距離だ。
 三十分ほど歩いて到着した村の中、一軒の家の扉を叩く。
 コココン。
 はーいと返事が聞こえた後、扉が開いて女性が出てくる。
「こんにちは。魔女の弟子のリュシーです。薬の配達に伺いました」
「ああ、魔女様の所の。わざわざありがとうございます。中へどうぞ」
 薬を届けるだけではなく、代金の受け取りもあるため、人目に付かない家の中に招かれる事はよくある。
 リュシーはいつものように家の中に入った。

「いらっしゃいませ」
 入り口から入ってすぐの椅子に案内されて腰かけると、隣の部屋から声が聞こえた。
 声の方に顔を向けると、椅子に座った少女がいる。
「初めまして。魔女の弟子のリュシーです」
 会った事のない少女に挨拶をすると、少女も微笑みながら自己紹介をする。
「初めまして。パメラです。お薬を届けてくれたのでしょう?ありがとう」
 アッシュブロンドの髪を二つに結び、青い目をした十歳前後に見える少女は落ち着いた雰囲気がする。
 
 テーブルの上に薬の箱を置くと、パメラの母親が中を確認し、小銀貨3枚を支払う。
「確かに受け取りました」
「いつもありがとうございます」
 立ち上がるとパメラが口を開く。
「ねぇ、リュシーはこの後忙しいの?」
「今日は特に用事が無いかな」
「もし良かったら、私とお話ししてくれないかな?」
 子供の頃、父親による虐待と束縛の影響で、何かを頼まれると断る事が出来ないリュシーは、こくりと頷く。

「お母さんお願い」
 パメラは母親に何かを願う。
 頼まれた母親は生活魔法でパメラが座った椅子を少しだけ浮かせ、テーブルのそばに寄せた。
 今まで気が付かなかったが、ひざ掛けの下に見えるはずの足が無かった。
「生まれつき足先が無いの」
 リュシーの視線に気が付いたパメラが説明する。
「そうなんだね」
 どんな言葉を言えばいいのかわからなかったので、一言だけ返事をする。
 生活魔法があるとはいえ、自分で物を浮かせるのと自分が浮くのでは加減が違う。
 まだ子供のパメラが親に運んでもらうのも納得だ。
『あれ?魔女は箒に乗って飛ぶけれど、他の人が飛んでいないのはどうしてだろう?回復魔法みたいに魔女だけの魔法なのかな。あとで師匠に聞いてみよう』
 母親は外のテーブルで刺繍をすると言って部屋を出ていった。

「リュシーは魔女様のお弟子さんなのでしょう?毎日どんな事をするの?」
 好奇心でわくわくした雰囲気のパメラが聞く。
「他の人の生活がどんな事をするのか分からないけれど、ご飯を作って食べて、畑や薬草園の手入れをして、家の片づけをして、魔石の浄化をして、今日みたいに薬の配達をして・・・あとは願いの魔法を時々使うくらいかな」
 日課を思い出しながら話す。
「薬は作らないの?」
「薬草の手入れと乾燥はするけれど、作るのは師匠だわ」
「ふぅん。魔石の浄化って?」
「魔獣や家畜、亡くなった人から取れた魔石を浄化して綺麗にするの。そうしないと魔道具用の付与魔法が出来ないから」
 室内にある魔道具を見て納得したのか、うんうんと頷いている。

「願いの魔法って何?」
 リュシーは髪の毛の中から白く光り輝く一本の毛をつまみ、パメラに見せる。
「魔女の魔力が籠った髪の毛がこんな風になっているの。これを媒体にして、大きな魔法を使って人の願いを叶えるの。」
「どんな願いもかなえられるの?」
 期待の目で聞かれたけれど、リュシーは首を振る。
「亡くなった人を生き返らせる事は出来ないし、新しい物を生みだす事も出来ないわ」
「そうなんだね。あっ、私ばっかり質問しちゃいけないね。リュシーは何か聞きたいことがある?」
 さあどうぞ。と言われても、年の近い人とじっくり会話する事が無いため、何を聞いていいのかわからなくなる。

 先ほどの質問と同じ事を聞く事にした。
「えっと、パメラは毎日どんな事をするの?」
「私は生まれた時から歩けないから、家の中で出来る事をしているよ。最近はお母さんに刺繍を習っているから、将来それを仕事にしたいの」
「そうなんだ」
 相手に興味が持てたら、どんな図柄か、どんな糸を使うか、好きな絵柄はと質問が広がるだろうけれど、リュシーからそういった質問は出てこなかった。

 その後の言葉が続かず、気まずい思いをしているとパメラがくすくすと笑いだす。
 何か面白い事があったかなと思っていると。
「リュシーは他の人みたいに色々聞かないんだね」
「色々って?」
「足を見て『痛くないのか』とか『膝立ちは出来るのか?』とか『トイレは出来るのか』とか、家の中を見て『お父さんはどうしたんだ』とかね」
 他人の個人的な事に興味が無いため、通り過ぎる景色のように「そういうものだ。」と受け止めて終わるリュシーは、そういう質問を出来る人がいるのかと感心する。
「聞いた方がいいのかな?」
 質問が思い浮かばなかったのがいけなかったかと感じ、聞いた方がいいのか問う。
「聞きたい事じゃなかったら別に良いんじゃない?必要な事だったら聞くでしょう?」
「たぶん・・・?」
 首を傾げる様子を見て、またくすくすと笑うパメラ。

「リュシーって何も言わないんだね」
「何もって?」
「足を見たり、お父さんがいないのを知ると『可哀そうに』とか『大変ね』って必ず言われるけど、リュシーからは一度も言われていないの。そんな人初めてだったから、ちょっと楽しくなっちゃった」
「そうなんだ」
 よくわからないけれど、パメラの機嫌を損ねずに会話が続いているなとぼんやり思っていた。
「ねぇリュシー。私とお友達になってくれる?」
「友達・・・」
「だめ?」
 返事をしないリュシーをじっと見つめるパメラ。
「友達っていないから、どういうものか分からなくて。それでも良いなら。うん」
「わぁ!お互い初めての友達になるのね。よろしくね!」
 右手を差し出されたので、リュシーも右手を出して握手した。


 配達から戻ったリュシーにマルゴが声を掛ける。
「おかえり」
「ただいま戻りました」
「何かあったのかい?」
 呆けたような顔をしているリュシーに聞く。
「えっと、配達先にパメラっていう女の子がいて・・・少し話をしたら友達になろうって握手してきました・・・」
「ああ、パメラかい。様子はどうだった?」
 マルゴはパメラを知っていたので、体調を問う。
「様子ですか?よく笑う女の子でした」
 何度もくすくすと笑っていたのを思い出して答える。

「薬を届ける時は、使う人の体調に悪化したり軽減したりの変化が無いか、確認して欲しいのだけれど、何も言ってなかったのかい?」
「あっ!・・・何も言ってませんでした」
 しまった!という顔をしているリュシーに呆れつつ、パメラの友達発言に戸惑っている様子に微笑ましさを感じる。
 相手が年下とはいえ、同じような年頃の子供同士でお互いに変化が出たらいいなと思うマルゴだった。
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