残酷な魔女

秋の叶

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最終話 親友の魔女

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 パメラと出会い、交流する中でリュシーの考えは少しずつ変化していった。
 以前、マルゴから問答方式で聞かれた時は、面倒だなとか、そんなに難しく考えなくてもと思っていた。
 ちょっとした安請け合いや魔法でとんでもない結果が出ても、そういうものだと思っていた。
 知識も無い、他人を思いやる想像力も無い、経験も無い、子供ゆえの残酷さが齎す結果だった。
 叱られるから止める、叱られるのが面倒だからやらない、そんな考えではいけないんだと最近になって気付き始めた。
 どうしてマルゴが叱ったのか、そこを考えなくてはいけなかった。

「コツコツと諦めずにこなす・・・。自分がされたら嫌な事はしない・・・」
 ぽつりとつぶやくリュシーに、季節の花をスケッチしていたパメラが顔を上げる。
「リュシー?どうしたの?」
「うーん・・・以前の自分を振り返って、盛大に反省しているところ。・・・なんていうか、消えたい」
 膝を抱えて座っていたリュシーが、膝に額を当てて落ち込んでいる。
 スケッチの道具を片付けてパメラが隣に移動した。

「なんか、わかる」
 パメラが小さな声で言う。
「えっ?」
 パメラが同意すると思わなかったのでリュシーは驚いた。
「え、そこで驚かれちゃうの?今でも子供だけど、小さかった頃を思い出すとお母さんに申し訳なくて、消えたくなる」
「パメラはそんな事ないと思ってた・・・」
 くすくすと笑いながらパメラは言う。
「ふふっ、リュシーの中で私はどんな人になってるの?お母さんに八つ当たりしたり、我儘を言ったりで後になって落ち込んでいるのに」

 地面に座っていたリュシーは浮動車に積んでいた折り畳みの椅子を出して、パメラの隣に座る。
 浮動椅子に乗っているパメラを見上げて話をすると首が疲れるのと、お互いの視線が合う方がいいと思ったからだ。
 
「パメラって私より年下なのに、落ち着いていてしっかりしているんだけど・・・違うの?」
「どうなんだろう?私は私だよとしか言えない。泣くし、怒るし、八つ当たりもするし、我儘も言うし」
「見た事ないんだけど・・・」
「今よりも小さかった頃の話だもの」
「私と会う前って事?」
 うんうんと頷くパメラ。

「ほら、私ってこんなだから」
 足を指さして言う。
「思い通りの所に行けないって癇癪を起して、すぐに抱っこしてくれないって怒って、どうしてお父さんがいないのって泣いて・・・今思うとお母さん大変だったなーって・・・。色々諦めていたら、リュシーから浮動椅子を貰ってとても自由になったのよ」
 微笑むパメラを見て少し嬉しくなったが、再び膝に額を当てる。 
「魔法であちこちに迷惑をかけたのは、どうしようもないなって・・・」
 リュシーの落ち込む原因を知らなかったパメラは一つ一つ聞く事にした。

「沢山あり過ぎて・・・一番最近だと、パメラに出会う直前の雨の魔法かなぁ。砂嵐が酷い地域で、そこに行ったら『雨が降って欲しいに決まっている』って言うから、雨を降らせたんだけど、量が多かったんだって。戻ってから師匠が霧雨に変えてくれたんだけど、流れた家や人がいたみたい」
「この前も見たけれど、リュシーの魔法って凄いね」
「師匠にいつもやりすぎって言われる」

 沈黙のあと、パメラは聞く。
「ねぇリュシー、リュシーは魔法を使った場所に住みたいと思う?」
「うーん、雨を降らせたところは住みたくないな。病気を無くしたところだったら良いかもしれないけど・・・薬が売れなくなるから、遠くに売りに行く事になりそうだなぁ」
「リュシーが住みたいなって思うような願いの叶え方をすれば、やりすぎじゃなくなる?」
 パメラの言葉にはっとして顔を上げる。

「魔女様ってどんな風に考えて魔法を使っているんだろうね?」
 続けて言うパメラの言葉に目を見開く。
「いつも考えが足りないって、話をしっかり聞いていないって言われてる・・・。師匠は色んな人に話を聞いて、魔法を使う前も話し合ってもらってからだった」
「根掘り葉掘り聞き出そうとしないところはリュシーのいい所でもあると思う。少なくとも私はそれが嬉しかったもの」
「個人的な事はそれでも良いかもしれないけれど、魔法を使う時はちゃんと聞けるようになりたいな」
「お互い、消える前に一緒に出来る事しよう?」

 リュシーの気持ちが少しだけ持ち上がった。


 その日、帰宅してからマルゴに相談した。
「師匠、今までに願いの魔法を使ったところに、もう一度行ってしっかり話を聞いてから魔法を使い直しても良いですか?・・・今更って言われるかもしれないけど。失われたものは戻らないけれど・・・」
 落ち込んだ様子で今日の出来事を話す弟子の様子を見て、マルゴはしみじみと成長を感じていた。
「今までの結果が結果だからね。罵倒されることも、もしかしたら暴力を振るおうとする者もいるかもしれないよ?結界があるから身体は傷付かないだろうけどね、心は傷付くだろう。それでも行きたいかい?」
 修復可能なものは取り戻せても、大切な命を失った者の慟哭は軽くなる事が無い。それでもいいのか確認する。
「・・・。何もしないままよりは、少しでも改善出来るなら改善したいです。・・・許してもらえるとも思っていませんし、許してもらうつもりはありません。でも・・・これからが少しでもましになるなら・・・」
 リュシーの覚悟を聞き、マルゴは許可を出した。
 

 各所に赴き、リュシーは謝罪した。
 話を聞いてくれない地域もあった、石を投げる人もいた、それでも何度も通って少しずつ話をし、住民達の意見を聞き、相談をしてから魔法を行使しなおした。

 乾燥の地域は雨季と乾季を望み、酷い砂嵐にならないように願った。
 集団暴行事件として新聞に取り上げられた地域では、暴力的にならないよう、ある程度の所で精神状態が落ち着くための魔道具を願った。
 魔獣が居なくなるように願った地域では、ある程度の魔獣が森に戻るように願い、結界の壁で住み分けられるように希望した。
 
 時間をかけて一つ一つ、今までの行いを改めつつ、新しい地域で願いの魔法を行使していくリュシー。
 二十歳を過ぎた頃には、彼女を「残酷」と言う人は少なくなり、新しい二つ名はまだ無い。
 ただ、パメラは言う。『親友の魔女』と。


 五年後、ジアーナの元へ行った兄弟の兄は魔道具師としてハリーと共に魔義足を開発した。
 パメラが魔道具を使って歩けるようになった。
 兄弟の弟の方はジアーナと共に願いの魔法を行使しているが、リュシーの時のように失敗もしているようだ。
 リュシーはマルゴから薬の作り方を学び始めている。
「まだまだ完全に隠居が出来ないね」
 そう言いながらマルゴは微笑んでいた。



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