大海賊のおたから

ともえどん

文字の大きさ
1 / 1

大海賊のおたから

しおりを挟む
 黒ひげは、世界一の大海賊でした。
 おたからに目がなくて、街を襲ったり、ほかの海賊からふんだくったりしていました。その横暴には子分たちですら迷惑していましたが、黒ひげはとても腕っぷしがつよく、だれもかないませんでした。
 あるとき、黒ひげは伝説のおたからのありかを聞きました。そのおたからの輝きは凄まじく、これまでだれも見ることができなかったそうです。
「世界一の大海賊のおれさまにこそ、そのおたからはふさわしい」
 高笑いしながら、黒ひげは伝説のおたからのある洞窟まで船を進めました。道中、ゆく手を阻もうとするワナがわんさかありましたが、子分を先にいかせて、安全になったところで黒ひげは歩みを進めました。子分の死体をふみしめ、あっというまに洞窟の奥にたどり着き、古ぼけた大きなたから箱を見つけました。黒ひげは舌なめずりをしながらそのふたを開けました。
 その瞬間、たから箱から放たれたとてつもなくまばゆい光が洞窟中を灼きました。薄暗い洞窟に慣れていた黒ひげの目は、そのあまりのまばゆさにすっかりつぶれてしまいました。視力を失った黒ひげは、ふらふらと洞窟を歩きまわりました。
「やい、子分ども。なにをぼさっとしてやがんだ。さっさとおれさまを出口に連れていけ」
 いつものように命令しますが、ざわざわとした喧騒がぴたりと止むと、のこった子分たちみんなで黒ひげに襲いかかりました。
「このやろう、いままでよくもこき使ってくれたな」
 世界一の腕っぷしを持つ黒ひげでしたが、見えないものにはどうすることもできませんでした。ひいひい言いながらなんとか逃げだし、海へ飛び込みました。薄れゆく意識のなかに、あのたから箱が爛々と輝いていました。
 黒ひげはもう、自分が目を開けているのか閉じているのかわかりませんでした。
「あなたが黒ひげ?」
 後ろから突然、美しい声が鳴りました。その方へ手をのばしてみると、ぬらりと濡れたなにかに触れました。
「やい、お前はだれだ」
「わたしは天使です」
 たしかに天使のように美しい声でした。しかし触れたところはぬめぬめしていて、想像している天使のそれとは違いました。
「おれの知ってる天使はこんなにぬめぬめしてないぞ。まるでとかげのようだ」
「それはわたしの羽です。ぬめぬめしているように感じるのは、あなたがずぶ濡れだからですよ」
「それに、なんだかざらざらしている」
「それはあなたが砂まみれだからですよ」
 笑いながら、天使は黒ひげの手をひきました。
「わたしがほんもののおたからのところまで、案内してさしあげましょう」
 ふわりと浮いた感覚を覚えましたが、黒ひげにはもうここが空中なのか地面なのか、はたまた水中なのかもわかりませんでした。なにもかもがわからないまま、黒ひげはただ手をひかれていました。
「さあ、つきましたよ」
 黒ひげは天使の声のままに、よたよたと歩みを進めます。
 すると、今までずうっと暗闇だった世界の果てに、ぼんやりと光るなにかを見つけました。ほんの小さな光でしたが、それは黒ひげにとって久しぶりの目標でした。それを目掛けると、黒ひげはこれまでがうそのように颯爽と走りだしました。途中転んだりもしましたが、すぐに起き上がり、また走りました。
 しかし、走れども走れども、その光は一向に近づいてはくれませんでした。おかしいと思った黒ひげは、歩みを止めました。
「やい天使。どこにおたからがあるんだ」
 天使の声はもうしませんでした。そしてそれっきり、黒ひげの声も聞こえなくなりました。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

処理中です...