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大海賊のおたから
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黒ひげは、世界一の大海賊でした。
おたからに目がなくて、街を襲ったり、ほかの海賊からふんだくったりしていました。その横暴には子分たちですら迷惑していましたが、黒ひげはとても腕っぷしがつよく、だれもかないませんでした。
あるとき、黒ひげは伝説のおたからのありかを聞きました。そのおたからの輝きは凄まじく、これまでだれも見ることができなかったそうです。
「世界一の大海賊のおれさまにこそ、そのおたからはふさわしい」
高笑いしながら、黒ひげは伝説のおたからのある洞窟まで船を進めました。道中、ゆく手を阻もうとするワナがわんさかありましたが、子分を先にいかせて、安全になったところで黒ひげは歩みを進めました。子分の死体をふみしめ、あっというまに洞窟の奥にたどり着き、古ぼけた大きなたから箱を見つけました。黒ひげは舌なめずりをしながらそのふたを開けました。
その瞬間、たから箱から放たれたとてつもなくまばゆい光が洞窟中を灼きました。薄暗い洞窟に慣れていた黒ひげの目は、そのあまりのまばゆさにすっかりつぶれてしまいました。視力を失った黒ひげは、ふらふらと洞窟を歩きまわりました。
「やい、子分ども。なにをぼさっとしてやがんだ。さっさとおれさまを出口に連れていけ」
いつものように命令しますが、ざわざわとした喧騒がぴたりと止むと、のこった子分たちみんなで黒ひげに襲いかかりました。
「このやろう、いままでよくもこき使ってくれたな」
世界一の腕っぷしを持つ黒ひげでしたが、見えないものにはどうすることもできませんでした。ひいひい言いながらなんとか逃げだし、海へ飛び込みました。薄れゆく意識のなかに、あのたから箱が爛々と輝いていました。
黒ひげはもう、自分が目を開けているのか閉じているのかわかりませんでした。
「あなたが黒ひげ?」
後ろから突然、美しい声が鳴りました。その方へ手をのばしてみると、ぬらりと濡れたなにかに触れました。
「やい、お前はだれだ」
「わたしは天使です」
たしかに天使のように美しい声でした。しかし触れたところはぬめぬめしていて、想像している天使のそれとは違いました。
「おれの知ってる天使はこんなにぬめぬめしてないぞ。まるでとかげのようだ」
「それはわたしの羽です。ぬめぬめしているように感じるのは、あなたがずぶ濡れだからですよ」
「それに、なんだかざらざらしている」
「それはあなたが砂まみれだからですよ」
笑いながら、天使は黒ひげの手をひきました。
「わたしがほんもののおたからのところまで、案内してさしあげましょう」
ふわりと浮いた感覚を覚えましたが、黒ひげにはもうここが空中なのか地面なのか、はたまた水中なのかもわかりませんでした。なにもかもがわからないまま、黒ひげはただ手をひかれていました。
「さあ、つきましたよ」
黒ひげは天使の声のままに、よたよたと歩みを進めます。
すると、今までずうっと暗闇だった世界の果てに、ぼんやりと光るなにかを見つけました。ほんの小さな光でしたが、それは黒ひげにとって久しぶりの目標でした。それを目掛けると、黒ひげはこれまでがうそのように颯爽と走りだしました。途中転んだりもしましたが、すぐに起き上がり、また走りました。
しかし、走れども走れども、その光は一向に近づいてはくれませんでした。おかしいと思った黒ひげは、歩みを止めました。
「やい天使。どこにおたからがあるんだ」
天使の声はもうしませんでした。そしてそれっきり、黒ひげの声も聞こえなくなりました。
おたからに目がなくて、街を襲ったり、ほかの海賊からふんだくったりしていました。その横暴には子分たちですら迷惑していましたが、黒ひげはとても腕っぷしがつよく、だれもかないませんでした。
あるとき、黒ひげは伝説のおたからのありかを聞きました。そのおたからの輝きは凄まじく、これまでだれも見ることができなかったそうです。
「世界一の大海賊のおれさまにこそ、そのおたからはふさわしい」
高笑いしながら、黒ひげは伝説のおたからのある洞窟まで船を進めました。道中、ゆく手を阻もうとするワナがわんさかありましたが、子分を先にいかせて、安全になったところで黒ひげは歩みを進めました。子分の死体をふみしめ、あっというまに洞窟の奥にたどり着き、古ぼけた大きなたから箱を見つけました。黒ひげは舌なめずりをしながらそのふたを開けました。
その瞬間、たから箱から放たれたとてつもなくまばゆい光が洞窟中を灼きました。薄暗い洞窟に慣れていた黒ひげの目は、そのあまりのまばゆさにすっかりつぶれてしまいました。視力を失った黒ひげは、ふらふらと洞窟を歩きまわりました。
「やい、子分ども。なにをぼさっとしてやがんだ。さっさとおれさまを出口に連れていけ」
いつものように命令しますが、ざわざわとした喧騒がぴたりと止むと、のこった子分たちみんなで黒ひげに襲いかかりました。
「このやろう、いままでよくもこき使ってくれたな」
世界一の腕っぷしを持つ黒ひげでしたが、見えないものにはどうすることもできませんでした。ひいひい言いながらなんとか逃げだし、海へ飛び込みました。薄れゆく意識のなかに、あのたから箱が爛々と輝いていました。
黒ひげはもう、自分が目を開けているのか閉じているのかわかりませんでした。
「あなたが黒ひげ?」
後ろから突然、美しい声が鳴りました。その方へ手をのばしてみると、ぬらりと濡れたなにかに触れました。
「やい、お前はだれだ」
「わたしは天使です」
たしかに天使のように美しい声でした。しかし触れたところはぬめぬめしていて、想像している天使のそれとは違いました。
「おれの知ってる天使はこんなにぬめぬめしてないぞ。まるでとかげのようだ」
「それはわたしの羽です。ぬめぬめしているように感じるのは、あなたがずぶ濡れだからですよ」
「それに、なんだかざらざらしている」
「それはあなたが砂まみれだからですよ」
笑いながら、天使は黒ひげの手をひきました。
「わたしがほんもののおたからのところまで、案内してさしあげましょう」
ふわりと浮いた感覚を覚えましたが、黒ひげにはもうここが空中なのか地面なのか、はたまた水中なのかもわかりませんでした。なにもかもがわからないまま、黒ひげはただ手をひかれていました。
「さあ、つきましたよ」
黒ひげは天使の声のままに、よたよたと歩みを進めます。
すると、今までずうっと暗闇だった世界の果てに、ぼんやりと光るなにかを見つけました。ほんの小さな光でしたが、それは黒ひげにとって久しぶりの目標でした。それを目掛けると、黒ひげはこれまでがうそのように颯爽と走りだしました。途中転んだりもしましたが、すぐに起き上がり、また走りました。
しかし、走れども走れども、その光は一向に近づいてはくれませんでした。おかしいと思った黒ひげは、歩みを止めました。
「やい天使。どこにおたからがあるんだ」
天使の声はもうしませんでした。そしてそれっきり、黒ひげの声も聞こえなくなりました。
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