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ごめんね
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消えたいと思った。安直だ。しかし、どうにもならない。国に戸籍がある限り、概念ごと綺麗さっぱり消えることはままならないので、周囲に迷惑をかけつつ、その見窄らしい身体を残して、私は今夜、黄泉へ行くことにした。きっかけは、なんてことはない。そう言う他は、ない。それを誰かに吐露したところで、なんだそんなことか、と肩透かしを食らった顔をした人の、よそゆきの態度で取り止めのない慰めを受ける結果となることは、火を見るよりも明らかなので、この真っ黒なざらざらの感情を抱いたまま、私は旅立つつもりだ。
仕事が終わり、自宅の前のコンビニでコーヒーを買った。出てすぐにアスファルトに腰をかけた。白い湯気が上るさまを、背後の昼白灯の明かりを受けながら眺めていた。隣では、無精髭を生やした無骨な男のふかすタバコがその白煙で闇にいくつもの曲線を描き、それらが生きているかのように揺らめいた。私もタバコを吸おうかと思い、コーヒーを片手に共用の灰皿に寄ろうとした。すると、男と向き合う形となった。たまたま、お互い進路を邪魔する形となったのだ。
「あっ、ごめんね」
笑ってそう言うと、男は去った。自宅へ戻ると、僕はそのまま冷蔵庫にあったビールを煽ると、布団に潜った。
「あっ、ごめんね」
この声がリフレインする限り、僕が消えることはないだろう。
仕事が終わり、自宅の前のコンビニでコーヒーを買った。出てすぐにアスファルトに腰をかけた。白い湯気が上るさまを、背後の昼白灯の明かりを受けながら眺めていた。隣では、無精髭を生やした無骨な男のふかすタバコがその白煙で闇にいくつもの曲線を描き、それらが生きているかのように揺らめいた。私もタバコを吸おうかと思い、コーヒーを片手に共用の灰皿に寄ろうとした。すると、男と向き合う形となった。たまたま、お互い進路を邪魔する形となったのだ。
「あっ、ごめんね」
笑ってそう言うと、男は去った。自宅へ戻ると、僕はそのまま冷蔵庫にあったビールを煽ると、布団に潜った。
「あっ、ごめんね」
この声がリフレインする限り、僕が消えることはないだろう。
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