死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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07. 騎士の誓い

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 ――エリアス様とテオドール様は、たった二人きりの御兄弟だ。

 テオドール殿下が五歳の時、五人兄弟の三男として俺が生まれた。
 俺が四歳になると、王家の第二子であるエリアス殿下が誕生された。

 実の兄達よりも俺を甘やかしたテオドール殿下。
 もちろん幼い頃の俺は、心底殿下に懐いていた。
 だからそんなテオドール殿下の弟は、生まれた瞬間から俺にとって特別だった。

 自分が殿下に可愛がられた分。この年下の天使のような王子様を可愛がろうと思った。今思えば単に年上ぶりたかっただけかもしれない。

 それでもエリアス殿下が生まれた瞬間から。
 ――俺の心は年下の王子で一杯だった。



 ステンドグラスの荘厳さも、今日は鳴りを潜めていた。
 昼の大聖堂は、熱気に包まれている。新任騎士達のやる気がうかがえた。
「遅かったなランベルト、来ないのかと思った」
 俺は今朝部屋で別れた、ハーベスの後ろへ並ぶ。
「なんでそう思ったんだ?」
「そりゃ~お前…第一王子と一緒に消えただろ?」
「な…!もしかして噂になってたり…!?」
 だから殿下から話し掛けないで欲しいと、何度も…。

「いや俺も偶然見ただけだし、ニコライと一緒に弁解はしといたぜ」
「助かった、ありがとうハーベス」
 王子と旧知の仲の騎士。それを面白く思わない人間は山程いる。
 恩恵を期待する者、上手く取り入ったなと嫌味を言う者、三者三様だ。

 学生時代の同期には、両殿下との関係は説明していた。
 だが、それ以上はきりがない。またしばらくは騒がれるかもしれないが。
 ――あのまま護衛に任命された時の騒ぎは、今日の比ではなかった。
 まだ軽くで済んだと思おう。


「始まるみたいだ」
 過去に第一王子の護衛として壇上から見た事はある。
 新任騎士ひとりひとりが前に進み出て、挨拶をする。
 もし特別に仕えたい相手がいるならその方の前に出る。
 王族の方々が入場され、席につかれた。誰かが"集団の見合いのようだ"と言ったが、その通りだと思う。

 俺は挨拶をはじめた同僚の影から、こっそり壇上を見た。
 上品な金の髪が、ステンドグラスの光に煌めいている。

「――エリアス殿下…!」

 凛と正面を見て、騎士達の挨拶に耳を傾けている。
 ――生きている!いや、正確には今現在まだ"ご無事"だ。

 ――駆け落ちを計画したエリアス殿下に追手が掛けられていた。
 逃亡して追い付かれるのに、三日間はあまりに早い。
 最初から、あの森で待ち伏せされていた可能性が高い。
 連れていた護衛は、俺ひとり。御者は信用の出来る者を行き先を教えずにひとり。あとは王子が誰に相談をして、城を出て来たか…。

 エリアス殿下が、騎士の礼に応えている。
 今朝寮で意識が浮上した瞬間。自分が無事ならきっと王子も無事だと信じていた。
 そう思っても姿を見るまで、心から安心は出来なかった。

 ――エリアス殿下の命を狙っている人間がいる。

 そう思うのは、考え過ぎではないはずだ。
 もし俺が殺された後、殿下まで追手の手に掛かっていたら…。
 "頭のおかしい騎士が、王子を誘拐し殺害した"。そんな悲劇的な事件だったとでも処理されていそうだ。

 …エリアス殿下は、人から個人的に恨まれるような人柄ではない。
 しかし王子という立場で、関わる人間は日々、星の数ほどいる。
 立場上一方的に恨まれていても、不思議はない。
 発表されたばかりだった、婚約の関係者も気になる。

 ――最後に考えたくない、可能性がひとつある。

 "駆け落ちの相手"が、王子を騙していた場合だ。
 想う相手に"どうか自分と逃げてほしい"と懇願されたら。どうだろう?

 駆け落ちその物が、エリアス殿下を亡き者にする為の罠…?
 事実、俺は最後まで駆け落ち相手を見ていない。国境付近の街で落ち合う約束だと、王子は言った。
 そもそもどんなに相手に頼まれても、駆け落ちなんてやっぱり変だ。
 エリアス殿下の性格から、かけ離れ過ぎている。

 ――もしかして脅されていた?まさか…。それなら逃亡中に一言でも、相談してくださった筈。

 ――王子の命が狙われるのは、今から三年後…。
 本当に?今日明日がそうでないと誰が言える?隙さえあれば、いつでも暗殺なんて――。

 壇上のエリアス殿下を見る。やはり今より三年後は、少し痩せていた…。
 馬車で抱きしめられた時の、王子の体温を思い出す。

 エリアス殿下は駆け落ちの供に、俺を選んでくれた。
 それなのに守り切れなかった…無力さを思い出す。
「…見詰めてばかりいるな、はやく行って来いよ」
「っああ!」同僚に肘で押され、他の騎士の後ろを回り込む。

 ――俺を選んでくれた、殿下の判断を最後まで信じたい。

 俺はエリアス殿下の正面へ立ち、歩み出た。
 過去には出来なかった、大きな一歩だ。
「――ランベルト・ルイジアスです」
 片膝をつき、剣を捧げる。
「国家と王族の方々を、お護りすると誓います」

 顔は上げない決まりだ。だから王子がどんな顔をしているかなんて分からない。
 それでも良かった。俺は味方だと伝えたかっただけ。

 ――だから捧げた剣に手が掛けられるなんて、予想もしていなかった。

「ランベルト・ルイジアス、私の為に剣を取れ」

「――…!?」
 エリアス殿下の声に、俺は思わず顔を上げた。

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