死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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10.初日は

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 落ち着いた内装の執務室、朝の空気が少し冷たい。
 そのまま、エリアス殿下の人柄を表したような部屋だ。

「ランベルト・ルイジアス、久しぶりだな」
「サイロ様、ご無沙汰しております」
 一見強面の熊のような男、名はサイロ・ロシュエル。
 幼い頃からのエリアス殿下の護衛主任。もちろん俺とも面識がある。

 過去で第一王子の護衛になってからは、個人的な相談もした。
 両王子の護衛主任同士、式典などはご一緒する機会も多かった。
 木から落ちた幼い頃の俺達を、見事に受け止めてくれたのもこの人。
 今思えば俺はこの方の働きぶりに憧れていたのかも。

「これからは仲間として、よろしく頼む」
「こちらこそ!よろしくお願いします!!」
 まだ自室にいるエリアス殿下には先輩騎士が一人付いている。
 目の前の主任騎士と、今日は三人体制だ。


「おはよう」
 微かな花の香りと共に、エリアス殿下が入室した。
 一日の予定と警備体制の打ち合わせをする。初日ということもあり今日はほぼ見学だ。
 流石は少数精鋭のエリアス殿下の護衛隊だ。効率的な仕事の振り分けがされている。俺も出来る仕事があるなら取り掛かりたかった。

 一通りの業務の説明を受けてから、資料室に案内された。
 書類整理をしてその保管場所や種類を覚えておくよう。
 執務室とは扉一枚壁一枚隔てている。機密情報が多いので窓もない。
 早速いろいろ調べ物をするには打ってつけだろう。

「はぁ…」
 ――初日から一人になる時間があるとは思わなかった。
 今日はエリアス殿下は外出もされない。やや閉塞感を感じ深呼吸をする。
 …テオドール殿下の護衛をしていた時は方々へ連れ回されたものだ。
 王国中を西から東へ。地方都市から小さな村まで色々な所を見て回った。旅先で無茶な事を沢山言われて…それまで以上にテオドール殿下に振り回されたが楽しかった。

 過去に時間が巻き戻った今、あの時の思い出は自分の記憶の中にしかない。
 ――そう思うと寂しく感じた。

 数時間して、俺は一瞬何もない空間を見詰めた。
 新しい書類を受け取り…渡すように言われた書類を探して渡す。
 エリアス殿下と初日から何を話そうか心配していた。そんな機会はない。

 ――顔も見たくない…という事だろうか。でも昨日は、俺を護衛に指名してくれた。
 殿下を守る為には信頼関係が大切だ。今だって、隣の部屋にいたのでは意味がない。


「失礼いたします」軽食を乗せたトレーごと、給仕係が入って来た。
「こちらにご用意させていただきます」
「?」
 ――誰か食事でもするのか?窓もない部屋で…機密書類ばかりの中?

「捗っているか?」
「…エリアス殿下っ!?」
 思わず席を立とうとしたが片手で制される。給仕係もサイロ様も静かに退室してしまった。

 急に始まったエリアス殿下と二人きりの昼食。
 …殿下はいつもこの部屋で食事を?たまたま今日は俺がいたから一緒に?
 聞きたい事が沢山ある。でもひとつも聞けていない。
 スープとパンで具材を挟んだ物など片手でも食べられるような軽食。それでもチラリと見たエリアス殿下の食べ方は本当に綺麗で。自分はどう見えているか急に不安になった。
 エリアス殿下と接する度に、嬉しい反面自分が客観的に見て平静を保てているか心配になる。
 だからやや表情や態度が硬くなってしまうのは仕方がないことだった。

「…ランベルトは昨日」
「っはい」
「なぜ大聖堂に?」
 "なぜ"とは?質問の意図が分からなかった。
 あの場には新任王族護衛騎士のほぼ全員が参加していた。
「…兄上に、行けと言われたか?」

 テオドール殿下は俺が大聖堂に行く前に、護衛に指名しようとしていた位だ。
「いえ、自分の意思で行きました」
 なにが聞きたいのか、エリアス殿下の歯切れが悪い。

「テオドール殿下には後から怒られたくらいです…勝手をするなと」
 ははっと思わず自嘲的な笑いが出た。昨晩一晩中ぐちぐちと文句を言われて、テオドール殿下に謝り倒したことが思い出される。

 ――俺はなんでも正直に、エリアス殿下に話したかった。

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