全然痩せないの。

ヤマグチヤコブ

文字の大きさ
1 / 1

全然痩せないの。

しおりを挟む
「全然痩せないの。」

彼女は涙をこぼしながら言った。



「甘いものは全く食べていないの。」

美しい指を銀のスプーンに絡め、卵とバターライスを震える口に運ぶ。



「今お呼ばれした分だけ!ほんの小さなケーキだけよ。」

空になった五号のケーキボックスは几帳面な彼女らしく行儀よく折り畳まれている。



「今度のとこでは食事は全くでなかったの。」

すっかり貯まったケータリングのポイントカード見つめ、彼女は悲しげだ。




「そうなんだ、頑張ってるんだね。」

僕はコーヒーを受け取りながらそう答える。



「ほんとに全然痩せないの…もう嫌になる。」

ミルクとスティックシュガーを鞄に詰めながら彼女は呟いた。





「君も何か飲む?」

メニューを開くと、美しく彩られた指が
スッ…とバターチーズカレーを差す。僕は店員を呼んだ。
テーブルにカレーが並ぶと、僕は本題を切り出す。




「今度はどこで…どれくらいの期間?」

「……それは言えない。」



彼女のダイエット計画はこの国の重要な国家プロジェクトであり、その具体的な内容は軍事機密とされる。


「もうダイエットはやめて…僕と暮らしてほしい。」

「ダメなの…この任務は私が痩せるまで終われないの…そうじゃないと意味がない…だから…」


「こんなの…直ぐに済む筈だったんじゃないのか?国防軍部はいったい何をやっているんだ!」







「動くな!! 」

大柄な男達が一斉に店になだれ込み、彼女を拘束する。



「くそ!この短時間にどれだけカロリーを摂取したんだ。」

「…ここの残骸だけで約8000カロリーは確実と思われます。」

「くっ…効率良く店一番の高カロリーメニューを選んで…。」



「はっ!デブなめてんの?そんな事!本能で朝飯前なのよ!」



彼女は国のセキュリティテスターとして国防の要を担っている。

彼女のカロリーを求める本能はアサシン級だ。
そこに国が目をつけた。


軍部は彼女を監視対象とし、カロリー摂取と生活のコントロールを試みている。
軍の監視が完璧であり、危険物の持ち込みや外部との接触が完全に管理出来ているならば彼女は痩せていく筈だ
彼女のダイエット成功は、テロリズムに対する国防力の証となる。


「蟻も抜け出せない要塞だなんて思い上がり甚だしい!!こんな巨体の脱出を許すなんて恥ずかしくないの!」



「…申し訳ありません!」



「まあ今回は早く見つけられたわね。でもこれがテロリストだとしたら今頃町は火の海でもおかしくないのよ。」

「そもそもケータリングが届いてしまっている時点で要塞としてはアウトじゃないんですか?!真面目にやって下さい!」



「ケータリングっ?!…なぜだ…一体どこからっ…。」





彼女のダイエットは未だに成功せず。

国は危険にさらされ続けている。



連行され店から出る間際、

彼女は僕を振り返りじっと目を見つめた。



「私、真剣にこの国を守りたいの…私が痩せる日まで待っててくれる?」



涙で揺れる瞳はとても強く、そして美しかった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...