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李下の冠(戦闘)

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拍子抜けだ。

殺人犯は不明。
理由も経緯も分からない。

前回のループでは前日の夜に主人公と母が訪れた筈だがそれすらもなかった。
ルンバ母上が来ないのでメイドに着替えを用意してもらうことも出来ない。もうこのまま甲冑でいいか。

警戒しつつ慎重にドアを開ける。

主人公に会っていないので確認したい。
ストーリーは順調に進んでいるか気になる。
序盤からイレギュラーが多すぎだ。
ガチャガチャと第1王子の執務室に向かう。
2日間犯人捕縛のイメトレをするうちに甲冑の重さにも慣れてきた。息も上がらない。
流石ハイスペック王子。骨格から違う。
音がうるさい以外問題なく動ける。


軽快に角を曲がった瞬間に甲冑の表面を撫でて小刀が壁に刺さった。


突然攻撃されたショックで何も浮かばない。

耳元で擦れた金属音の反響。
極度の緊張で耳鳴りがする。

廊下の先で人が低く姿勢を構えていた。



第1王子付きの黒髪ポニーテール女騎士。
この世界のサブヒロインだ。



ゆっくりバイザーをあげて顔を露出させるも相手は警戒を解かなかった。
今にも此方に斬りかからんばかりに柄に手を当てて睨み付けてくる。殺意の圧が凄い。
「殿下…何故そのような出で立ちで?」

一先ず警戒を解いて欲しい。
笑顔を作るが口角をあげるだけで精一杯だ。
現代っ子の俺では戦闘員の殺気に耐えられない。第1王子付きの王国騎士なのに何で第2王子に刃を向けるんだよ。不敬じゃないか?

「命を狙われたからな…城の中に敵が潜んでいる。」
「敵……。」

「城の中に罠が仕掛けられていた。…兄さんは居るか?」

女騎士が一瞬で間合いを詰め踏み込んでくる。

ふっと空気が動くのを感じ咄嗟に腕で庇ったが一撃が重い。腕のパーツが歪んで食い込むも耐える。ハイスペック王子ボディでなければきっと駄目だった。

「お前がおめおめと罠に引っ掛かる訳がない。…大方第1王子を排除するための自作自演だろう。」


疑われ過ぎだろ。被害者だぞ。
引っ掛かったものは引っ掛かったんだよ。
俺は何もしてないのに勝手に陰謀論に持っていかれる。コントロールが効かない。

拮抗した俺の腕を支点に角度を変えた切っ先が甲冑首元の隙間目掛けて突き出される。
急所を狙うことに迷いがない。

なんとか仰け反りながら手首を捻って刃先の軌道を外に逸らすも、先の攻撃で歪んだパーツが引っ掛かり引きちぎれた。右腕の装甲が丸ごとすっぽぬけてそのまま壁にぶち当たる。

こいつだったのか?前回俺を刺したのは。

続く攻撃を左の装甲で受け止めそのまま下に引き下げて攻撃をいなす。
この身体はともかく俺は戦闘経験も訓練経験も一切ない。イメトレ専門の素人だ。
「身体が覚えている」的なご都合主義のお陰か反応はできるが苦しい。
長剣はあるが扱える自信がない。しかもこんな接近戦の状態では上手く抜けなかった場合のリスクが高すぎる。

対応に迷っている間に拮抗が崩れた。
掴んだ腕ごと左に凪ぎ払われる。
壁にぶつかった衝撃で左肘と脚のパーツが歪み曲がらなくなった。
甲冑って結構不便だな。装飾が豪華だから飾り様のだったかもしれない。

「何故武器を抜かない…馬鹿にしているのか?」
悔しそうにこちらを睨む。


あぁぁ多分犯人こいつじゃないな…

俺は背後から脇腹を刺された。
この女騎士は正々堂々を好む堅物設定だった筈だ。


負けが見えると妙に冷静になる。
女子キャラは大事なんだよ。
サブヒロインはヒロインとの対比で悩んだな。ストイックでクールな感じが受けるかなって。
書いてる内に色々変わったけど。


女騎士が武器を構え直し向かってきた。

俺は動けない。やられる。


またループか…




「ーーうわぁ!」

ーーーーーーーーーずるっ




女騎士が俺の甲冑パーツを踏んでバランスを崩した。

加速が後ろに反転した反動で胸元のボタンが全て吹き飛ぶ。

立て直そうとして着ている上着の裾を踏み、踏み込んだ勢いのまま飾り紐に絡まり、回転しながら俺をも巻き込みもんどりを打って倒れ、半裸の状態で止まった時には俺の顔面をその谷間に挟んで押し倒していた。

そうはならないだろ。
でもそうなってしまう。

この女騎士はラッキースケベ担当だから。
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