現地人も知らない半島文化

真昼野クラーゲンシュトリヒ

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ニンゲンコロス

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まるこ  :ギチギチ ニンゲンコロス
魔虫   :ニンゲンコロス
魔虫   :ギチギチギチチチチチチチチチチ
魔法使い :それ求婚の呼び声じゃないの。
魔虫   :チッチッ
まるこ  :うーむ。
      ドネ・ストラが綺麗でも新しい言葉をつむぐのは苦手か。
魔虫   :本にいる魔虫の真似も悪くないけど喧嘩売るなら
      もっと綺麗な声でやるべきじゃないのか?
まるこ  :やだ。もっとこう、邪悪で知性がない感じだ。
フィッシー:また妙な遊びを…何か殺す殺すって聞こえるけど何?
まるこ  :聞いたか。ついに殺すという音が人間に届いたぞ。
      やはりあの音程が人間の言葉で言う『殺す』なのだ。
魔法使い :店主さん…すごいですよ。魔虫が人間の言葉を真似た。
フィッシー:変な言葉を真似て…ただでさえ魔虫は怖がられるのに。
      どうせ声真似するのなら可愛いのにしなさい。
まるこ  :種を超えた感情で唯一完全に理解できるものは殺意だ。
      こないだスクリーンを見に行ったのだ。
フィッシー:そういえば1階で蟻のパニック映画やってたね。
      ああいうのに出てくる魔物ってみんなよく調教されてて
      演技が上手なタレントなんだって。
まるこ  :魔虫が言っていたのが『ニンゲンコロス』だった……
      音でだ。人の声を真似たのだ。すごい。
フィッシー:龍虫も蟻の魔物ではあるけどあの映画の怖い蟻は外国の
      蟻の魔虫だよ。音帯を持つ蟻だからあんな事できるの。
      お前達はあの蟻や人間のような喉がないんだ。
      羽と関節を使ったドネ・ストラ以外で会話すると
      無理が祟って体の具合が悪くなるかもしれないぞ。
魔法使い :でもすごいですよ。魔虫って言葉を教えてやれば
      普通に喋るかもしれないんですね。
フィッシー:まあ、虫は書き文字ならたいてい覚えられるそうで。
      アナさんはハミルトンに文字教えたりしないんですか?
アナ   :ははは。私は田舎者ですから…文字が書けないんです。
フィッシー:そういえばアナさんは師匠が森の魔術師でしたっけか。
      そりゃあまあ、文字とは無縁ですな。
      気を悪くされたら申し訳ない。
アナ   :いえ。姉さんは私の自慢ですから。
フィッシー:まあ気を取り直してメープルパンでもどうぞ。
アナ   :ふふ…


フィッシー:森の魔術師はいわば『野生の人間』だときく。
      人の言葉が一切通じず、社会もどこふく風と無関心で…
      ただ、代々口頭で伝えられた一子相伝の魔術のみを
      手足のように使って自然に生きている人たち。
      開拓して土地を広げようとする人里と激しい対立を
      繰り返したけど、帝国では現在ある森を許可なく
      開発してはならないと厳戒令を敷かれて以来
      近くて遠い存在だ。
      学校に行けない事より得ることが多そうじゃないか。
      どう知り合って、どうしてそんな貴重な魔術を
      分け与えられたか気になりますよ。
アナ   :私は厳戒令が敷かれる丁度少し前の開拓民の出なんです。
      ピラムの村を除いて森の魔術師達に滅ぼされた地域。
      あそこの廃村を使って再開拓をしようっていう計画が
      昔あったんですって。私はそんな村に生まれた子供です。
フィッシー:ピラムの村……知ってる。行った事がある。
      森の魔術師と偶然仲良くなった村人ピラムが作った村…
まるこ  :人の言葉で喋るな。虫は聞き取れぬのだぞ。
      ちゃんとドネ・ストラで喋るのだ。
      何の話をしているのか答えるがよい。
フィッシー:ピラムの村の話をしてただけだよ。
まるこ  :ピラムの村ってなんだ。そこで人が死ぬのか。
フィッシー:絶妙に答えに困る質問をしないでくれ。
アナ   :昔ソフィア村の周辺で大干ばつが起きた時、
      ある時急に村長の口から語られ崇められたという神。
      その神の怒りを鎮めるため、村の子供が生贄に
      捧げられていったそうです。でも、体のいい口減らしだと
      村人の一部は村長たちの妄信ぶりに反抗していた。
      ピラムもそんな1人で、どうせ死ぬなら森の魔術師を
      一目見て死にたいと森の中に入ってしまった。
      でも、そこで見たのは死にかけた人たちだった。
      腐りかけたぼろ布をまとって息絶え絶えの魔術師たち。
      ピラムは恐怖よりも怒りが先立ったそうよ。
      幼少からの憧れだった『絶対的恐怖のネクロマンサー』が、
      こんな惨めで、自分達と同じく飢えに苦しんでいるなんて。
      ピラムは自分の飼っていた大事な家畜を惜しみなくつぶして、
      死にかけていた森の魔術師たちに血肉をあげた。
      村の特産品だった黒い糸をふんだんに使ったローブを
      魔術師たちに分けてあげた。
      飢えと寒さから救われた魔術師達は、ピラムに感謝した。
      力を取り戻した彼らは魔法で綺麗な雨を降らせて水を復活させた。
      村長は神の力だと喜んだが、ピラムのした事を知っていた人は
      村長達を冷ややかに見ていた。
      ピラムは魔術師達と友好関係を築き、彼らに魅せられたピラムは
      村を旅立つことにした。見ず知らずの神のために子供達を
      奪われた村人は村長とその下についた村人達を見限って
      ピラムと共に村を出て行った。
      ピラムと村人は魔術師達の言う土地に新しい村を立てた。
      一緒に住んでいたわけではないけれど、隣り合って生きていた。
      そんな折、他の森の魔術師達が一帯にはびこる邪悪な思想を
      消し去るため、各地にあった村一帯を攻め滅ぼしていった。
      ソフィア村も神の名を呼びながら森の魔術師達に消されていった。
      ピラムの村も例外なく襲われたけれど、友好関係だった
      森の魔術師達が守り抜いてくれた。
      森の進撃に唯一飲まれなかった村。それがピラムの村。

まるこ  :人が死んだ話だったじゃないか。俺は正しかった。
フィッシー:この昔話は人が死ぬことがメインじゃないんだけどね…
魔虫   :神の話か…俺は職業柄あちこちの伝承をよく耳にするけど、
      半島の昔話って神にそむいたり殺す話が妙に多い気がするな。
まるこ  :バッタは職業バッタじゃないのか。バッタって人の言葉を
      聞く仕事なのか…
バッタ  :バッタという名前を与えられたキリギリスです。
まるこ  :バッタとキリギリスのどこが違うのだ。
バッタ  :全然違うと思うのに…俺達をバッタと間違えるやつなんて
      人間くらいだと思ってたのに虫にまでそういわれるとショック。
      触覚の長さと飯の好みが違う。バッタは草食キリギリスは肉食。
      ていうか話してなかったっけ? 俺はアデルロウまで来る
      旅人を道中守ったり道案内するガイドの傭兵の使い魔だけど。
まるこ  :わからなくはない。
バッタ  :わからなくはないんだ…
アナ   :ガイドという事は確かに色んな人の話を聞けそうだね。
バッタ  :でもあの辺の崩壊した村を再開発させる動きがあったなんて
      初めて聞いたぞ。あの辺今でもピラムの村がぽつんとあるだけ
      じゃないか。いったいどの辺の人なんだ?
アナ   :昔はもっと広範囲が荒涼としていたそうよ。ピラムの村付近
      ではなくて、もっと北側。そこにあった廃村を利用して
      村を作り直したのよ。当時はありえない魔獣が徘徊してて
      危険な土地だったけど、どうにか退けて…
バッタ  :ありえない魔獣ってどんなだろう。半島ってよその国と比べて
      魔獣は温厚で中立的らしいんだけども。半島は魔力を持たない
      野獣の方が怖いって外国人はよく言うぞ。魔獣語は方言が強いし
      国際共通語に近いドネ・ストラすら通じないから襲われたら
      話し合いも出来ずにやるかやられるかになるって。
ハミルトン:そりゃあナチュラルに猛毒を持ってたりするから…
バッタ  :猛毒の屁を放つ虫が言うと迫力が違うな。
ハミルトン:大半のいきものには青臭いだけですから。
アナ   :バシリスクがたくさんいたんですって。
バッタ  :…逆に何でそこを再開発しようとしたのか理解に苦しむぜ。
      そんなものがうようよいる場所なんて人の住める場所じゃない。
フィッシー:バシリスクってあらゆるものを石化させる魔獣だろう。
      外国の砂漠にいる魔獣がこんなしけった森にいるのか?
アナ   :だからたいした力を持たない魔法使いしかいない開拓団体でも
      何とか駆逐できたんだと思う。姉さんが手を貸してくれたって
      のもあると思うけど。
フィッシー:森の魔術師が人里の魔術師に手を貸したのか。
      バシリスクなんて森の魔術師が持ち込んだものだろうに。
      自分のペットを駆逐させるなんて不思議な話もあったもんだな。

アナ   :姉さんがバシリスクを連れてきたわけじゃない。ただ、
      森の魔術師としては別に邪魔ではなかったから放置してただけ。
      でも、何故バシリスクが放たれていたのかを知らない人達が
      自分達の住処の拡大のために魔獣と無謀な戦いをしてたから、
      興味がわいて人里側に手を貸したんですって…
まるこ  :森の魔術師は理由があってバシリスクを持ち込んだのか。
アナ   :森の魔術師は人であって人でない存在…人の心を持っているなら
      力添えせずバシリスクを倒させずにいただろうと思う。
      でも、人為的に森の小平和を維持した先代の森の魔術師より、
      自分達の力だけで森を制しようとした人里の者に
      姉さんは興味を持ってしまった。
      ただ儀式的な祈りで人のよりどころになる以外の力がない
      形だけの祈祷師だった私の親にバシリスク退治の秘術を与える
      代わりに、娘をよこせって交渉したのよ。
まるこ  :それで娘を犠牲にしてバシリスク退治の魔法を得たのか。
アナ   :私は親に捨てられたようなものだった。でも姉さんは最初から
      親から私を取り上げるつもりはなかった。ただ、妹のような
      存在が欲しかったってだけだった。最初は殺されるとか思った。
      でも森に行ったり、家に帰ったりして平和に過ごしていたのよ。
バッタ  :平和そのものじゃないか。何の問題が?
アナ   :問題はそこからよ…バシリスクがどうして放たれていたか。
      あの一帯は人に対して敵対的な精霊が集まるスポットだった。
      バシリスクは唯一自分を見ても石化しない精霊が大好物。
      環境が悪いけど増えていけたのは、バシリスクが満足するだけの
      餌が豊富にあったからなのよ。
      天敵が駆逐されてから、悪霊がどんどん増えて村の人達に
      危害が及ぶようになってしまった。
フィッシー:それで姉さんはその件に助け舟を出したのか。
アナ   :そう。対精霊の強い毒性という珍しい毒をもつ魔虫ハミルトン…
      アナルバズーカオストメイツをくれたの。
まるこ  :アナルバズーカオストメイツ。
バッタ  :アナルバズーカオストメイツ。
ハミルトン:その名は忌み名です。その名で呼んではいけない…
      私はハミルトンです。
      …種族名を固有名にするのは今日日珍しくないですよ。
      ねっピk      
フィッシー:アナルバズーカオストメイツ…
アナ   :アナルバズーカオストメイツです。アナルバズーカオストメイツの
      力で森は平和に保てているんです。とはいえ毎日屁を出すのは
      大変ですから、時々ここに来て骨休めしてるんですよ。
      虫の友達もできて楽しいでしょう。
まるこ  :しり休めだな。
バッタ  :間違いねえ。しり休めだな。
ハミルトン:ギチギチ ニンゲンコロス
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