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第一章:ギルド加入編

番外編:もう一人の転生者

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 「ん……んん……」
 爽やかな風や草の感触と木々の匂い、鳥の鳴き声が聞こえ、俺はボンヤリとした意識の状態で目を覚ました。
 まず目に入ったのは、どこまで続いてるのかわからないほど生えている木々と、広くて底まで見えるほど澄んでいて、キラキラと日の光が反射してる湖。
 明らかにここは林とかではなく森の中で、俺が最初に疑問に思ったのはただ一つ。

 「ここ……どこだ?」

 だって、俺は自分の部屋の中のベッドで寝ていたんだぜ?目覚めて森の中って……どうよ?
 夢とも一瞬思ったが、夢なら匂いも感触もないし、ましてや全てがリアルすぎる。
 首を振り、とりあえず乾いた喉を潤すために水を飲もうと湖に近づくと、水に映った自分の姿を見た途端に固まってしまった。
 え、え? なんか水に映ってるの……俺じゃないどころか人間ですらないんですが?
 実際にも自分の体を見てみると、手や腕は緑色の鱗で覆われていて、掌は肉球みたいにプニプニしてて、爪は細くて鋭く尖っている。顔にも鱗があって、口はマズルみたいに少し前に出ていて鼻に関しては斜めに細長く穴が開いている。頭には毛がなくツルツルで、後ろを見ると太くて長い尻尾があって自分の意志で自在に動き、上半身は服を着てない代わりにボロボロな鎧を肌に直で身に着けていて、下半身はズボンに関しては身に着けていない……つまり下半身丸見えだ。
 俺の息子があった場所も何もぶら下がってない……代わりに気になる縦割れがある。
 ……なんかこれ以上触れちゃいけない気がする……色々と。
 ザッと見た感じ……ゲームのRPGとかにいる魔物のリザードマンってのにそっくりだな。
 だが……俺は間違いなく"蜥蜴 聡とかげ さとし"として32年間人間をやっていたはずだ。
 そして、昨日まではブラックな仕事で一ヶ月近く会社に寝泊まりして……一ヶ月ぶりの休みで疲れ果ててフラフラな体で家に帰ってベッドに倒れこんだ……よし、間違いない。
 だが今はどうだ?
 これ、完全に人外の体じゃねぇか!!どうなってんの、これ!?
 なーんか目覚める前に誰かと話したような……気のせいか?
 なんとなく頬を殴ってみると……やはり痛《いて》ぇ。すっげぇ痛《いて》ぇ。
 やはり、誰かと話したなんて気のせいだな。
 ……ま、せっかくブラックな企業から解放されたんだ……この体で自由気ままに生きてくか。
 ポジティブにいかねぇとキリがねぇ。
 すぐそばに落ちてた剣を拾い、とりあえず森を抜けようと歩きだしたらいきなり遠くで火柱が出現して、俺はいきなりのことに尻餅をついてしまった。
 いきなりなんなんだ、いったい?向こうで何かあんのか?
 とりあえず行ってみるか。
 俺は火柱が上った方向へ向かう。
 おおう……なんか動きやすいぞ、この体。
 体が軽いというか……身体能力の問題か?こりゃいいや!めっちゃ気に入った!!
 木の枝に捕まって回転して飛び、次の枝に掴む。
 なんか……これは体操選手の気分だ!
 やがて森を抜け、平原らしき場所に出る。
 すると、火柱が上った方向から何かが大量にこっちに向かってくるのが見え、思わず木の陰に隠れた。
 向かってくるのが何者かはわからないし、今の俺はモンスターだからな……もし、馬に乗った騎士とかなら、俺は当然討伐対象だ。
 しかし、走り抜けて行ったのは異形の動物たちだ。
 アレも魔物なのか?間違いなく日本じゃないな……
 いったい向こうで……なにがあったってんだ?
 向こうに行ってみたいが、もし戦いになってしまったら?
 経験値が全くない俺なんて、速攻でやられちまう……気になるが行けねぇな。
 今はゲームみたく、弱い奴と戦って経験値を積んでレベル上げといくか? せっかくブラックな企業から解放されたんだ(二回目)……自由気ままに生きるとは言ったが、死にたくはないから強くなるしかないか……
 死……といえば、なぜ俺はこの姿になってしまったんだ?
 それに、やっぱ目覚める前に誰かと話した気がすんだよな……ボンヤリとしか覚えてないけど。
 それ以前に、疲れ切ってベッドに倒れたはずなのに……姿と世界が変わってることが一番の謎だ。
 ……あー、もう!!わっけわかんねぇ!!
 こういう時は旅だ!旅に出よう!そうすりゃ、いつかはこの謎がわかるかもしんねぇからな!
 よし、そうと決まれば早速行こう。
 そして、まずは服が欲しい!できればズボンだけでも。元は人間だけに、何も履いてないのは……ねぇ?
 さて、まずはどこに行くか……未知の世界だし、どこに行くと何があるかわからないからなぁ……まずは森の中でレベル上げといくか。最初の場所の魔物は弱いのがRPGの鉄板だ。
 俺は振り返り、森の中に戻っていく。





 ぬおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああ!!!
 数時間後、俺は熊みたいな魔物に追いかけられていた。
 コイツ、すごいデケェくせにめっちゃ速い!!
 木を破壊しながら突っ込んでくるそいつは、どんなに走ろうが全てを破壊しながら突っ込んでくるし、どんなに急に曲がろうが大回りしてでも俺を見失うことなく追いかけてくる。
 ていうか、いきなりこんな奴とエンカウントするなんて聞いてない!普通は最初はスライムとか弱い奴じゃないの!?
 隠れてやり過ごそうにも、近くてそれができない!
 死ぬ!死ぬ!マジ死ぬ!!
 あれ、なんか急に視界が広がって……って崖ぇ!!?
 ……いや、これは逃げきれるチャンス!!
 俺は崖ギリギリで横に跳び、熊野郎は崖に気づいて急ブレーキをかけるも、その勢いを完全に殺せずに崖下へと叫びながら落ちていった。
 下を覗き、深く下で流れる激流にボチャンという音と水しぶきを確認すると、俺は安堵のため息を吐いて尻餅を着いた。
 た、助かった……早速ゲームオーバーになるかと思ったぜ……
 ここってあんな奴ばかりなのか……?だとすると、平原に出て別の魔物を探した方がいいんじゃないか?
 ……うん、そうだな、そうしよう。
 さっきみたいな奴がまた現れて、今度こそゲームオーバーになりかねん。
 ……はぁ、前途多難だな……。
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