32 / 35
32心配
しおりを挟む――――待ってる。
そう言って、まともな返事をする間もくれず踵を返した人。
「きゅう」
勝手に時間も場所も決められて、待たれても困るんだけどなぁ。
でも真夜中に十代の若い子が待ちぼうけしているなんて危ないじゃない? 気になるじゃない?
私はどうせ散歩のついでだしね、と思ってとりあえずカインの言った金曜日――この国で言う花の日に見に行ってみた。
すると彼は本当にあの赤い屋根の上で待っていた。
空から見下ろすと、真っ白な神官服ではなく、城で見た王子様っぽい服でもなく、全身を黒いローブ姿で髪も流したままの、黒ずくめの不審者スタイルだ。
「きゅう」
「あぁ、シンシアか」
降りていくと、くしゃっと子供らしい笑顔をされてしまった。
ただただ無邪気な『嬉しい』の感情が見える。
すっぽかさずに来てよかったと、うっかり思ってしまったじゃないか。
「結構むりやりな約束だったし、放っておかれる可能性のほうが高いと思ってたんだが、普通に来てくれたな。良かった」
「きゅーう」
だって誰かが自分を待っていると知っている中で放置しとくのって、罪悪感がわいちゃうじゃない。
嫌いな人ならどうでもよかった。
でもカインのことは別に嫌いじゃないし。
公爵家以外の人との交友を広げられる機会はありがたいとも思う。
ただこっちの都合も聞かずに、勝手に会う予定を立てられるのが困るだけ。
「きゅーう。きゅう!」
今度はきちんとこっちの予定も聞いてよね!
まぁ赤ちゃん竜の私に予定らしい予定なんてひとつもないけどさ!
「なにを怒ってるんだ?」
「きゅう!」
「……竜のままだと話が通じないし、またローブでぐるぐる巻きもあれだからな。準備しておいてよかった」
「きゅ?」
そう言うと、カインはさっさと屋根の上から屋敷の三階のバルコニーへと飛び降りて行ってしまった。
私もあとを着いて飛んでいくと、彼はそのまま躊躇なく戸をあけ、室内へと入ってしまう。
「きゅう!」
こらダメでしょう! 鍵が開いてたからって勝手に人様の家に入るだなんて!
「きゅっきゅきゅーう!」
叱るために声を上げたが、カインは特に悪びれなくさらに奥に進んでしまう。
仕方なくそろそろと中を覗き込むと、彼は部屋の隅にあるクローゼットからワンピースを取り出しているようだった。
振り返って、ハンガーにかかったそれをこっちに見せてきた。
「ほら、かぶるだけで着られるタイプだから、これなら侍女もメイドも必要ないだろう? ここに何着か用意してあるから、これからは好きに着るといい」
「……きゅ?」
え、どういうこと。どうして私の服がこの屋敷に用意してあるの。
勝手に取ってるのかとも一瞬考えたけれど、カインの持っている服はどう考えても十歳前後の女の子……人間になった私サイズのものだ。
しかもきちんとしたドレスではなく、かぶって着るだけでいいラフなワンピース。
端にレースがたたいてあって可愛いデザイン。
どう考えても私の為にわざわざ用意されたもの。
うーん? もしかしてこの家、カインの家なの? だから勝手に入っていったの?
でも君の家ってお城じゃなかったっけ。
「きゅーう?」
「何言ってるかわからん。早くはいってこい」
いまだにバルコニーから顔だけを覗き込んでいる私を、彼は促してくる。
躊躇していると、カインは焦れたのか近寄ってきて扉を大きく開け、頭からワンピースをかぶせてきた。
「本当にわからん。とにかく人間になってくれ」
そうだね。意思疎通がなりたたないのは面倒くさすぎる。
私はさっさと人の姿になっちゃうことにした。
はいっ、人間になーあーれぇー!
唱えると同時に竜石が光る。
その直後、人間の足で立った私は、まず疑問を口にする。
「ねぇ、このお屋敷ってカインのもの? 勝手にはいっても大丈夫な場所なの?」
「ああ、それを心配していたのか。大丈夫だ。私個人のものではないが、父の……王家の持ちものだ。今は何人か管理のために常駐してはいるが、今日ここを使う旨は言ってあるし顔を見せないで放っておくようにも伝えてある」
「へーえ。王城以外にも家持ってるんだね」
「国内各地に別邸的なのはあるな。ここは城以外で秘密裏に人と会う必要があるときとか、あとは忍びで城下におりたときの滞在用だ」
本邸(王城)から一時間も離れていないのに別邸が必要なのかと首をひねったけれど、どうやら密会やらお忍びやらと、こっそりした活動に役立つらしい。
暮らしている家に自由に人を呼べないのって面倒くさそう。大変だねぇ、王子様。
「不法侵入じゃないなら大丈夫か。じゃあお邪魔します」
「ふ……ここまで説明してやっと入る気になるとは、意外に真面目だな」
「人様の家に勝手に入らないなんて、ごく普通の感覚でしょ!」
「そういうものか?」
え……この人、不法侵入が普通の感覚なの?
「いや、その蔑むような目をやめろ。情報収集の仕事などでたまーに屋根裏にひそんだりしてるだけだ」
さっきの反応だとたまーにではなさそうですけどね。
「王子様で神官様な立場の人がする仕事じゃない!」
「得意なんだから仕方ない。適材適所だ」
話を軽く聞いたところ、風魔法で足音を消したり、気配を消したり出来るんだって。
それが買われて密偵のような仕事をこなしたりもしているらしい。
やっぱり誰かを雇うより、身内であるほうが信頼が出来るのだそう。
でも王子と神官と密偵の仕事をこなすとか凄いハードワーク。
カインってまだ十五歳でしょう? 王族の子育てってスパルタだ。
「ねぇ……大丈夫?」
私はカインの顔を覗き込みながら訊ねた。
「何がだ?」
「……過労死する前に、ちゃんと休みなよ。続けるの大変なら無理って断りなよ」
過労死した経験者の私からの助言。
働き過ぎはいけないのです。
「ちゃんと休んで、寝て、美味しいもの食べて、笑って過ごす時間が無いと死んじゃうよ」
実際に死んじゃった私が言うんだから間違いない。
私の経験のこもったアドバイスに、カインはなぜか目を見開いて瞬いて、固まってしまった。
「カイン? どうしたの?」
「っ……いや」
しばししてから我に返った彼は、またくしゃりと嬉しそうで無邪気な笑顔を浮かべた。
「そんな心配されたのは初めてでびっくりした」
「初めてなの? 働きすぎって言われないの?」
「初めてだが?」
周りの誰も、十五歳の少年を働かせていることに疑問を持たないのか。
立場も立場だし、前世の世界とは違って子供のころからの労働も珍しくないのかもしれない。
でも私の感覚では学校に通って青春に浸かっている時期の子なのだ。
そんな子が、真夜中まで危険な仕事をこなしていて、しかもそれを周りが普通に受けとめている。
この世界の人間って、大変だなぁ。竜でよかった。
カイン……ほんとに、私みたいに過労死しないでよね?
1
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
転生してもオタクはなおりません。
しゃもん
恋愛
活字中毒者である山田花子は不幸なことに前世とは違いあまり裕福ではない母子家庭の子供に生まれた。お陰で前世とは違い本は彼女の家庭では贅沢品でありとてもホイホイと買えるようなものではなかった。とは言え、読みたいものは読みたいのだ。なんとか前世の知識を魔法に使って少ないお金を浮かしては本を買っていたがそれでも限界があった。溢れるほどの本に囲まれたい。そんな願望を抱いている時に、信じられないことに彼女の母が死んだと知らせが入り、いきなり自分の前に大金持ちの異母兄と実父が現れた。これ幸いに彼等に本が溢れていそうな学校に入れてもらうことになったのだがそこからが大変だった。モブな花子が自分の願望を叶えて、無事幸せを握り締めるまでの物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる