嘘つきな悪魔みたいな

おきょう

文字の大きさ
18 / 28

第十八話

しおりを挟む


「くそっ……!!」

 街中を全力疾走で駆け抜ける馬に、周囲の人間が何事かと振り返る。
 そしてめったに見られない極上の毛並をした雄々しい馬に乗る、馬よりも雄々しい男に目をひん剥いた。
 豪胆で粗野な見目の男は野山を駆ける豹か獅子を思わせる迫力で、厳しい眼差しで黒光りする目を凝らしている。
 その目に狙いをつけられれば食い殺されるのではと、誰もが震えあがった。

 馬の嘶きと共に急停止した男は今、獲物を見つくろうかのように周囲を見渡している。
 目をつけられないようにと誰もが視線をそらし、その場から去ろうと足早に足を動かしていた。

「おい、そこの」
「ひっ……」

 しかし無残にも標的になってしまった通りすがりの紳士は、涙目でその男と対峙しなければならなかった。
 馬の上から話しかけられているので威圧感も倍増だ。

「ははは、はひっ…!」
「15・6歳くらいの女を探している。見なかったか?」
「女? ……え…えと。そう言われましても」
「腰ほどまでの長い薄茶の髪に、同色の目をしている女だ。今日この町に泊まっていないか?」
「…えー…あの……他に何か特徴は…」
「特徴……?」

 思案するように目を細めたリカルドに、紳士は粗相をしてしまったのかと息をひきつらせた。
 その怯えた紳士に構ってやる余裕は今のリカルドには無く、ただティナを思い浮かべる。

(特徴……特徴…)

「あのぅ……?」
「黙ってろ」
「は…はい!」

 リカルドは毎朝毎晩見つめまくっているティナを思い返した。
 彼女の薄茶の髪も目も、どこにでもある色だ。
 体型も容姿も、別段目立ったところは無い。
 しいて特徴と言えば何故かリカルドみたいな男に絶対的な信頼を寄せている変わり者だと言うことか。

 あとは可愛い。とにかく可愛い。
 見た目の部分ではなく、仕種や言動が可愛い。
 リカルド的にはとりあえずティナがティナと言うだけで可愛い。
 引っ込み思案なおどおどとした小動物のような濡れた目で見上げられると、比護欲が掻き立てられてもう堪らなくなる。
 ぎゅうっと抱きしめて潰してしまうくらいに愛でてやりたい。

 ……とは言っても。

 完全にリカルドの主観によるものなので目の前にいる第三者に通じるはずもない。
 口下手なリカルドがティナの可愛らしさについて人に分かってもらうように説明するのも難しい。
 誰からみてもティナだと分かるティナらしい特徴を、うんうんと考えてはみる、が。

(無いな)

 むしろ個性らしい個性がないのが特徴かもしれないくらいだ。

(……これでは聞き込みも難しいか?)

 そもそもティナがこの町にいるのかどうかも分からない。
 実家へ行く道順としてこの町を通ると言うのは間違いないが、もしかすると1つか2つ先の町にいるか、それとももう通り過ぎた1つ前の町ににいるのか。
 宿屋に泊っているのか貴族の屋敷に世話になっているのかさえも、分からないのだ。

 彼女を見つけるのは容易ではなかった。
 こうやって無暗やたらと駆けまわるくらいなら、ティナが実家に着いた頃に連絡を取ってみる方が手堅いだろう。 
 レジトールまで先回りしてしまって待つという選択しもある。

 だがリカルドは、もう1か月もティナを待たせているのだ。

「これ以上に先延ばしになどしない」

 絶対に今日中に。いや、一秒でも早く彼女に会わなくては。
 そう決めて、とにかく手当たり次第聞き込みを始めることにした。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真夏のリベリオン〜極道娘は御曹司の猛愛を振り切り、愛しの双子を守り抜く〜

専業プウタ
恋愛
極道一家の一人娘として生まれた冬城真夏はガソリンスタンドで働くライ君に恋をしていた。しかし、二十五歳の誕生日に京極組の跡取り清一郎とお見合いさせられる。真夏はお見合いから逃げ出し、想い人のライ君に告白し二人は結ばれる。堅気の男とのささやかな幸せを目指した真夏をあざ笑うように明かされるライ君の正体。ラブと策略が交錯する中、お腹に宿った命を守る為に真夏は戦う。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

傷跡の聖女~武術皆無な公爵様が、私を世界で一番美しいと言ってくれます~

紅葉山参
恋愛
長きにわたる戦乱で、私は全てを捧げてきた。帝国最強と謳われた女傑、ルイジアナ。 しかし、私の身体には、その栄光の裏側にある凄惨な傷跡が残った。特に顔に残った大きな傷は、戦線の離脱を余儀なくさせ、私の心を深く閉ざした。もう誰も、私のような傷だらけの女を愛してなどくれないだろうと。 そんな私に与えられた新たな任務は、内政と魔術に優れる一方で、武術の才能だけがまるでダメなロキサーニ公爵の護衛だった。 優雅で気品のある彼は、私を見るたび、私の傷跡を恐れるどころか、まるで星屑のように尊いものだと語る。 「あなたの傷は、あなたが世界を救った証。私にとって、これほど美しいものは他にありません」 初めは信じられなかった。偽りの愛ではないかと疑い続けた。でも、公爵様の真摯な眼差し、不器用なほどの愛情、そして彼自身の秘められた孤独に触れるにつれて、私の凍てついた心は溶け始めていく。 これは、傷だらけの彼女と、武術とは無縁のあなたが織りなす、壮大な愛の物語。 真の強さと、真実の愛を見つける、異世界ロマンス。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...