嘘つきな悪魔みたいな

おきょう

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第二十八話

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 不安げに眉を下げるリカルドにやさしく微笑んでから続ける。

「仕事も出来て、国王陛下に信頼されるほど人柄も良くて、爵位も高くて、真面目でしっかりしてらっしゃって…リカルド様は私なんかにはもったいないほどの憧れの人でした」

 ティナみたいに何一つ自慢出来るもののない小娘が、彼の妻と言う立場を得られるだけで幸せなことだと思った。
 だから、理不尽な扱いを受けても仕方ない。
 完璧なリカルドにティナみたいな女を本気で想ってくれるはずがないと、むしろ納得さえしてしまっていた。

「なのに実際は仕事以外は目に入れられない、すごく不器用な方で」
「…失望したか?」
「いいえ」

 これ以上言うと泣き出してしまいそうなリカルドに、ティナは微笑んで首を振る。

「同じなんだなぁ、って」

 リカルドはティナにとって手の届かない憧れの人だった。
 力強くて頼もしくて、見た目だけでなく中身からしてどこまでもどこまでも大きな人。
 でも駄目な所を知り、実は不器用なことを知った。
 そして案外天然なことも分かって、やっと自分と同じ人間なのだと思えた。
 背伸びしないで同じ高さを見ていられる、隣に立っていても他人の目が気にならない。

 初恋に落ちた激情の勢いだけで縋りついていた時と今はもうまったく違う。
 彼となら一緒に人生を共にしていける、家族になれると思った。
 焦りも不安もなく自然にそう感じられるのだ。

 下からじっとティナを見つめ続けているリカルドの前髪にそっと指を差し入れて髪を後ろに流す。
 露わになった額に口づけを落として、また笑ってみせた。

「だから、いいんですよ。駄目なところがたくさんあっても。むしろ私でもあなたの助けになれると分かって嬉しいです。これからは他人に任せっぱなしにしないで、私に任せてくださいね?」

「ティナ…」

 リカルドはティナの台詞に感動したように口元を緩ませている。
 リカルドも、ティナに良く思われたくて気を張っていた部分があった。
 毎晩ティナと話せなくても、側に居てくれるだけで幸せなのだと、起きて話をしてほしいなどと言うのは我儘だと自分に言い聞かせていた。
 その結果、たくさんの誤解が生じてしまい結婚1か月にして早々に離婚の危機に陥ってしまったのだ。

「急ぎすぎていたんだな」

 リカルドは早く自分のものにしてしまいたくて。
 ティナもこの機会を逃したくなくて。

 お互いを知りあい、分かりあう時間を飛ばして結婚してしまった。
 結婚してからもその努力をどちらもしようともせず、仕方がないと2人そろって諦めてしまった。
 リカルドは息を吐いてから、少し身を起こしてティナと視線の高さを合わせる。
 小さなティナの頬にそっと指を差し入れて、親指で柔らかな頬をさすった。

「これからは早く帰れるように努力する。不安にさせないように何でも話す」

 真剣な顔で言うリカルドに、ティナは笑って頷いた。
 頬を包んでいる手のひらに自分の手を添えてすり寄るようにその暖かさを感じる。

「私も、リカルド様とたくさんお話したいです。良いことも悪いことも、何でも話していただきたいです」
「っ……そ、れは…」

 リカルドの視線がティナから離れたことで、ティナは確信した。
 逃さないように手に力を込める。

「先ほどのシルヴェストル陛下からのお手紙、嘘をつきましたね?」
「………」
「ね?」

 笑顔でそう言うティナに、リカルドは迷うようなそぶりを見せた後にため息を吐く。

「敵わないな。聞いても楽しい話じゃないぞ」
「えぇ、でも知りたいのです。私も関わっていることで黙っていられるのは嫌です」
「分かった。…だが、先にこっちだ」
「え……っ…」

 ティナが反論する前に、リカルドは元から寄りかかっていた体に体重をかけてソファの上へティナを押し倒してしまう。
 突然のことに驚いて目を見張るティナの様子に口端を上げ、額と額を合わせた。

「あの、紅茶がそろそろ…と言うかもうだいぶ渋くなってしまっているかと」

 ずいぶん前にポットに注いだ紅茶は、もう飲める程度でなく濃くなっているだろう。
 そんなどうでも良い事の心配をしている振りで逃れようとする妻を咎めるように、リカルドは唇を奪ってしまう。

「っ……」
「それも、後でだ。こちらの方が大事だからな」

 そう言った旦那様は、野獣のように怖い獰猛な表情で、捕まえた獲物を食らうのだった……。

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