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 デザインを描いている時間は、まるで夢の中に居るみたいに楽しい。
 だからこそ、なんだかその時の気分を捨てるのは勿体なくて、処分出来ずにここまで溜まってしまった。
 エリーが何かを作るときのアイデアに遣ったりしているし、今も美湖のドレスの参考にしようと引っ張り出しているので、無駄にはなってない。

「いっぱいだねぇ」

 マーシュはフローリングの上に敷いたカーペットに広げられたたくさんの紙と、手元にある紙を交互に見て目を輝かせる。

「かわいいおようふく!」
「へへ。ありがと。ねえ、マーシュは神龍の巫女様にどれが似合うと思う?」
「みこさま? うーん、じゃあこれ! おはな、あたまにのってるの!」
「花冠が乗ってるやる? うん、たしかに可愛いかも」
「あ! これもかわいいよ!?」
「これはリボンを少し変わったアレンジで作ったのを付けようとおもったの」
「リボン、かわいいねえ」
「だねぇ」

 たどたどしい末っ子との会話に癒されながら、エリーは十数枚のデザイン画を選び、抜き取っていくのだった。
 

* * * *
 

 翌日、エリーはさっそくデザイン画を持って、美湖の部屋を訪れていた。
 同じく神事用の衣装を作るディノスも、美湖と話があるらしく一緒だ。

 一応、美湖は巫女として忙しいので、この時間しか空けられなかったそうで、二人揃っての打ち合わせになった。
 
「美湖様に似合いそうなドレスのデザイン画を持ってきたので、とりあえず気に入ったのがあれば教えてください」

「どれどれ? わぁ……!」
「これは……」

 机の上に出した束に、美湖は歓声をあげ、何故かディノスは眉を寄せた。
 ピリッと、彼の待とう空気がヒリついたような気がした。
 変なものを出してしまったかと、エリーは首を傾げる。

「な、何か駄目なところはありますでしょうか、ディノス様」
「いや……」

 一枚一枚見ていく美湖とおなじように、どうしてかディノスも別の束を一枚一枚めくっていく。
 めくっていくほどに、眉間の皺が深くなっていく。
 顔が、どんどん怖くなっていく。
 どうして機嫌が悪くなっているのか、まったく分からない。
 とにかくこれ以上怒らせないように、エリーはそっと体をずらして少しだけ距離を取り、目の前で真剣にデザインを選んでいる美湖に向き合った。

「どうですか?」
「ねぇ、これってアシメントリ―? ちょっとパンクな感じでかっこいい」

 美湖が指したのは、向こうの世界でいうパンク調のものだ。

「スカート部分をアシメントリ―に切り替えるの、面白いかなって思って持ってきました。でもさすがにパンク調は、神聖な神龍の巫女様のイメージにはちょっと」
「だよね。このドクロと十字架のアクセサリーとかもちょっと憧れるんだけど」
「うーん。恰好良いクール系がいいですか?」
「可愛いのももちろん好きだよ。あ、これ可愛い。これをもう少しシャープに? というか軽やかに出来ないかなぁ」
「あぁ、だったら袖のパフスリーブをなくして、いっそのこと肩を出したオフショルダーにしちゃいましょうか。こういう……鎖骨も肩も出してすっきりした雰囲気の」

 白い紙に、さらさらと書き出していく。
 着てもらう本人が目の前に居るからか、次から次へとアイデアが湧いてきた。
 何パターンかを続けて描いていく手元を、美湖は物珍しそうにみていた。
 隣のディノスも食い入るように視線を向けて来ていて、ちょっと緊張した。
 一番下っ端のデザインするところなんか見て、彼は何を思うのか。

「シフォン素材ならふわっと軽く、でもさらさらで着心地もいいはずですよ」

 言いながら、ふわっと裾を広げたスカートを書き足す。

「わぁ」

 美湖の瞳が、どんどん輝いて来る。 

(ドレス、楽しみになってきたかな?)

 昨日のドレスづくりの話し合いとはまるで違う、前のめりな姿勢にエリーは嬉しくなった。
 喜んでもらえるドレスを作りたい。
 そう思って、エリーは美湖の話を聞きながら、彼女の好みのデザイン画をその場で何枚も描いていった。
 持ってきたデザイン画の「こことここを組み合わせたい」という意見や、「これ可愛いなぁ」と呟いた言葉も聞き漏らさないように、気をつけながら。
 そんな思いが伝わったのか、出来あがったデザインの中の一つを、彼女は嬉しそうに指さす。

「うん。いいね。これ素敵」
「分かりました。ではこれを。後日きちんと清書したのと、あとは生地のサンプルもいくつか持ってきますね」
「うん! すごく楽しみ。よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 そんな感じで、エリーはなんとか、彼女のドレスづくりの第一歩を無事に終えらた。
 続けてディノスが作る年末の神事用衣装の打ち合わせを見学させてもらったのだった。

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