私の名前を呼ぶ人は(とっても短い婚約破棄 連載版)

桧山 紗綺

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卒業後

勉強会 2

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 カリン君の質問に答えて教室に目を戻す。
 今日は質問をしてくる子が少ない。
 自分たちで問題を解き合う時間にしているみたい。
「だからそこ、また間違ってるよ」
「どこ? あ、ここの計算ミスかぁ」
 仲のいい子同士答え合わせをしたり、わからない所を教え合っている。
 エマリエさんも同じクラスの子と一緒に答え合わせをしてミスを教えてもらっていた。
 しばらくはリシアの出番はなさそうだと思って手元の教材に目を落とす。
 ページを捲ると懐かしい問題が目に入る。
 勉強会を開くのに今の授業の内容がわからないと困るので先生たちにもらった。
 一番苦労したのは文法の授業だったな、と思い返す。
 数学は計算ミスを装ったり使う公式を間違えたりすれば簡単に点数を落とせるけれど、文法は普段使っているだけに極端な間違いが出来ない。
 スペルミスをしたり言い回しに不自然さを作ったり、怪しまれない間違え方を色々考えたものでした。
 おかげ(?)でみんなが間違えやすいところがよくわかる。
 何が幸いするかわからないものだとつくづく思う。
「あら、盛況してるわね」
 様子を見に来たのかメイローズ先生が空き教室の扉から顔を出した。
「先生、どうしたんですか?」
「うん、ちょっとね」
 メイローズ先生は言葉を濁して教室を見回す。
「少しいいかしら?」
 促されて教室の外に出る。
 教室から少し離れたところでメイローズ先生が足を止める。
 勉強会をやることは許可を得てある。
 そのためリシアに指示する用事などは前もって教えてくれていた。
 急ぎの仕事が出来たのかと首を傾げる。
「みんな楽しそうに勉強してたわね」
 柔らかい表情でメイローズ先生が言う。
「おかげさまで。 みんなで集まる自習会みたいなものに近いですけれど」
「それがいいんじゃない? 私たちがやるものだともっと殺伐としてるもの」
 長期休暇の前に先生たちが開く勉強会は、主に成績優秀な生徒ばかりの特別授業に性質が近い。
 そのため成績が普通から下の子は加わりづらいと思う。
 リシアも学生時代は参加するなんて考えなかった。
「リシアさん。 講師として働いてみるつもりはない?」
「え?」
 メイローズ先生の言うことが理解できなくて、思わず聞き返す。
「そんなに意外?」
「それは、だって…」
 困惑に返す言葉が歯切れ悪いものになる。
「この学園の先生って他の学校で経験のある方ばかりですよね」
 メイローズ先生だって地方都市で何年か経験があったはず。
 経験豊富で要請があった方しか入れないと思っていたのだけれど。
「そうね、けれど経験が必須というわけではないわ。
 正式に教師として雇われるのとは違って講師はその道に長けた方なら経験は問わないものだし」
「私は特に秀でた能力はありませんけれど…」
 そういう講師の先生はずっと同じ研究を続けているとか、長年の経験を買われているんじゃないでしょうか。
 ついこの前まで学生だったリシアには当てはまらない。
 突然のことでただただ戸惑うばかりだった。
「確かに経験は全くないでしょうけれど、あなたは基礎が全て高水準に達していると判断しているわ」
 メイローズ先生の口にする評価に絶句する。
「あなたなら十分やっていけると思っているの。
 他の適性は講師として働きながら見極めさせてもらえたらと学園長も考えているわ」
 話がそんなところまで行ってるなんて言葉にならない。
「そ・れ・に…、お給料も今よりいいわよ?」
「う…」
 少し心が揺れる。
 お金に困ってはいないけれどこれから先のことを考えたら蓄えは多い方が良い。
「講師は一つの授業に対していくらだから職員を続けながら出来るし」
 今の職員としての給与プラス講師の授業料が入ると言われて心を揺さぶられた。
「…」
「まあ、今すぐ決めてということじゃないからね。
 他の授業との兼ね合いもあるし、早くても夏休みの後になると思うの。
 ゆっくり決めて、とは言えないけれど急がなくてもいいわ」
「はい…」
 リシアの今の勤務状況なら余裕がある。
 講師の話は驚いたけれど出来ると判断したから話を持って来たんだろうし、正直自分の力を試してみたいとも思う。
「ありがとうございます。 ちゃんと考えますね」
「いい返事をしてくれるとうれしいわ」
 メイローズ先生に返事を返しながら心は決まっていた。
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