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卒業後
ご挨拶
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メイローズ先生の突然の申し出には驚いたけれど、出来れば挑戦したい。
心配なのは父親の邪魔だけ。
学園にいる以上邪魔は中々難しいと思うけれど、油断はできない。
リシアが自分の居場所を作るのを父親は歓迎しないだろう。
自分に出来ることを考えてみるけれど多くは浮かばない。
「リシアさん!」
受付にいる職員の女性が慌てた様子でリシアを呼ぶ。
「ミアさん、どうしたんですか?」
普段落ち着いている彼女がこんなに慌てたところなんて見たことがない。
「あの、お父様が見えてるんだけれど…」
顰めそうになった顔を気力で押さえてミアさんにお礼を言う。
お急ぎみたいだから急いでね、と言うミアさんの表情は強張っていて、ただ急かされたという雰囲気じゃないように見えた。
この様子だと勉強会に戻って来るのは難しいかもしれない。
教室に戻って勉強会を中止にすると言わないと、と思っているとメイローズ先生が監督を請け負ってくれた。
「この後は時間が開いてるから私が見てるわ。 気にしないで行ってらっしゃい」
申し訳なかったけれどせっかくの申し出なのでお願いすることにする。
急ぎ足で向かいながら、重い息を吐く。
前回以上の嫌な予感が胸に込み上げていた。
緊急の呼び出しを受けてきた応接室では、父親が落ち着きない様子で歩き回っていた。
「また来たんですか」
顔を見るのもうんざりだった。今日も無駄な言い合いをしに来たのかと思うと態度もぞんざいになる。
しかし、父親の様子はこの前と違った。
「貴様…、キサマがやったのか!!」
突然の激昂に驚いて動きが止まる。
怒りに握りしめた拳がぶるぶると震えている。
「いきなりどうしたのですか…?」
部屋に入るなり怒鳴られても意味がわからない。
「とぼける気か!?」
「とぼけるも何も、さっぱりわかりません。
お父様にとって良くないことがあったのはわかりましたけれど」
ここまで平静さを失くすくらい大事が起こったんだろう。
リシアのせいだと言われても…、全く心当たりがない。
「一度お座りになってはいかがです? お茶でも入れますから」
あまりに平静を欠いた様子に戸惑いながら提案する。
本当に何をこんなに焦っているんだろう。
リシアの表情を見ていた父親はようやく気が付いたみたいに呟いた。
「知らないのか…?」
「何をですか?」
ちゃんと内容を言ってくれないと知らないとも知ってるとも答えられない。
父親はしばし思案すると荒れ狂っていた自分を落ち着かせるようにため息を吐いた。
「こんなところまで来て、時間の無駄だったな」
実に失礼な台詞だ。
時間の無駄はこっちの台詞だと言いたい。
用が済んだなら帰ってもらおうと思っていると応接室の扉が叩かれた。
「どうぞ」
父親も一応落ち着いたので酷い醜態は見せないだろうと思ったので許可を取らずに入室を許す。
入って来た人に驚いたのは父親よりもリシアの方だった。
「せっ…!」
先生と言いかけて止める。
「誰だ?」
初対面の人間に対するものではない尊大な態度で父親が問う。
紹介するのを躊躇うリシアに笑いかけると先生はリシアの横に立った。
「お初にお目にかかります、私はアルベール・リスターと申します」
訝しげに眉根を寄せる父親を余所ににこやかに笑いかける先生。
「私もリシアも中々学園を出られないので、本来ならこちらから出向くところをこうした形で失礼させていただきます」
先生の言葉に父親が目を見開く。
事細かに説明しなくても今の台詞で父親には先生が誰なのかわかっただろう。
何処の誰かはわからなくてもリシアとの関係は。
「ほほう…」
ようやく敵の姿を掴んだというように先生を睨む父親。
父親の敵意を物ともせず笑む先生は誰も予期しなかった強烈な先制を放った。
「ところで、私からのご挨拶は楽しんでいただけましたか?」
一瞬呆けた顔をした父親が、次の瞬間怒りで顔を赤く染めた。
そのまま殴りかかって来そうな剣幕の父親を見て、前に出ようとしたリシアを先生が止める。
「大切なお嬢様をいただくのに何のご挨拶もしないのは失礼かと思いまして…」
些少ではありますが私を知ってもらえたらと思います、と続く言葉のなんてうそ寒いことでしょうか。
(先生、何をしたんですか…)
父親が怒鳴り込んできた理由がここにあった。
見ると父親は興奮のあまりまともな言葉も出ないみたい。
「今日はご挨拶のみのつもりでしたので、私たちはこれで失礼させていただきます」
そういってリシアの肩を抱いて応接室を出ようとする先生。
扉を閉める瞬間に見えた父親は、悪鬼のような形相でリシアと先生を見ていた。
心配なのは父親の邪魔だけ。
学園にいる以上邪魔は中々難しいと思うけれど、油断はできない。
リシアが自分の居場所を作るのを父親は歓迎しないだろう。
自分に出来ることを考えてみるけれど多くは浮かばない。
「リシアさん!」
受付にいる職員の女性が慌てた様子でリシアを呼ぶ。
「ミアさん、どうしたんですか?」
普段落ち着いている彼女がこんなに慌てたところなんて見たことがない。
「あの、お父様が見えてるんだけれど…」
顰めそうになった顔を気力で押さえてミアさんにお礼を言う。
お急ぎみたいだから急いでね、と言うミアさんの表情は強張っていて、ただ急かされたという雰囲気じゃないように見えた。
この様子だと勉強会に戻って来るのは難しいかもしれない。
教室に戻って勉強会を中止にすると言わないと、と思っているとメイローズ先生が監督を請け負ってくれた。
「この後は時間が開いてるから私が見てるわ。 気にしないで行ってらっしゃい」
申し訳なかったけれどせっかくの申し出なのでお願いすることにする。
急ぎ足で向かいながら、重い息を吐く。
前回以上の嫌な予感が胸に込み上げていた。
緊急の呼び出しを受けてきた応接室では、父親が落ち着きない様子で歩き回っていた。
「また来たんですか」
顔を見るのもうんざりだった。今日も無駄な言い合いをしに来たのかと思うと態度もぞんざいになる。
しかし、父親の様子はこの前と違った。
「貴様…、キサマがやったのか!!」
突然の激昂に驚いて動きが止まる。
怒りに握りしめた拳がぶるぶると震えている。
「いきなりどうしたのですか…?」
部屋に入るなり怒鳴られても意味がわからない。
「とぼける気か!?」
「とぼけるも何も、さっぱりわかりません。
お父様にとって良くないことがあったのはわかりましたけれど」
ここまで平静さを失くすくらい大事が起こったんだろう。
リシアのせいだと言われても…、全く心当たりがない。
「一度お座りになってはいかがです? お茶でも入れますから」
あまりに平静を欠いた様子に戸惑いながら提案する。
本当に何をこんなに焦っているんだろう。
リシアの表情を見ていた父親はようやく気が付いたみたいに呟いた。
「知らないのか…?」
「何をですか?」
ちゃんと内容を言ってくれないと知らないとも知ってるとも答えられない。
父親はしばし思案すると荒れ狂っていた自分を落ち着かせるようにため息を吐いた。
「こんなところまで来て、時間の無駄だったな」
実に失礼な台詞だ。
時間の無駄はこっちの台詞だと言いたい。
用が済んだなら帰ってもらおうと思っていると応接室の扉が叩かれた。
「どうぞ」
父親も一応落ち着いたので酷い醜態は見せないだろうと思ったので許可を取らずに入室を許す。
入って来た人に驚いたのは父親よりもリシアの方だった。
「せっ…!」
先生と言いかけて止める。
「誰だ?」
初対面の人間に対するものではない尊大な態度で父親が問う。
紹介するのを躊躇うリシアに笑いかけると先生はリシアの横に立った。
「お初にお目にかかります、私はアルベール・リスターと申します」
訝しげに眉根を寄せる父親を余所ににこやかに笑いかける先生。
「私もリシアも中々学園を出られないので、本来ならこちらから出向くところをこうした形で失礼させていただきます」
先生の言葉に父親が目を見開く。
事細かに説明しなくても今の台詞で父親には先生が誰なのかわかっただろう。
何処の誰かはわからなくてもリシアとの関係は。
「ほほう…」
ようやく敵の姿を掴んだというように先生を睨む父親。
父親の敵意を物ともせず笑む先生は誰も予期しなかった強烈な先制を放った。
「ところで、私からのご挨拶は楽しんでいただけましたか?」
一瞬呆けた顔をした父親が、次の瞬間怒りで顔を赤く染めた。
そのまま殴りかかって来そうな剣幕の父親を見て、前に出ようとしたリシアを先生が止める。
「大切なお嬢様をいただくのに何のご挨拶もしないのは失礼かと思いまして…」
些少ではありますが私を知ってもらえたらと思います、と続く言葉のなんてうそ寒いことでしょうか。
(先生、何をしたんですか…)
父親が怒鳴り込んできた理由がここにあった。
見ると父親は興奮のあまりまともな言葉も出ないみたい。
「今日はご挨拶のみのつもりでしたので、私たちはこれで失礼させていただきます」
そういってリシアの肩を抱いて応接室を出ようとする先生。
扉を閉める瞬間に見えた父親は、悪鬼のような形相でリシアと先生を見ていた。
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