私の名前を呼ぶ人は(とっても短い婚約破棄 連載版)

桧山 紗綺

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卒業後

夏休み 3

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 散歩して戻ってきたらジェフリーさんが夕食の準備が出来ていると食堂に案内してくれる。
 並べられた料理はとてもおいしかったけれど、給仕がジェフリーさんだけなのが気になった。
 そういえばここに来てから屋敷の人はジェフリーさんしか見ていない。
 このくらいの大きさのお屋敷ならもっと人がいるものだと思うけれど。
 伯爵家が多かったのかな?
 自分の記憶と照らし合わせても正解が出てこない。
 夕食後、先生はジェフリーさんと話があるというのでリシアは屋敷の中を探検していた。
 鍵が掛かっていない部屋なら入って構わないと言われている。
「わぁ…!」
 一通り見て行こうと思っていたのに三番目に入った部屋でリシアは思わず足を止めた。
 天井まで続く本棚が壁一面に並んでいる。
 壁の前にもいくつも本棚があり、ちょっとした図書館みたい。
 窓の側には本を読むための空間があって、ソファとテーブルがちょこんと置かれていた。
 中等部の時に先生が見せてくれた本もここにあるかもしれない。
 手に取る勇気はないので探さないけれど。
 他にも稀少な…、危険な本があるかもしれないので触らないで背表紙だけ見ていく。
 並び方に脈絡がないところは学園の第二図書館に似ている。
(あ、先生が貸してくれた小説がある)
 リシアが帝国語と古語を学んだ推理小説を見つけた。
 懐かしくて手に取ってみる。
 それほど長い小説ではない。
 何度も何度も読み返したので内容はよく覚えている。
 当時の事を思い出す。
 先生は帝国語にも古語にも通じていて、知識が本当に幅広い。
 学園で教えている地理や歴史は、カリン君が師事したいと言うほど深い洞察と知識を持っていた。
 そんな先生に出会えたことが幸運だったんだと思う。
 直接勉強を教えてもらったことはないけれど、態度や言葉で示唆してくれた。
 感謝してもしきれない。
 まさか家に上がらせてもらえる関係になるとは、予想もしていなかったけれど。
 今日は初めての言葉ももらえたし、うれしいことがいっぱいです。
 手を繋いだり、見つめ合うことも幸せだけれど、『好き』の言葉はやっぱり特別な響きを持っている。
 今日は良い夢が見れそう。
 屋敷内の探検は明日も出来る。
 思いのほか長くこの部屋にいたみたい。そろそろ寝ないと明日に差し支えるかもしれない。
 小説を棚に戻して、リシアは部屋に戻った。
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