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卒業後
教師になった理由
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先生とふたりになった放課後、ふと思いついたことを聞いてみた。
「先生はどうして教師になったんですか?」
「どうしたの急に?」
軽く首を傾げて先生がリシアを覗き込む。
「一度聞いてみたかったんです。
先生のことあまり知らないなぁ、って思ったので」
リシアが先生について知っていることなんてごく一部に過ぎない。
何より……、好きな人のことについて知りたいと思うのは自然なことだった。
「君を誰よりも想っている、それだけでは足りない?」
色気を含んだ瞳で微笑まれてさっと頬に朱が差す。
他に人がいないとはいえ、そんな返事が返ってくるとは思わなかった。
「誤魔化さないでください」
そういう瞳をすればリシアが動揺するとわかっていてするのだから性質が悪い。
誤魔化されないんだから、と心で念じながら先生の瞳を見つめる。
「あ、話したくないことなら無理には聞かないですけれど……」
先生の瞳が物憂げに陰るのを見て意気込みがしぼんでいく。
「話したくないわけじゃないよ。
ただ、別に大層な理由があったわけでもないからね」
広げていた教本を閉じ、記憶を探るように一度目を閉じる。
「そうだね、大きな理由は暇つぶしかな」
先生は遠くを見るような目で語りだした。
「暇つぶし、ですか」
意外過ぎる言葉。
「そう、暇つぶし。
働かなければ食べていけないわけでもなかったし、屋敷や領地の管理は他の者がやってくれるので、私がすべきことは特になかったから」
管理をしている人、というところで一人思い浮かぶ。
「ジェフリーさんですか?」
「いや、屋敷はジェフリーが管理しているけれど、領地の経営はまた別の人がやっているよ」
否定されて納得する。
屋敷だけでも大変なのに流石に領地経営までジェフリーさん一人で出来る訳がない。
夏休みには会えなかっただけで、他にも人がいたのかとかえって納得できた。
「学園の教師なら授業をしているとき以外は自由だからね」
先生の言葉に頷く。
授業の準備や学園外講習の期間を除けば教師はかなりの時間が確保できる。
ベル先生なんかは空いた時間は自身の研究に充てている。それもあってか準備室の片付けに手が回らないのかもしれなかった。
「適度に変化もあって退屈するほどではないし、鬱陶しくなるほど干渉されることもない。
自分にうってつけの場所だと思ってね、教師になったんだ」
「そ、そうなんですか」
言葉に困る理由だった。
「そう。 幻滅した?」
頬杖をついてリシアを覗き込む瞳に力一杯否定を返す。
「幻滅なんてしません!」
あまりに力一杯だったからか先生が目を見開く。
「ちょっと意外でしたけど、それはそれで納得だったというか。
先生らしいかなぁ、って思いましたよ」
研究に没頭するベル先生や情熱的に生徒に接するメイローズ先生ともまた違う。
会ったばかりのころの先生は、どこか世の中から切り離されたみたいな空気をしていた。
「私らしい?」
きょとんとした顔で先生がリシアを見る。
もしかして先生は自覚が無いんでしょうか、浮世離れしていることに。
「はい」
リシアが答えると嬉しそうに笑った。
「そう、リシアは私の知らない私を知っているんだね」
嬉しそうな顔を見てもう少しだけ踏み込む。
「まだです」
「リシア?」
「先生のこと、もっともっと知りたいです」
ぎゅっと手を握りしめて訴える。
もっともっと何が好きなのか、何を見たら喜ぶのか、何を聞いて悲しむのか。
知りたいと思う気持ちは無限に湧いてくる。
時々見せる淋しげな瞳の理由も、いつか知りたいと思っていた。
先生の瞳が揺れ、戸惑うように頬に伸びた手がはっと気が付いたように頭に乗せられる。
黙って頭を撫でる先生。
じっと見つめるその瞳はどうしてか泣きそうに見えた。
「先生はどうして教師になったんですか?」
「どうしたの急に?」
軽く首を傾げて先生がリシアを覗き込む。
「一度聞いてみたかったんです。
先生のことあまり知らないなぁ、って思ったので」
リシアが先生について知っていることなんてごく一部に過ぎない。
何より……、好きな人のことについて知りたいと思うのは自然なことだった。
「君を誰よりも想っている、それだけでは足りない?」
色気を含んだ瞳で微笑まれてさっと頬に朱が差す。
他に人がいないとはいえ、そんな返事が返ってくるとは思わなかった。
「誤魔化さないでください」
そういう瞳をすればリシアが動揺するとわかっていてするのだから性質が悪い。
誤魔化されないんだから、と心で念じながら先生の瞳を見つめる。
「あ、話したくないことなら無理には聞かないですけれど……」
先生の瞳が物憂げに陰るのを見て意気込みがしぼんでいく。
「話したくないわけじゃないよ。
ただ、別に大層な理由があったわけでもないからね」
広げていた教本を閉じ、記憶を探るように一度目を閉じる。
「そうだね、大きな理由は暇つぶしかな」
先生は遠くを見るような目で語りだした。
「暇つぶし、ですか」
意外過ぎる言葉。
「そう、暇つぶし。
働かなければ食べていけないわけでもなかったし、屋敷や領地の管理は他の者がやってくれるので、私がすべきことは特になかったから」
管理をしている人、というところで一人思い浮かぶ。
「ジェフリーさんですか?」
「いや、屋敷はジェフリーが管理しているけれど、領地の経営はまた別の人がやっているよ」
否定されて納得する。
屋敷だけでも大変なのに流石に領地経営までジェフリーさん一人で出来る訳がない。
夏休みには会えなかっただけで、他にも人がいたのかとかえって納得できた。
「学園の教師なら授業をしているとき以外は自由だからね」
先生の言葉に頷く。
授業の準備や学園外講習の期間を除けば教師はかなりの時間が確保できる。
ベル先生なんかは空いた時間は自身の研究に充てている。それもあってか準備室の片付けに手が回らないのかもしれなかった。
「適度に変化もあって退屈するほどではないし、鬱陶しくなるほど干渉されることもない。
自分にうってつけの場所だと思ってね、教師になったんだ」
「そ、そうなんですか」
言葉に困る理由だった。
「そう。 幻滅した?」
頬杖をついてリシアを覗き込む瞳に力一杯否定を返す。
「幻滅なんてしません!」
あまりに力一杯だったからか先生が目を見開く。
「ちょっと意外でしたけど、それはそれで納得だったというか。
先生らしいかなぁ、って思いましたよ」
研究に没頭するベル先生や情熱的に生徒に接するメイローズ先生ともまた違う。
会ったばかりのころの先生は、どこか世の中から切り離されたみたいな空気をしていた。
「私らしい?」
きょとんとした顔で先生がリシアを見る。
もしかして先生は自覚が無いんでしょうか、浮世離れしていることに。
「はい」
リシアが答えると嬉しそうに笑った。
「そう、リシアは私の知らない私を知っているんだね」
嬉しそうな顔を見てもう少しだけ踏み込む。
「まだです」
「リシア?」
「先生のこと、もっともっと知りたいです」
ぎゅっと手を握りしめて訴える。
もっともっと何が好きなのか、何を見たら喜ぶのか、何を聞いて悲しむのか。
知りたいと思う気持ちは無限に湧いてくる。
時々見せる淋しげな瞳の理由も、いつか知りたいと思っていた。
先生の瞳が揺れ、戸惑うように頬に伸びた手がはっと気が付いたように頭に乗せられる。
黙って頭を撫でる先生。
じっと見つめるその瞳はどうしてか泣きそうに見えた。
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