46 / 47
卒業後
教師になった理由
しおりを挟む
先生とふたりになった放課後、ふと思いついたことを聞いてみた。
「先生はどうして教師になったんですか?」
「どうしたの急に?」
軽く首を傾げて先生がリシアを覗き込む。
「一度聞いてみたかったんです。
先生のことあまり知らないなぁ、って思ったので」
リシアが先生について知っていることなんてごく一部に過ぎない。
何より……、好きな人のことについて知りたいと思うのは自然なことだった。
「君を誰よりも想っている、それだけでは足りない?」
色気を含んだ瞳で微笑まれてさっと頬に朱が差す。
他に人がいないとはいえ、そんな返事が返ってくるとは思わなかった。
「誤魔化さないでください」
そういう瞳をすればリシアが動揺するとわかっていてするのだから性質が悪い。
誤魔化されないんだから、と心で念じながら先生の瞳を見つめる。
「あ、話したくないことなら無理には聞かないですけれど……」
先生の瞳が物憂げに陰るのを見て意気込みがしぼんでいく。
「話したくないわけじゃないよ。
ただ、別に大層な理由があったわけでもないからね」
広げていた教本を閉じ、記憶を探るように一度目を閉じる。
「そうだね、大きな理由は暇つぶしかな」
先生は遠くを見るような目で語りだした。
「暇つぶし、ですか」
意外過ぎる言葉。
「そう、暇つぶし。
働かなければ食べていけないわけでもなかったし、屋敷や領地の管理は他の者がやってくれるので、私がすべきことは特になかったから」
管理をしている人、というところで一人思い浮かぶ。
「ジェフリーさんですか?」
「いや、屋敷はジェフリーが管理しているけれど、領地の経営はまた別の人がやっているよ」
否定されて納得する。
屋敷だけでも大変なのに流石に領地経営までジェフリーさん一人で出来る訳がない。
夏休みには会えなかっただけで、他にも人がいたのかとかえって納得できた。
「学園の教師なら授業をしているとき以外は自由だからね」
先生の言葉に頷く。
授業の準備や学園外講習の期間を除けば教師はかなりの時間が確保できる。
ベル先生なんかは空いた時間は自身の研究に充てている。それもあってか準備室の片付けに手が回らないのかもしれなかった。
「適度に変化もあって退屈するほどではないし、鬱陶しくなるほど干渉されることもない。
自分にうってつけの場所だと思ってね、教師になったんだ」
「そ、そうなんですか」
言葉に困る理由だった。
「そう。 幻滅した?」
頬杖をついてリシアを覗き込む瞳に力一杯否定を返す。
「幻滅なんてしません!」
あまりに力一杯だったからか先生が目を見開く。
「ちょっと意外でしたけど、それはそれで納得だったというか。
先生らしいかなぁ、って思いましたよ」
研究に没頭するベル先生や情熱的に生徒に接するメイローズ先生ともまた違う。
会ったばかりのころの先生は、どこか世の中から切り離されたみたいな空気をしていた。
「私らしい?」
きょとんとした顔で先生がリシアを見る。
もしかして先生は自覚が無いんでしょうか、浮世離れしていることに。
「はい」
リシアが答えると嬉しそうに笑った。
「そう、リシアは私の知らない私を知っているんだね」
嬉しそうな顔を見てもう少しだけ踏み込む。
「まだです」
「リシア?」
「先生のこと、もっともっと知りたいです」
ぎゅっと手を握りしめて訴える。
もっともっと何が好きなのか、何を見たら喜ぶのか、何を聞いて悲しむのか。
知りたいと思う気持ちは無限に湧いてくる。
時々見せる淋しげな瞳の理由も、いつか知りたいと思っていた。
先生の瞳が揺れ、戸惑うように頬に伸びた手がはっと気が付いたように頭に乗せられる。
黙って頭を撫でる先生。
じっと見つめるその瞳はどうしてか泣きそうに見えた。
「先生はどうして教師になったんですか?」
「どうしたの急に?」
軽く首を傾げて先生がリシアを覗き込む。
「一度聞いてみたかったんです。
先生のことあまり知らないなぁ、って思ったので」
リシアが先生について知っていることなんてごく一部に過ぎない。
何より……、好きな人のことについて知りたいと思うのは自然なことだった。
「君を誰よりも想っている、それだけでは足りない?」
色気を含んだ瞳で微笑まれてさっと頬に朱が差す。
他に人がいないとはいえ、そんな返事が返ってくるとは思わなかった。
「誤魔化さないでください」
そういう瞳をすればリシアが動揺するとわかっていてするのだから性質が悪い。
誤魔化されないんだから、と心で念じながら先生の瞳を見つめる。
「あ、話したくないことなら無理には聞かないですけれど……」
先生の瞳が物憂げに陰るのを見て意気込みがしぼんでいく。
「話したくないわけじゃないよ。
ただ、別に大層な理由があったわけでもないからね」
広げていた教本を閉じ、記憶を探るように一度目を閉じる。
「そうだね、大きな理由は暇つぶしかな」
先生は遠くを見るような目で語りだした。
「暇つぶし、ですか」
意外過ぎる言葉。
「そう、暇つぶし。
働かなければ食べていけないわけでもなかったし、屋敷や領地の管理は他の者がやってくれるので、私がすべきことは特になかったから」
管理をしている人、というところで一人思い浮かぶ。
「ジェフリーさんですか?」
「いや、屋敷はジェフリーが管理しているけれど、領地の経営はまた別の人がやっているよ」
否定されて納得する。
屋敷だけでも大変なのに流石に領地経営までジェフリーさん一人で出来る訳がない。
夏休みには会えなかっただけで、他にも人がいたのかとかえって納得できた。
「学園の教師なら授業をしているとき以外は自由だからね」
先生の言葉に頷く。
授業の準備や学園外講習の期間を除けば教師はかなりの時間が確保できる。
ベル先生なんかは空いた時間は自身の研究に充てている。それもあってか準備室の片付けに手が回らないのかもしれなかった。
「適度に変化もあって退屈するほどではないし、鬱陶しくなるほど干渉されることもない。
自分にうってつけの場所だと思ってね、教師になったんだ」
「そ、そうなんですか」
言葉に困る理由だった。
「そう。 幻滅した?」
頬杖をついてリシアを覗き込む瞳に力一杯否定を返す。
「幻滅なんてしません!」
あまりに力一杯だったからか先生が目を見開く。
「ちょっと意外でしたけど、それはそれで納得だったというか。
先生らしいかなぁ、って思いましたよ」
研究に没頭するベル先生や情熱的に生徒に接するメイローズ先生ともまた違う。
会ったばかりのころの先生は、どこか世の中から切り離されたみたいな空気をしていた。
「私らしい?」
きょとんとした顔で先生がリシアを見る。
もしかして先生は自覚が無いんでしょうか、浮世離れしていることに。
「はい」
リシアが答えると嬉しそうに笑った。
「そう、リシアは私の知らない私を知っているんだね」
嬉しそうな顔を見てもう少しだけ踏み込む。
「まだです」
「リシア?」
「先生のこと、もっともっと知りたいです」
ぎゅっと手を握りしめて訴える。
もっともっと何が好きなのか、何を見たら喜ぶのか、何を聞いて悲しむのか。
知りたいと思う気持ちは無限に湧いてくる。
時々見せる淋しげな瞳の理由も、いつか知りたいと思っていた。
先生の瞳が揺れ、戸惑うように頬に伸びた手がはっと気が付いたように頭に乗せられる。
黙って頭を撫でる先生。
じっと見つめるその瞳はどうしてか泣きそうに見えた。
2
あなたにおすすめの小説
「お前とは結婚できない」って言ったのはそっちでしょ?なのに今さら嫉妬しないで
ほーみ
恋愛
王都ベルセリオ、冬の終わり。
辺境領主の娘であるリリアーナ・クロフォードは、煌びやかな社交界の片隅で、ひとり静かにグラスを傾けていた。
この社交界に参加するのは久しぶり。3年前に婚約破棄された時、彼女は王都から姿を消したのだ。今日こうして戻ってきたのは、王女の誕生祝賀パーティに招かれたからに過ぎない。
「リリアーナ……本当に、君なのか」
――来た。
その声を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく凍るようだった。
振り向けば、金髪碧眼の男――エリオット・レインハルト。かつての婚約者であり、王家の血を引く名家レインハルト公爵家の嫡男。
「……お久しぶりですね、エリオット様」
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた
せいめ
恋愛
伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。
大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。
三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?
深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。
ご都合主義です。
誤字脱字、申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる